廃サロンで手に取るCD

ブックオフ・図書館・TSUTAYAなど「文化の墓場としてのサロン」で入手してきたCDを紹介します。

玉石混淆な収穫まとめ その9

さて今回も玉石混淆レビュー始めていきます。Yu-koh以来ディグ欲が増進された気があって、こないだは中央線沿いのブックオフを、今日は世田谷奥地のブックオフをがっつり攻めてしまいました。お陰で積ん聴き盤の増えること増えること。やっぱり聴く時よりもディグ自体が楽しいっていうのはあるんですが、その割合をいい加減にしたいですね。買ったのに聴かないのは勿体ないですよ。と、自分に言い聞かせて5年くらいは経つんですが…。

話すことが特に無いのでコロナが与える廃サロン的ディグへの影響を。↑の通り中古屋には相変わらず足を運んでしまうのですが、図書館には全然行かなくなりました。現在都内の図書館の殆どでは有事(とか言ってはいけませんね)に対応した開館方法を採っており、基本返却と予約資料の受け取りしかできません。館内資料をディグるのは禁止。それでも普段から予約資料をごっそり受けとるのが利用方法の基軸な私なので実際それほど影響ないはずなんですがね。なんですが、最近なんだか図書館には足が向かなくて…。無論コロナの心配をしているのではなく、どうにも今図書館ディグの限界を感じてしまっている時期なんですよね。暫くは実店舗でのディグをメインでやっていきたいと思います…。今回紹介する盤も全て「購入」したものです!


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HACO「HACO」(1997)

渋谷のディスクユニオンにて500円で購入。HACOは1981年神戸発ニューウェーヴバンド「After Dinner」を率いた女性アーティストです。本作はそんな彼女のバンド活動停止後の米国レーベルから出たソロ作。After Dinnerって勝手にP-MODELやD-DAYの人脈だと思ってたんですが全然違うみたいですね…。バンド自体聴いたことなかったんですが、とにかくこの手のメジャーマニアック盤(?)にしては安価だったので購入してみました。

しかしこれは…アヴァンポップ全開な内容かな?1「Unguarded」は割かしポップで、デジロック化したSPY「女王陛下のチェスゲーム」のような趣だったので「オッこのノリなら純粋に楽しめそうだ」と期待しましたが、2以降はとにかく神妙で重い。打ち込みまみれなニューウェーヴを期待するとちょっと違うかもしれません。HACOのヘヴィな歌唱といいパーカッションやベースのアトランダムな構成といい、Phewや90年代のヒカシューの方が(広域な意味での)ニューウェーヴ界隈の中では近いかも。そう思って久々にPhew「アワ、ライクネス」を聴いてみたら記憶よりも重すぎて爆笑してしまいました。Phewってこんなオバケテイストだったっけ…?

1の他だと4「Sunday Virgin」が雅楽っぽくて好きです。基軸は日本~な音なのにトイ楽器が主張してきたり歌詞に「マカロニウエスタン」が登場したりと、そういうポエトリー楽曲かな?と思わせるような奇曲。

廃サロンディグでこのような「「聞く」でなく聴き込みたい」と思える作品を見つけてしまうと困りものなんですよね。全然次の収穫に着手できなくて…。でも全体的には大満足です。音楽におけるアヴァンギャルドって実は今かなりシーンや大聴衆の趣向から遠いところにあるような気がするんですよね。要するに「今聴きたい・聴いてもらいたい盤とは違う」ってことなんですが…。復権が待たれます。

https://youtu.be/7DEWd9mbbsA

HACO「HACO」


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Yamagata Tweakster「山形童子」(2012)

荻窪ブックオフプラスにて510円で購入。この間初めてこの店舗行ったんですが、いやーデカイですねー。入り口付近を見ただけだと「あれ…ここCDある…?」と不安に駆られてしまいますが奥に進むとしっかり広めのCDコーナーが。嬉々として3枚ほど購入しました。こちらはそのうちの1枚。

「Yamagata Tweakster」は2005年から活動する、Hahn Vad1人による韓国ダンスユニット。ハウスビートのシーケンスをバックにシンセで80'sディスコな味付けをしたシンプルな楽曲ばかりで、オフザケと社会派を横断する歌詞も特徴的。要するに向こうでも色物な存在みたいですね。こちらはそんな彼の日本編集盤。発売直後には来日公演も開催されたようです。

