廃サロンで手に取るCD

ブックオフ・図書館・TSUTAYAなど「文化の墓場としてのサロン」で入手してきたCDを紹介します。

玉石混淆な収穫まとめ その10

家に籠りっきりで暇な今こそ玉石混淆レビュー。10回目記念ということで今回こそは名盤に絞りましたよ。導入ゼロでいきなり始めていきます。

 

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光岡ディオン「アクエリアム」(1991)

大田区の図書館にてレンタル。ハーフタレント・コメンテーターとして活動する光岡ディオンの唯一のアルバムです。彼女の夫はThe Boom宮沢和史、息子も芸能界で活動中。

本作、先日Twitterでななきさとえさん(元MAHALIK HALILIのボーカリスト。先日ソロ2ndアルバム「パンドラの呪文」がCDで再発しました。おめでとうございます)にオススメしていただいた盤でございます。廃サロンのシシリアのアルバム「香港ハーバーライト」の記事をご自身のTwitterにてご紹介下さったななきさんにお礼をしたところ「本作と聴き比べると面白いですよ!」と。調べるとどちらにもななきさんがご参加されていまして…。どうやら2作の参加陣の被りが多いらしく、楽曲に関しても「香港ハーバーライト」「ちょっと待って下さい」の2曲が被っています。シシリアのアルバムが大変お気に入りな身からすると「これは聴かねば!」な案件。即図書館サイトで取り寄せたという訳です。というか、このジャケなら聴かない手はないでしょう。トロピカル過ぎて現地(どこ?)の歌謡盤が霞みそうなインパクト。俗名盤の匂いがビンビンします。トレンディエスノな雰囲気とはまた違った濃さ。

一聴したところ、全体的に常夏の穏やかさ漂う、BPM抑えめ(ディスコ歌謡など皆無)の平和なユートピアアイランド作品という印象を受けました。安西史孝氏による全曲アレンジが俗と上品を優しく往き来している。光岡の声は天真爛漫でキュートな、悪く言うと「ガールズポップ歌わせていたら中庸で収まって終了かも」な危うさのある質感。しかしながらハーフタレントという特性?を活かした南国コンセプトな本アルバムの中では、声量の加減が良いのか心地よく聴けます。技巧的でない故の無垢さが正しく作用している。

いきなりチャチャチャで始まるのがいいですね。1「マーメイド・チャチャ」は家にいながらにして「南フランスの小島のマーメイド」気分よ!という可愛らしい楽曲。ななき氏による一戸建てファンタジアな作詞がなんとも「らしい」というか、穏やかに変で最高です。ななき氏は2「南極のエンジェルフィッシュ」でも作詞を担当しています。こちらは水族館デートの曲ですがキュートの中に潜む独特な女の子の価値観が味。ガールポップライクな能天気さを纏う歌詞にボッサなアレンジが「正しい」です。タイトルの文言がBメロに一回だけ登場する曲好きなんですよね…。ハワイアンカントリー(初見の概念)な3「ブルー・ムームー」、タンゴなのにエキゾチックな4「Somewhere in Time」を経て次は野村義男(あのよっちゃんなんですかね…)作詞の5「太陽san-sanパラダイス」。アレンジ自体は奇をてらわない正統ハワイアンですが歌詞は一言で「エアコン大好き」というもの。タイトルどこ行った?でも愛嬌あるなぁ。フーミンのデビュー曲じゃないよ!な7「ズビズビズー」は森山加代子という歌手のカバーなんですね。安井かずみが「みナみカズみ」名義で日本語訳。タイトルを何度も繰り返して歌唱しているという体裁の楽曲ですが、どうにも架空のノスタルジックを誘う南国恋慕な好カバーです。アコーディオンの作用?

 

https://youtu.be/i0EBXF8ZoY8

森山加代子「ズビズビズー」

折角なので元のカバーをどうぞ。

 

件の9「香港ハーバーライト」ですが、アレンジはシシリア版よりも豪勢でガチャガチャしています。「オールドスクールチャイナ」なベースは同じですがそこそこ印象変わりますね…。光岡の歌唱も他の楽曲よりも押さえ目で終盤にもってこいな加減になっています。シシリア版を聴いている身からすると、無名なオリジナル楽曲なのにも関わらず二人も歌ってることから優しい曲調も相まって「チャイナの唱歌かな?」と錯覚してしまぃす。ラストを飾る11「ちょっと待って下さい」もシシリアと共通で、これもまた良い。シシリア版のカタコト具合はエキゾチズムの権化で素晴らしかったですが、ボーカルの違いでグッと来方が変わりますね。こちらの方が伸びやかで、シシリア版の迫真さが抑えられていることから聴きやすい。シシリア版、理由も証拠もない「ごめんなさい」感があるんですよね、男だからかな…?以上の2曲、南国ナイズなアルバムの中で異質なはずがメロウものとして溶け込んでいるのが意外。

