廃サロンで手に取るCD

ブックオフ・図書館・TSUTAYAなど「文化の墓場としてのサロン」で入手してきたCDを紹介します。

第12回 やや「ベストナウ やや」

久しぶりにCD一枚で一本のコラムを書いてみます。VHSや古雑誌の探索と平行してCDディグも通常ペース(通常:休日の度に図書館でCDを10枚借りる程度)で継続していましたが中々「これは!」というアーティストやアルバムに出会えず難産でした。前回の中級収穫も実は前々から少し書いては中断し、を繰り返していたものだったんですね。ひとつ前のCD一本でのレビュー、安斉かれんの0円8cmシングルから結構経ちましたが、現在当サロンで最も閲覧されているのはその記事です。ディグでもなんでもない記事が最も読まれているのは複雑ですが有難い限りでございます…。

つべこべ言ってないで本題に入りましょう。「バブル!」「トレンディ!」とうるさい当サロン。80-90年代頃の「俗」を愛好しているとどうしてもディグの対象がそういった趣、もしくはその延長線上にあるカルチャーになってしまいます。本来はディグの最大の醍醐味でありそうな「世間の認知度が低い良作なのか否か」は二の次で、ただただ時代に見捨てられた「俗」を追い求めてしまうディグライフ…。と嘆く遥か前に当ブログを何度かお読みの方はとっくにそんなのお気づきでしょうね。

 

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やや「ベストナウ やや」(1990)

東芝EMI TOCT-9065

 

目黒区の図書館にてレンタル。今回取り上げるのは「超有名「俗」アーティスト」、やや(小島八重子)です。いや~最近一日中ずーっとややのことばっかり考えてましたよ。今もしもインタビューで「今一番ハマっているものは何ですか」と訊かれたらVHSとかそっちのけで「やや!」と即答してしまいそうです。インタビュー受ける身分じゃなくてよかった。

1959年生まれ、かねてより芸能界入りを希望し、その「(良い意味での)場末なハスキー声」を用いて1982年に覆面ユニット「ヒマラヤ・ミキ&MODOKEES」として平山みきの代表曲「真夏の出来事」をカバーするなどして活動開始。そして1985年、いとうせいこう氏がプロデューサーとして初めて手掛けたことでも知られるヒップホップコンピレーションアルバム「業界くん物語」(コメディドラマVHS化もしています、ネット上に結構動画が上がっているのでそちらをどうぞ)に「夜霧のハウスマヌカン」で参加。本曲が翌年シングルカットされ「タモリ倶楽部」等で取り上げられたことからヒット。1986年の日本有線大賞にて新人賞を獲得し一瞬時の人となります。その後は北島音楽事務所に所属、1990年には(当時女性歌手の全員が歌っていたような気がする)「ランバダ」を彼女もリリースし便乗ヒット。しかし2000年に姉が亡くなり、それを切欠に実家の鉄工所の社長に就任し一時引退状態に。ただここで終わることなく、2014年に自主レーベル「ややレコード(!)」を設立し、現在も僅かながらリリース・営業活動を継続しております。こう言っては難ですが、所謂一発屋と見なされる方です。

私は正直今まで「夜霧のハウスマヌカン」及び彼女の存在をぼや~っとしか知らず(世代ではないので…)、先日たまたまYouTubeで「夜のヒットスタジオ」での歌唱映像を観て「何故今まで知らなかったのか…」と大いに悔やみ即図書館のサイトを回って検索。すると意外に所蔵がなく、その中でベストアルバムである本作をかろうじてレンタルできた、という訳です。彼女はオリジナルアルバム「花道~HA・NA・MI・CHI~」をリリースしているのですが、収録曲はほぼこの「ベストナウ やや」がカバーできているのでとりあえずこちらで我慢しました。でもジャケが最高なのでいつかは入手したい一品です。↓

 

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やや「花道~HA・NA・MI・CHI~」(1987)

 

ハウスマヌカン」なのでマネキンなジャケ、ややのニューウェイビーなメイクも相まって最高~。しかし「ハウスマヌカンだからマネキンなアートワーク」というのは「談合事件を取り上げてるワイドショーで「だんご三兄弟」が流れちゃう」的なちぐはぐさがありますね。別にいいですけど。ちなみに前述した「夜のヒットスタジオ」での歌唱映像もマネキンに囲まれた舞台装飾の中でややが絶唱するものとなっております。こちらも最高~↓

https://youtu.be/BV76SO9r3ZM

やや「夜霧のハウスマヌカン

徐々にその色が濃くなっていきますが、今回のコラムはYouTube上のやや関連の素晴らしい映像たちを皆で観賞しましょうの会でもあります。お楽しみに。

 