こう言っては難ですが、騙されました…。帯の「80's」「アリラン」「ポンチャック」、極めつけは「コリアンチルウェイブ」の文言に期待し過ぎた~。歌詞が「韓国語という音」としか捉えられない身としては全てを音として聴くしかない訳ですが、とにかく爽やかすぎて毒を感じない。そして冗長。「80's」という時点でBPMに期待してはならないと気づくべきでした。あのー、例えが非常によろしくないのは承知の上なのですが、俗好きなので砂原氏の諸作を聴くと若干物足りなさを感じることがあってその感じを本作からも受けました。作品自体は文句の付け所がないもののフックが無い、のかな…。

逆に言うと「珍妙なシンセウェイヴ」を期待する方にはうってつけ盤なのかもしれません。それほど希少盤でもないはずなので韓国電子音楽インディーシーンに触れてみたい方は是非(このレビュー読んで聴きたがる人がいるかどうかは別として)。がんばれアジア!

https://youtu.be/ktGqteU28hk


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三田村邦彦「OLD/NEW」(1987)

渋谷レコファンにて500円で購入。テクノ系が二作続いたので急に歌謡曲に寄せていきます。言わずと知れた大御所俳優三田村邦彦のCDですが、意外?にも入手困難で、少なくとも私の活動範囲の中でレンタルできるのが文京区の図書館に所蔵のあるベストアルバム一枚のみです。それには昨年訪れたジャスコテックイベント「ジャスコランド」にてどなたかがかけていた最高なブギー歌謡曲「君はパラダイス」や「追憶のサファイア」といったシティポップ寄りの楽曲も収録されていました。三田村の声、地味ながら染みるんですよね。歌謡曲に振り切った新沼謙治のような朴訥としたクールネス。ベストだけでなくオリジナルも1枚くらい聴いてみたいな、とは思っていたのですが、ネット市場だとどの中古盤もやけに高い!(8000円程度の価格設定が散見されます…)なのでジャケのつまらなさ(失礼)は置いといて500円という価格に惹かれて買ってしまいました。

結論から言うと、全体的に舘ひろし系のハードボイルドロック歌謡という趣なので個人的にはあまりお勧め盤とは言えません。社会のはぐれ者の恋物語…な空気が詞にも音にも充満してます。若干色付け程度にシンセが使われる場面もありますが、基本はバンドサウンドでシティポップといえる楽曲もなし。6「アース・ウィンド」は若干ニューウェーヴ擬きかな?と言える程度。あ、7「東京ホームシックガール」の作曲はソロ作やブランニューオメガトライブ(BNOT)でお馴染み新井正人(同姓同名の可能性アリ)です、が、特に特筆すべき点はないです。ストリングスアレンジの中庸な歌謡曲。悪くはないんですけどね。8「IN・じゃ・NIGHT」は作詞で世良公則が参加。世良が参加してるの、かなり本作の世界観っぽい。メジャーロック歌謡でまあまあ良きですが、タイトルはどうにかならなかったんですかね…。本作のリードチューンは2「ロンリーマン」なんだと思います、前述のベストにも収録されていました。伊武雅刀のソロ作「銀座の爆発野郎」とかザ・ヴィーナス「キッスは目にして!」を彷彿とさせる爆裂歌謡でフックはありますがいきなり「真夜中に行きたくなるオンナ」は無しでしょう…笑 聴いててかなりこそばゆいです。

三田村のベストを安価で見つけたら買ってヨシですがオリジナルは慎重にどうぞ、という結果になりました。彼の楽曲自体、YouTubeには必殺仕事人関連のものしか上がってませんので判断しにくいところでしょうが、悪いことは言わないので「君はパラダイス」あたりが収録されている盤を入手することをお勧めします…。


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増渕容子「気持ちをまわして」(製作年不明、80年代後半~?)