いやぁ、良いアルバムでしたね…。ワールドミュージックブームの最中に生まれた日本産エスノ歌謡はこれまでの私のディグの中でもちょこちょこ散見されてきましたが、ジャケの完璧さとそれに反して楽曲の圧の程よさから考えるとかなりの名盤だと言えます。ここまでの作品を自力で見つけられなかったのは惜しいところですが、出会えて良かったです。改めてななきさん有り難うございました。

 

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パウロ・セザール・トリオ「ボサノバ・ブリージン~アイドルのバイブルをボサノバで」(1991)

砧のブックオフにて290円で購入。タイトル通り70-90年代の女性アイドル歌謡ボサノヴァアレンジ作品です。ボーカル無しのインストもの。ヒット曲の成れの果てのひとつである伝統芸能こと「ボサノヴァアレンジ」ですが、素材がJ-POPではなくアイドル歌謡であったことやシャープな安西水丸のようなタッチのジャケに惹かれ手に取ってしまいました。カクテルが題材のジャケ、良いですよね…。ブックレットを開くと曲の解説やクレジットを差し置いてキュラソ(リキュール)の解説や「ボサノバ・ブリージン」なるカクテルの作り方が載っていました。こういう「音楽と併せてみてはいかが…」なオマケ、大好きです…。

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パウロ・セザール・トリオはネット検索の限り本作とクリスマスソングのアレンジアルバムを発表しています。トリオを率いるパウロ・セザールは小野リサと活動を共にしていたキーボーディスト、パウロ・セザール・ゴメスのことかと思われます。あとはアレンジャーとしてアニメの劇伴の仕事が多い荒川敏行宮崎慎二が参加。それ以外の情報はあまり分かりません。

えてして馬鹿にされがちなボサノヴァアレンジという手法ですが、本作はなかなかクオリティが高いと思います。演者が匿名でないことから自信が窺えなくもなかったのですがここまでとは。シンプルながら貧相でもない楽器・音数、無理なく聞き流すことも浸ることも厭わないアレンジ具合。「カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生」という漫画の存在を思い出すまでもなく、カフェよりもダイニングバー以上の場に対応可なクオリティを全編通して保っていると思います。2「MUGO・ん…色っぽい」7「ダンシング・ヒーロー (Eat You Up)」のような、原曲が打ち込みまみれな楽曲がそつなくボッサ化されているのは凄い。サポートのフルートによる妙でしょうか。楽曲によっては「JAZZとボサノヴァの違いって…?」という問いに発展するようなものもありますが、単一の作品として聴くには問題ナシ、ですかね。あ、でも8「艶姿ナミダ娘」は入りが完全にフラメンコ。別にいいけど。選曲は聖子・明菜が3曲、ミポリンと百恵が2曲、その他は一曲ずつです。捻り無しの順当なところかと。

カバーだと意識せずにふとした時に聴いたとしたら「普通に良いボサノヴァだなぁ」と思ってしまうほど無理のない作品。私は初めて見つけて購入しましたが、さして入手困難ということもなさそうなので安価でしたら買ってみてもいいかと思います。結構愛聴盤になりそう。


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ペク・ジヨン「Baek Ji Young 2集 Rouge」(2000)

こちらも砧のブックオフにて290円で入手。韓国の歌手ペク・ジヨンのアルバムです。本国ではメジャーなアーティストっぽいですが日本ではそんなにかな?私も存じ上げませんでした。のっけから少し脱線しますが、最近のブックオフの290,510円CDコーナーで邦楽をディグろうとすると、「J-POP あ行」の前に「アイドル」「ヴィジュアル系」「K-POP」が構えてますよね?前2者はここ10年以内の新しめな盤が殆どなので好み的にスルーするのですが「K-POP」のコーナーはそうでない2000年前後の盤もごくたまに潜んでいるのでウォームアップも兼ねて一応目を通すようにしています。もちろん韓国ディスコ歌謡「ポンチャック」目当てです。本作も色味のどギツいジャケから漂ういかにもな2000年感に打ち込みの重めなポンチャックが収録されているのでは、と軽くYouTubeで試聴した後に購入。聴き流してみたところ、そこそこの名盤でした…。