とりあえず本ベストアルバムに話を戻しましょう。ジャケはオリアルと比較すると演歌歌手のベスト然とした地味~ながらバブリーお姉さんなアートワーク。その鍵盤柄セットアップはどこで買えるんだよ。演歌歌手じみているのは北島音楽事務所所属であることや「夜霧の~」が演歌パロディであることによるものでしょうが、彼女は所謂「演歌歌手」ではありません。当時の持ち歌から考えるに、「ムード歌謡」「コミックソング」「電波アイドルソング」等、歌謡界の俗を煮詰めた複雑なジャンルを包括的に請け負う歌手でした。美川憲一なんかと実は割と割り当てられた音楽性が近いんじゃないか、などと思ったりします。後は後発の平成OLアイドル達とかもですよね。おやじGALSとか、平成おんな組とか。そんな彼女の本ベストアルバムには前述済みの「夜霧の~」「ランバダ」をメインに(この時点で何かが異常なんですよね)、「OLルンバ」「なぜかスターになっちゃった」等、香ばしいタイトルの楽曲が詰まっています。

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暗くてすみません…

 

そういえば未だ「夜霧のハウスマヌカン」について詳述していませんでしたのでそちらから。世代でない方々に念のためご説明しますと「ハウスマヌカン」とは今で言うショップ店員ですね。ブティックやらモールのテナントやらでDCブランドを身につけ販売する、当時はかなり女性の憧れの職業でした。カフェバー・ディスコに生息する高感度でバブルらしいオッシャレ~な身分、しかしいとうせいこうはその軽薄な生き様を皮肉たっぷりに歌詞に込め導入で「流行り廃りに命を懸けた 浅はか女」と表現。刈り上げたヘアスタイルを自嘲、見栄張ってる癖に昼飯はいつもシャケ弁当、三十路も近いけどどうすっぺか…と芸能人として駆け出しのややに歌わせました。洒落もトレンディもない、まるで「山谷ブルース」の世界。突き詰めていくと最早コミックソングでもないんですよ、これ。

しかし何しろ体裁が演歌なもので、スナックでカラオケするにはバッチリ合います。YouTubeで検索すると「夜霧のハウスマヌカン」用に作成されたに違いないカラオケビデオが2本も出てきます。

https://youtu.be/kI7_JoL61wM

まずはこちらから。女優が若干ややに似た細身の女性。客にはいい顔をしつつ腹ではムカムカ。商材である洋服に囲まれ、しゃがみこんでシャケ弁当を食べるシーンは涙なしには観れません。夜には野郎向けな居酒屋で「もう一本お銚子つけてよ~大丈夫だってば!」なんてやってます。可愛いな。

https://youtu.be/Q2J_cDUwQdI

もう一本はこちら。まず、なんとテレサ・テン歌唱なことにびっくり。調べてみるとテレサ・テンのベストアルバムの一部にのみ収録されているレアバージョンみたいですね。ややのドスとは対極にある、こなれてない感じが良くはありますがさすがに原曲には敵わないかな。

ビデオの内容、一本目と比べていきましょう。女優がハウスマヌカンかどうかは微妙な所が大きな違いです。でっかいグラサン掛けてブティックや表参道を徘徊(男から煙草に火貰えなくて可哀想)、ほっかほっか亭の前で(こちらでは中身映りませんが恐らく)シャケ弁当を開封しそっ閉じ。三番のタイミングではグラサンを外しました、こちらも美人さんね。そしてこちらでは店に入らず路上でロシア人が呑んでそうなウイスキーの小瓶をグイっと。指折り齢を数え「来年三十路ダワ」と確認し終わります。

「夜霧の~」についてはこんなところで終了しておきます。ちなみにもうひとつのヒット曲「ランバダ」についてですが、石井明美バージョンとは別の歌詞なものの編曲もカマオ等のいわゆる原曲のまんまなので大した違いはありません。しかしながらややのハスキーボイス(彼女や平山みき、りりィ系統のハスキーボイス大好きなんですよね)が活きており私的にはお気に入りです。

 

ではその他の収録曲についても。ミーナ・マッツィーニのカバーで弘田三枝子ザ・ピーナッツ等によるカバーも有名な2「砂に消えた涙」は刑事ドラマのEDなんかに合いそうなパーカッション重めで打ち込みベースなミディアムポップス。気持ちいいよ~こういうの。

4「OLルンバ」では分かりやすく当時のオフィスレディーのテンプレート像をまとめてくれています。「結婚したいけれど」「女子大生の悪口ばかり」「仕事できない男たちより給料安い」。私が集めているトレンディビデオだとバリバリのキャリアウーマンなんてものは基本登場せず、このような「なんとなく働いてるけど与えられる仕事は大体お茶汲み・コピーとり。早めにイイオトコ見つけて結婚しないと行き遅れる」という枕詞を被せられた女性キャラクターのもとに何かしらのラブロマンスが起こる、という構造がほとんどです。現実問題それが状況として如何なものか、という点は置いといてストーリーとしては大変観賞しやすいんですよね。宗教画にAという動物が出てくると必ずBという状況を示唆している、というような定型と似ています。「夜霧の~」ではそれをハウスマヌカンという職業に限定して唄った訳ですが、こちらはより間口の広いOL。スローなルンバの形式を取らずにハイエナジーものなんかにしていたらこちらの方が寧ろ当時の女性には親しみやすかったのではないでしょうか。いや、限定してたからこそのインパクトで売れたという方が正しい見方なのは承知してますが。