錦糸町ブックオフにて290円で購入。出ました、ネットに全く情報のない謎盤です。アーティストは増渕容子、レーベルは「林檎プロモーション」となっております。この会社が曲者で、どうやら当時20歳だった増渕が同年代の友人数名と共に立ち上げた今で言うインディーレーベル。音楽に拘らず、「芸能界のシステム(スカウトからの芸能界入り、金・コネ等)に頼らない、やる気と元気と熱意によって」タレント養成を行うことを目指していたようです。当初はかなり苦戦したようですが、やがて「素人によるプロダクション」ということで話題になり、所属していたきゃんみゆき(沖縄の人らしいですね)というタレントも幾つか仕事を得られたそう。↓がそのひとつですが、ヤバいPVですね…最高。カードがグルグルしてるとこ、病気の時の夢かな…?

https://youtu.be/meSuhXgCStw

きゃんみゆき「すたぁ行進曲」

きゃんのことは置いといて、本作はそんな林檎プロモーションの代表であった増渕によるソロ作。こちらの販売方法がまた変で、投げ銭方式でした。

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↑がブックレットの記載なのですが、要するに盤は無料配布で気に入れば指定の口座に振り込んでくれと。気に入らなければ他人にあげてもいいし、逆にもっと人に勧めたいのであれば振り込みの際所定の用紙に希望枚数を記入してくれれば送るよーとのことです。じゃあ元々本作はどこで配布されていたのか…?彼女が参加したイベントやレコード店なのか、全く分かりません。イベントといえば、YouTubeに上がっている数少ない関連動画の中に林檎プロモーションの原宿ホコ天でのPR活動の動画がありました。こういうところで手売りならぬ手配布してたのかな?

https://youtu.be/WL4sEfnhXOU

林檎プロについては以上です。というかこれ以上何も分からないんです。

 

さて本作「気持ちをまわして」ですが、この昭和~で地味~なアートワークにも関わらず手に取った理由は「ネットに全く情報がない」のも1つですが、何より外枠に関するところを除くクレジットが「シンセサイザープログラム…増渕容子」のみだったことです。「これは早すぎた宅録アイドル盤か!?」とフォーキーなジャケを無視して思ってしまった訳ですね。実際聴いてみるとThe宅録以外の何物でもないんですが、これは自作カラオケ音源に合わせて歌ってる素人レベルと言って差し支えないでしょう…。加納エミリじゃなくてジャガーさんかよ!1「田舎のねずみになりたい」の忙しないパーカッションとヘロヘロのボーカルの化学反応はある意味アイドルソングっぽいですがとにかく歌詞がね…。2「眠れない夜が」、一転なかなか良いかも…?ボサ風なパーカッション(とにかくパーカッションが際立つ作品ですね)にメロウな歌詞と展開。しかし高音が苦しそうだなぁ。曲名で唯一期待していた6「B級レディス」はマーチ調…。買い物上手だけど切ない女の子(OL?)の自虐ソングですが、あえてコミカルな歌唱にしてるのがむず痒いです。それよりは2や7「灯りのともる窓から」のような気取った歌い方の方が「普段歌うまいけど今日は酔っぱらってるからちょっと調子悪いかな?って感じの女の子」とカラオケに来た気分になれてまだ良いのに…。シンセ使いに関しては9「銀の天使」のイントロのズズズッぷりからも分かるように「ジャガーさんよりは牧歌的でないけど特に技巧的でもない」というレベル。勿論シティポップやディスコ歌謡は無し。

当時1人で音楽をやるって今よりも何倍も大変だったんだろうなぁ、ということを痛切に感じました。どこまで彼女の頭の中にあったものを再現できていたのかは察することすらできませんが…。もし彼女がDTM黎明期の現代に活動を開始していたならまた違ったんでしょうか…?そのようなことに思いを馳せられただけでも本作を買った意味がありました。聴きたい方、いらっしゃいましたらお送りしますよ。勿論投げ銭方式で。

 

という訳で、今回は図らずも殆ど「ビミョー盤」ばかりの紹介になってしまいました。これなら「中級」のままで良かったかもな。いや、名盤も結構引いてるんですけどレビューする時期を自分の中で逃してしまうんですよ!すっかり愛聴盤になってしまうとアレコレ認めるのが逆に億劫で…。次こそは少しは名盤を入れた玉石混淆にしたいと思います。では。