とはいえ全体的にはこの時代のK-POPと似たり寄ったりな作風なので特筆すべきところが少ないのも事実。そもそも私自身K-POPに明るい訳でもないんですが…。ここで触れておきたいのはやはりリードチューンである3「Dash」と5「Sad Salsa」。どちらもPVが制作されていますが、音にしろ映像にしろポンチャックの掟を遵守していて良い。3は泣きメロな仕組みなものの打ち込みの圧が気持ちよく、おまけに間奏でKONTAっぽいサックスが小気味良く吹かれています。ポンチャック(その意識が本作に込められている訳はないのでしょうが)にサックスが介入しているのを初めて聴きました。PVは安っぽいスパイ映画オマージュ?嫌いじゃないですこういうの。

 

https://youtu.be/X6cYhLZuLhI

ペク・ジヨン「Dash」

 

一方5はタイトル通りサルサポンチャック。いやーこちらもシンセが重い。どっしんどっしん言ってます。廃サロンの中で「打ち込みまみれで格好いい」というような評価をしてあるものは大体本作のようなレベルのものだと覚えておいください。やっぱり俗っていいなぁ。PVではベリーダンスの衣装?で踊り狂っていますね。

 

https://youtu.be/7dl9srk--dc

ペク・ジヨン「Sad Salsa」

 

尚本アルバムには件の2曲の「Club Cut(「ハードコアリミックス」のような意味合いだと認識しています)」も収録されておりお得。ビートがマシからマシマシになっているのでなにか物足りない時にいいですね。

その他触れてない収録曲もダンスものが多くて大満足でした。ブックオフで入手したアジア盤の中だとかなり当たりの部類です。YouTubeで大体聴けるので必ずしも所有している必要はないかもな本作ですが、どんな形であれ聴いてみていただけると面白いと思います。もっと気が向いたらポンチャックにも触れてみてね。


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「商売繁盛」(1995)

荻窪ブックオフプラスにて290円で購入。おなじみのニューエイジ・ヒーリングレーベル「Della」から発売された「マインドコントロールサウンド」シリーズのひとつです。本シリーズ、「集中力アップ」だとか「実力発」「プラス思考」等、潜在能力や感情に作用するテーマのものが多いんですが、一部極端に俗っぽい効果をもたらす作品も潜んでいるようです。「開運」「禁煙」等は知っていましたが、本作はずばりタイトル通り「商売繁盛」。ネット上に詳細な情報がないのは勿論、ソニーウォークマン用音楽管理アプリ「Music Center」に取り込んでもCD情報が登録されていませんでした。今までどれだけニッチな作品でも大抵のCD情報が登録されていたのですが…。アーティストや曲目も全く分かりません。

ブックレットを開きつつ聴くという段階に至るまで「聴く者が営む商いが繁盛するようになるのか…」と勘違いしていたのですが、一聴してそのあからさまなミューザック感を堪能して「あ、客に聴かせんのね」と気づきました。案の定ブックレットには「聴くと何か買いたくなります(概略)」との記載が。Dellaからリリースされているニューエイジ作品はどれも素晴らしいですが、こちらはしっかりジャスコテックしているように感じます。と言ってもオマージュとしてのジャスコテック作品と比べると当然実用的で牧歌的要素が強いのも確かで、決して大袈裟な展開のものではありません。スクリューさせればきちんとMallsoft化すること間違いなし。ちょっと昔の中流層向けスーパーマーケットにいる気分になれますよ。七福神ジャケに抵抗が無ければ見つけ次第拾ってあげてください。

 

蛇足ですが。この間仕事帰りに自由が丘のブックオフに行ったんですけど、あの店舗にしては久々に何もめぼしい物が見つからず虚ろな目で棚を見つめていました。そんな時中村善郎というボサノバアーティスト(恥ずかしながら知りませんでした)の90年代のアルバムが目につきました。何気なしにケース裏を見るとクレジットに木村恵子の名を発見。数曲にデュエットで参加しているようです。慌ててYouTubeで試聴してみるとやはり「Style」やケルカンでお馴染みのあの木村で間違いない。まー今日の収穫はこんなもんかな、と一応地元の図書館サイトで検索を入れてみると「所蔵あるじゃん…」。ディグでこれほど白ける瞬間も他になかなか無いかもしれません。隠れ名盤が2000円以上するのを発見したときくらいですかね。勿論タダで借りられてラッキー!なのは違いないのでしょうが、それ以上に「辛うじて一枚」収穫として持ち帰れるかもという時に出鼻を挫かれるあの感じ。結局全てが時間の無駄だった、で終わってしまうんですよ。入荷の入れ替わりがさして無い内に同じ店舗に2度行ってしまったときにも同じようなことが起こりうりますね。なので最近は交通費を費やしてでも少し遠めの地に赴いてディグをすることも増えてきました。無粋…。

ではまた次回お会いしましょうー。