廃サロンで手に取るCD

ブックオフ・図書館・TSUTAYAなど「文化の墓場としてのサロン」で入手してきたCDを紹介します。

中級な収穫まとめ その4

こんにちは、中級収穫のお時間です。

このようなレビューブログを始めて、ディグ熱が始める前より常時高まっているのは確かなのですが、幾つか大きな問題があります。

①聴取がディグに到底追い付かない

→手に入れたことで満足して放置されている音源がウォークマンにたんまり

②自分のディグ成果だけでなくツイッター等で見かけた他者のディグ成果物も気になる

→聴いてない音源がたんまり

③カセットテープやVHSのディグにも勤しんでしまっている

→視聴していないメディアが…以下略

④結局「新しく入手した未知のもの」よりも「滅茶苦茶お気に入りな既知のもの」の摂取が常に優先されてしまう

→以下略

という感じです。要するに情報過多という…。皆様の中にも同じような悩みをお持ちの方がいらっしゃると思います。もし逆に「自分はディグ成果物をコンスタントに片付けてるよ~」という方がいらっしゃいましたら貴方様は偉いです、マメです。

いつか友人が「人間の寿命を考えると、例え全ての時間を音楽聴取に当てたとしてもこの世に存在する○分の1(忘れた…)も聴けないんだよねぇ」と言っていたことを思い出しました。あるコンテンツに興味を持ち行動を起こせば起こすほど堪らない無力感に苛まれるのです…。そんな辛いならやめちまえ、とは決して思いませんがね。皆さん、善きかつ果てなき廃サロンディグを!

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いつかVHSディグの記事も試しに書いてみようかな。この有り様ですので。


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平山みき平山みきのエキゾチカ大魔境」(1993)

目黒区図書館にてレンタル。平山みきは唯一無二の場末ハスキーボイスを武器に息長く活躍し続ける重鎮女性歌手で、「真夏の出来事」「真夜中のエンジェル・ベイビー」なんかが有名ですね。また近田春夫プロデュース・ビブラトーンズ参加のアルバム「鬼ヶ島」はテクノ歌謡の名盤として各所で頻繁に取り上げられます。

こちらはそんな平山が割と近年にリリースしたカバー主体のアルバム。「モスラの歌」を皮切りにイタリアの「サンライトツイスト」やこの手のアルバムで腐るほど擦られている「夜来香」、「ベサメムーチョ」等々が文字通りエキゾチック、というか森林に埋もれるが如くのアレンジで歌唱されています。彼女の代表曲「真夏の出来事」も2Versionのアレンジで収録。ラストを飾る「たいわんたわわん」日本アジア航空のキャンペーンソングだったそうです。こうして見るとanouta氏の紹介でもお馴染み(?)な美川憲一「Golden Paradise」のような作りですね。あちらも否定しようのない名盤でしたがこちらもなかなかです。90年代のワールドミュージック・ディグの潮流から考えると微妙に時期がずれたリリースだったのでは…と思ってしまいますが現在聴くならそんなことは関係ございませんね。

正直なところ玉石混淆なアルバムであることは違いありません。「真夏の出来事」のカバーのうちの1つはハウスミックスなので「またこれか…」ってだけの印象ですしオリジナルの「たいわんたわわん」も平山の気だるいボーカリゼーションが裏目に出て単にやる気ないオバサン感が強調されてしまっています。しかしながら私の好みからすると思わず目を見張ってしまうような楽曲も存在します。「サンライトツイスト」は原曲から若干BPMを落とした代わりに本来一切用事の無いはずの軽い音のカウベルがガンガン鳴ってますし、ベース主体の重たいアレンジと平山の濃ゆいボーカルと合わさって密林サイケな歌謡曲となっていて最高。「何日君再来」はシンプルなエレピと胡弓が溶け合ったチル味の高く気持ちいいアレンジです。

トレンディものにしてもエキゾものにしても厚化粧な作品が好きな身としてはこの平山×エキゾチカのタッグは評価せざるを得ません。ジャケも調子のいい時の羽野晶紀みたいで美しいですね。そういえば羽野晶紀も当時似たようなジャケでコミックアイドル歌謡やってたなぁ、などと思い出したりします。


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織田晃之祐「NHK日曜美術館」~美術館への誘い」(1996)

こちらは世田谷区の図書館で入手。柴崎祐二氏が彼のブログを元に新宿・du cafeにて開催したイベント「出張CDさん太郎」。そこで柴崎氏が序盤に触れたのが織田晃之祐でした。織田はNHKの元放送用専属劇団である東京放送劇団に所属し番組の音作りに貢献していた人物、だそうです。本作もNHKの長寿番組「日曜美術館」のBGM集。各曲にはゴッホシスレークリムト印象派前後の画家の名前がタイトルに付いています。各画家のイメージミュージックとして作曲されたのでしょうか。しかし内容はそんな周辺情報からは意外な程にシンセなアンビエント。てっきりピアノ小品集のようなものかと思ってたのですが…。しかしこれは嬉しい意外性。まるでプラネタリウムで流れているような雑味のないアンビエントを楽しめます。キラキラとした効果音が眠気を誘い、正に日曜に朝食を食べながらでも聴いて二度寝に落ちてしまいたくなります…。ジャケの朴訥とし過ぎたアートワークと「旧来型アートを紹介するBGMとしては余りにもデジタル」という点を除けば言うことなしな良作。流石に(表舞台で活躍していたとは言えないものの)大御所の作品はケチつけどころ無しですね。


