廃サロンで手に取るCD

ブックオフ・図書館・TSUTAYAなど「文化の墓場としてのサロン」で入手してきたCDを紹介します。

玉石混交な収穫まとめ その15

珍しく短いスパンで更新してみました。

私事ですが、この度辞令が出まして、6月より現在の勤務地から異動することになりました。とはいえ相変わらず都内勤務には変わりなく。ただ、現職場の近くにある図書館に約3年間足繁く通っていたのでそこだけが名残惜しい部分です。その某区はCDの新譜に強く、地域住民もそのことに気づいていないのか、TSUTAYAで新作扱いされている作品でもヨユーで借りることができるのです。ディグにおいて購入よりもレンタル優先のスタンスで取り組んでいる私としてはちょっと残念なんですよね。新天地(引っ越しはしませんが)の図書館はそれほど強い所蔵がないようなので、異動するまでの約2週間というタイムリミットの中でギリギリまで聴きたい盤を借り尽くしておきたい所存でございます。

それでは今回は3枚をご紹介。いずれも「タレント盤」に該当しそうな作品です。


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所ジョージ井上鑑「「デジタル所さん」サウンドトラック「電脳音楽集」」(2001)

御茶ノ水ディスクユニオンにて200円で購入。2000年より放送されたCGアニメ「デジタル所さん」で使用された楽曲を収録したサントラ盤です。所ジョージといえば世間一般的には「所ベースなど、趣味を映してもらって食ってる人」「VTR主体の中庸な番組で映像を観てるだけのタレント」「特に何もしてないのに好感度がやたら高いタレント」という底意地の悪い括られ方をすることの多い(私だけの主観かもしれませんが…)人物ですが、一応肩書は「ミュージシャン」です。ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの前座・お付きの歌手としてデビューし宇崎竜童からの愛重を受け、ステージでの軽妙な語り口を見出されTVデビュー。初っ端から司会の立ち位置が多かったようですね。90年代だと不定期で「ものまね王座決定戦」の司会を務めていたり、そんなこんなで現在ののらりくらりとしたスタンスを築き上げた、というのがざっくりとした所ジョージ史となります。そんな経歴の中、誰が企画したのか2000-2001年に日本テレビ系で「デジタル所さん」というCGアニメが放送されます。カートゥーン調で描かれた二頭身の所ジョージとその愛犬インディー(笑)が巻き起こすドタバタコメディを主とした5分アニメーション。深夜帯の放送だったのでそれほど認知されていないようですが、所が「みんなのうた」に「歩いてみっか!」を提供した際に付けられたアニメーションと同じ制作会社の手によるものなので、そちらでビジュアルを観たことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。そしてその放送前期の音楽監督を手掛けたのが、あの井上鑑(後期はアニメーションの音楽監督の多い大谷幸)。井上は当時所のアルバムでアレンジャーとして参加することが多く、そこでの縁でしょう。脱線しますが、所ジョージの音楽性とは、まず歌詞は(大衆の予想通りかもですが)植木等嘉門達夫を足して2で割ったようなもの。朴訥としたお調子者コミックソングをこれまで異様なまでの数発表しており、ソロアルバムのディスコグラフィーも相当数(2021年現在で29枚!)です。また、トラック面を見るとこれは完全にアコギ主体のブルースばかり。ここからも彼の趣味人らしさが伺えますね。

当然の成り行きながら本作も、サウンドトラックとはいえ中庸なブルース調のインストが散りばめられています。しかしそこは井上鑑の監督作品、デジタルな打ち込みサウンドも多用されています。「電脳音楽集」というタイトルなのでむしろ打ち込みが大半を占めてほしかったものですが…。そのうち目、というか耳を惹くトラックとしてはカントリーと4つ打ちが気持ちよく融合された「CITY SLICKER」、「カノッサの屈辱」のOPを電化しただけか?と思うほどパクリ感溢れる「BASEMENT」、キック強めで気持ちいいラテン秀作「SECRET SOCIETY」、まさかのドラゴンファンクな「CHINESE WALL」「CHINESE LANTERN」等。いずれも1-1.5分程度の楽曲なのでカンフル剤的に聴き上がることができます。逆に言うとその他は至ってサントラ的で中庸。しかし隠し玉は最後にございました。本作にはインスト以外にも所による歌モノが4曲収録されていますが、ラストトラックである「泳げたいやき屋のおじさん(ヒトマカセヴァージョン)」が至高なのです。「泳げ〜」は同期に発表された所のソロアルバム「洗濯脱水」にも収録されている、言うまでもなく「およげたいやきくん」の替歌なのですが、そちらはアコギのみで奏でられた軽やかで四畳半な印象のトラック。しかしながら本作に収録された「ヒトマカセヴァージョン」はまさかのユーロビートアレンジ。どちらかというとパラパラ舞踊向けなトラックにイメチェンされ、BPMも激早に変貌しています。後奏では一瞬ピンクレディー「カメレオン・アーミー」のイントロをオマージュしたようなフレーズも登場し(意図的なわけないよな、多分)、大変興味深いアレンジとなっております。当楽曲はアニメでも重用され、楽曲に合わせて所ジョージとインディーがパラパラを踊るだけの回、という謎放送が幾度も制作・放送されていました。↓を観ていただければ「全て」がお分かりになるかと。所ジョージとパラパラ…。