5「なぜかスターになっちゃった」では、それこそ何故かイントロ・間奏・アウトロでパイプライン的テケテケサーフロックサウンドが引用されています。初っぱな、あの「テケテケテケテケテン…!」から急に減速してミディアムな打ち込みムード歌謡調に移行する様は完璧な間抜けさで一聴の価値あり。歌詞もややのデビューまでの半自叙伝のような作りで、コミカルなものの「ややのファン」しか興味ないであろう内容。「ややのファン」というパワーワード。本アルバム全般の「コミックムード歌謡」のノリが好きでないと厳しい曲ですね。

だいぶ飛びますが12「芝浦エレジー」は「演歌とバブリー平成OLアイドルソング」の融合が叶った傑作です。体裁は宴会ですが「高速3号線」「プールバー」「ソルティドッグ」といったベタなバブリーよくばりセットの応酬には嬉しくなってしまいます。そもそもウォーターフロントですから。長山洋子ですらアイドル期と演歌歌手期の切り替えはスッパリしたものだったので、ある種長山洋子越えか?胸焼けするほどのギターソロが泣かせます。

13はこれまたカバー「夢は夜ひらく」。歌詞は石坂まさをではなく園まりバージョン。ややのカバーにしては合点が行くような、ややが唄うには重すぎるような。バブルキャラの架空の十八番という想定で聴くとしっくりきます。

特筆すべき楽曲はこんなものでしょうか。サウンド・歌詞はおなじみのギミックまみれで「スゲー」とはなりませんが「ハウスマヌカンを唄ったやや」という概念が全てに磐石な土台を設けてくれているので、鑑賞者も真剣に向き合えば「安さ」を勝手に「時代感」へと補完できる仕組みになっていますね(?)。鼠先輩がピークで出したベストアルバムの体裁のオリジナルアルバム「ベストヒット☆コレクション-2008~2008-」と全く同じ理由での傑作と言えましょう。

 

「現在でも精力的に活動中」と前述しましたが、最後にややの今を観てみましょう。

 

https://youtu.be/r8k_1cLZmPM

やや「夜霧のハウスマヌカン

ウォーターフロント」の催しで唄うやや。マジで寂しいな…。声のドスがグレードアップしていてセクシー極まりないですが、観客の少なさやバックの大漁旗?により「演歌」の嫌な側面の方をフィーチャーしてしまっている最悪のステージです。この曲絶対にお祭り向けじゃないんだよ。主宰の誰か、呼ぶ前に気づけよ。

https://youtu.be/ozC0p397W-s

こちらは船橋の祭りで歌うやや。インタビュー付きです。だから祭りに呼ぶなって。冒頭に実行委員?の男性が「いやーびっくりですよ…!あの大スターがこの祭りに来てくれるなんて…!」と半笑いで答える様に憤りを禁じ得ません。しかもこのステージ、一般人の地獄のカラオケ大会の余興じゃありませんか。最悪~。デュエットとかしなくていいからさぁ…。

どちらのステージでも当時を彷彿とさせるキメキメ衣装で登場してくれるややの心意気に脱帽です。俺だったら幾ら仕事なくても「夜霧の~」唄いに祭りなんか出たくないな。

https://youtu.be/zB729808kXs

やや「夢 舞う 夢」

お口直しにややの現在での最新シングルを。本格な歌謡路線にシフトしていることが窺えます。短いながらインディーズ感満載のチープゴージャス。当時のややのイメージを崩壊させず、熟年の技を魅せてくれています。女社長感。年とってますます平山みきに似てきてますね。コンテンツとして観賞に値するかというとそういうものではないと思いますが、頑張ってるなぁ、と…。自身の会社でのセルフマネジメントですから。

 

ジャンルという枠組みの崩壊や特有の時代感の喪失が音楽においていやがおうにも自明な昨今(近年で最後に「こんな時代の音楽」ということで商業的に成功したのってマジであやまんJAPANだけなのではないでしょうか)。私がレトロやトレンディにおける俗を希求する理由のひとつに「現代に「今」らしい、「今」しかできない音楽が存在しないから」というものがあります。かたちばかりの昭和・平成回帰、そんなものは儚さの上塗りでしょう、分かっています。しかし「今」が余りに薄口すぎて刺激に欠けることからそういった酸性のコンテンツが注目を集め、我々も追随してしまうというのもまた現実。「過去を懐かしがってばかりいないで「今」ある素敵なものを味わえ」と言われても、現状がこれでは中々…。とりあえず今私なんかにできることは「愛護されず早急に打ち捨てられてしまった過去」をサルベージすることだけ。当時を知らなかった者にとってはどれだけ過去の作品でも「今触れている」のものなんですから。それが如何に無力なことかを痛感しつつ、今日も「夜霧のハウスマヌカン」を愛聴するばかりです…。

 

おまけ

https://youtu.be/dBy-RiuBlvQ

やや「真夏の出来事(平山みき)」

ややのモノマネ番組出演時の映像でお別れです。クリソツ。当時平山が風水の影響で全身黄色のものを身につけるようになったところまでモノマネしていて嬉しい。