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SWITCH「フルテン」(1995)

秋葉原ブックオフにて280円で入手。いやーずっと探してたんですよコレ。8人組J-FUNKユニット(で合ってるんでしょうか?)であるSWITCH。本作がデビューアルバムで、その後セカンドを発売し自然消滅してしまいました。TBS系で放送された「その筋」ではバイブル的人気を誇るギャグ漫画『行け!稲中卓球部(古谷実)』のアニメ版で2曲のOP曲を担当しており、その関係で知ってたんですよね。稲中のサントラは目黒区の図書館で入手済でその2曲の音源は持っていたんですが、彼らのアルバムも欲しくて3年くらい探したり探さなかったりしてたんですよ(Amazonなんかでは普通に手に入ります)。

件のOP曲というのが「しゃにむにシェイク!シェイク!」と「満員電車ひとめぼれ」。いずれも詞の馬鹿馬鹿しさにデジタルファンクが絡み付いた良作です。驚きなのは前者が元祖ジャパニーズファンクの大澤誉志幸による作曲であること、そして2曲共に作詞がlightmellowbuによるレビューで復権?を果たした「ボーイ・ミーツ・ガール」の尾上文によるものだということです。
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↑「ボーイ・ミーツ・ガール」

https://youtu.be/iuglp6jx0r8

ボーイ・ミーツ・ガール「裸足で散歩」

私、正直「ボーイ・ミーツ・ガール」のポエトリーは「ムリ」だったので手に入れてから一度しか聴いてないんですが、まさか数え切れないほど聴いていたこの2曲も彼による作詞だったとは…。これだからディグはやめられないですね。ファンク感が強いのはどちらかと言うと前者で、若干マジメちゃんしてる詞ながら気持ちいい。後者はパーカッシブで高速な音に満員電車内での劣情をやけっぱちに歌った詞が乗る良作。いずれも稲中という度を超えた不謹慎の塊であるギャグ漫画のテーマソングとしてはうってつけでした。

https://youtu.be/T-B5HiTr5RU

「しゃにむにシェイク!シェイク!」

https://youtu.be/80mduaikG0I

「満員電車ひとめぼれ」

 

本作、この2曲のインパクトと質を超える楽曲は他にありませんでした…残念…。強いて言うなら「たまるか」なんかは若干バービーボーイズ傾向を感じたり「宇宙原人」はまさかのゴスペルアレンジだったりしますが、全体的なお馬鹿ファンクっぷりは2曲以外は平均点ってな具合。lightmellowbuから「ボーイ・ミーツ・ガール」を聴いてしっくりきた方は尾上の別の仕事も覗いてみるつもりでこちらもいかがでしょうか。


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runescape斯凱利「runescape​.​wav符文風景骨架」(2018)

どこでも言及されているのを見ないので本稿とはズレますが取り上げてしまいます。こちらは私が初めて好きになったVaporwave。postVaporwaveの範疇に括られてしまう作品が蔓延する現在においてもコンスタントに正統派Vaporwaveな作品をリリースし続けるBandcamp上のレーベル「Geometric Lullaby」が昨年三作目として発表したアルバムです。油彩で描かれたような小人?のジャケが悪い意味で印象的で、これを見ただけでは聴いてみようとは中々思わないでしょう。しかし中身は上質な「ゲームミュージック」をチョップド&スクリューさせ解像度を極端に粗くしたVaporwaveインスト作品集。いずれもゼルダの伝説に用いられるような、疑似ケルトなBGMを加工して作成されたと思われます。Vaporwave化されたゲームケルトは曇天に覆われた、荒廃した草原や山賊に荒らされた家々、屍の打ち捨てられた洞窟等を彷彿とさせます。それはデジタル遊戯に勤しんでいた大きな子供たちのノスタルジーをトラウマに変換し、似非は結局似非だったのだという諦めを説いているかのようでもあります…。ロビンソン・クルーソーのような絶望感…。

このように記述するとサイテーな感じもしますが、これほど「粗くて綺麗」な音楽も珍しいですよ。パーカッションの反響が強調されているのはVaporwaveではまあ変なことでもないのですが、これが上手く作用し聴者の不安を煽る。どんなホラーミュージックも本作には勝てない、気がします。

PVが最高なので絶対に観てください…!アルバムごと聴きたくなること間違いなしです。

https://youtu.be/6fPQWx66vLc

「Geometric Lullaby」の作品はどれもオススメですのでその他もチェックしてみてください。捨てアカ氏主宰の「Local Visions」と並んで最も好きなVaporwave(界隈)レーベルです。

https://geometriclullaby.bandcamp.com/

 

中級収穫のコラムとしては少ない枚数の紹介となってしまいましたがご了承ください。月が変わる前に一本書いておきたかったので…。また本流のコラムや番外編も含めた新しい記事も書いていきますね。

来月は青田典子×ベッドインの六本木・マハラジャナイトや下北沢・ThreeにてTsudio Studio氏やNECO ASOBI氏を含むLocal Visions界隈によるライブイベントがあって良い8月になりそうです。どんな取り合わせだよ。