デジタル所さん #015 スロットでパラパラ - YouTube

 

以上、200円ぽっちで我々の所ジョージ観が変わる珍盤でした。大してレア盤でもないので「泳げ〜」欲しさに手にとってみるのはアリかと思います。


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岡安由美子「パリの中国人」(1987)

こちらも御茶ノ水ディスクユニオンにて680円?で購入。結構前のことなので失念してしまいました。女優にして歌手・カーレーサーの面も持つ岡安由美子の3rdにしてラストアルバム。当ブログでもかつて言及しましたが、私は「男女7人物語」が結構好きなので本作も見つけ次第即購入に至りました。元々彼女の歌唱はゴールデン・ベスト等で聴いたことがあり、その「棒」っぷりは存じ上げていたのでそれほど期待せずに…。内容は案の定です。ジャケやタイトル、曲目から「バブル・エスノポップもの」としてかなり期待してしまう作りになっているのですが、歌声もトラックも「そうでもなさ」が際立ちます。結論から申しますと、本作はジャケの素晴らしさで評価を完結させてしまうのが良いでしょう。アートワークだけ見れば正直これ以上のものは中々発見できません。当時のananの表紙から飛び出してきたようなコーディネート、凛とすました岡安の表情。これで音がバキバキならなぁ。歌手活動初期のような元気いっぱいボイスが比較的影を潜めているので聞き苦しいとまでは言いませんが、彼女の低音がフューチャーされているからこそその表現力の浅さが目立ってしまい残念。トラックももう少しエスノっぽくあれば良いのに、ハンパにビッグバンドや中庸なギターサウンドを採用していたり、打ち込みにも拘りが見えなかったりと、はっきり言って全部聴き切る前に飽きが到来してしまう。唯一「オッ!」となるのは表題曲「パリの中国人」くらいでしょうか。歌唱もそこそこにインスト、というか洋画創成期のような印象のサンプリングが多用された箇所が渋くてカッコいい。この路線でもう少しコンセプチュアルなつくりにした方が良かったのでは、と悔やまれます。

もう一度言いますが、ジャケは最高。安値で手に入ればインテリアとして採用してもいいかもしれません、という最悪な締めで失礼します。


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石野陽子「Kissまで待てない」(1989)

目黒区図書館にてレンタル。石野真子の妹にして女優の石野陽子(現いしのようこ)のアイドル期にリリースされたアルバムです。「志村けんのだいじょうぶだぁ」でコメディエンヌとしての頭角を表し始めた頃の作品ですね。まずはCDジャーナルのサイトからレビュー文を読んでみましょう。

 

「なんだかんだいったってこの娘はしぶとい。そのへん姉ゆずりかしら? 得意の都会娘のうつろい描写ものが主だが楽曲のメリハリではかなりいいもの出ている。歌謡色を濃く出したのが勝因であろう。ジャケットがぶっきらぼうで不親切。写真は多めに。」

 

と、毎度の如く冷たく吐き捨てるような文章ですが、なかなかどうして高評価に当たるんじゃないですか。実際聴いてみても、当時にありがちなユーロビートカバーをメインに据えたノれる楽曲が多く、バブル前後の打ち込み好事家の私としてもかなり好みの作品となりました。表題曲「Kissまで待てない〜My World〜」(イタリアのユーロビート・シンガー、Sophieによる「My World」のカバー曲)から始まり、続く「ロマンティック神楽坂」(なんちゅータイトルよ)への流れがいきなりディスコ歌謡してて至高でございます。その他ロカビリー歌謡してるものあり(「ロマネスク・ヨコハマ」)、少女アイドルらしくもありつつカラオケスナック対応な謎な立ち位置の楽曲あり(「雨のチャペル通り」)、全編ほぼ捨て曲ナシの秀作となっております。前述のレビューでも言及されておりましたが、ザ・歌謡曲な打ち込み具合と石野のアンニュイで危なげながらずっコケない歌声が有象無象に消え入ってしまわぬ「芸能界」っぽさを保ち得るクオリティに仕上げているように思います。華々しくはないものの確かなパワーがあり、一流のB級として活きている。逆に言えば王道を行き過ぎてギミックに欠ける節があるのでどこまでもベストアルバム的(実際ベストアルバムだったような気もしますが失念)。架空のヒット歌謡をひたすらに聴いている感に陥るので和モノとは一線を画します。でも本当に良いアルバムだと思いますよ。

石野陽子 KISSまで待てない-MY WORLD- - YouTube

 

シングルの「ロマンティック神楽坂」のジャケが最高すぎて…。おやじGALS「今夜はオ・イェー!」と並べて棚に飾りたい…。

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