廃サロンで手に取るCD

ブックオフ・図書館・TSUTAYAなど「文化の墓場としてのサロン」で入手してきたCDを紹介します。

中級な収穫まとめ その7+目黒区図書館サイトディグについて

廃サロン的ディグではネットを利用してディグる機会が多々あります。実店舗にて正体不明のアーティストによる作品と遭遇し、彼らについていかに情報がネット上に存在するか、あるいはしないのか(全くと言っていいほどなければそれはそれでソソるものですよね)を確認する行為は言うまでもありません。それに加えて、図書館やブックオフオンライン、駿河屋等の所蔵・在庫の有無を調べることも日常茶飯事です。これはディスクガイドを読んでいたりTwitter等にて気になる盤を見つけた時も行います。「何を今更」とお思いになるでしょうが、現代ディグはかなりの割合をネットによる裏付け(あるいは「裏付けられていない」という事実)に頼ってしまう場合が多いです。そんな中、各種サイトの便利さ・不便さについてどうしても気になってしまうのです。

図書館サイトでCDを探す上で「日本中の図書館サイトが目黒区図書館のようにならないかなぁ」と懇願してしまうほど、目黒区図書館のサイトはえげつないです。目黒区と言えば90年代前後のCD、特に邦楽に強く、これまで数多のディガーの方々が本・ネットでご紹介してきたその頃の無名盤がちょっと信じられないくらい所蔵しています。前回ちょっと触れた原みゆきは1stの「私風景」以外のオリジナルは全て所蔵してますし、トレンディもので私が一番好きな作品である小田育宏「Talk To You」、エレクトーンものの名盤である中村幸代「目の前のにんじん」、中原めいこ久野かおりの各種等…、こちらで音源入手したバブル期シティポップは数えきれません。まして90年代に活躍した著名アーティストの盤なんかは必ず何かしら所蔵していると言っても過言ではありませんでしょう。これには目黒区購入の盤だけでなく「心優しいけどとち狂ったどこかの元ディガー」による寄贈盤も貸し出していることによるもの。「え!このアルバム目黒区にあったのかよ」と思って借りてみるとそのCDには水色の「寄贈」とプリントされたシールが大体の場合貼ってあります。

そんな目黒区図書館のサイトなのですが、何故か各CDの多くのページにCDジャーナルのレビュー文が引用されています。アイドルのアルバムをちょろっと聴いて「顔はカワイイけど声に抑揚がないねぇ~」などとこき下ろしているアレですね。そこには「作詞で○○が参加」というクレジット情報や「打ち込みがなんともアーバン」といった作風に関する情報が紛れていることもしばしば。つまり、そのような文章に含まれるどこかのワードに引っ掛かれば検索した時に結果としてそのレビューを受けた盤が上がってくるということです。例えばこのサイトで「山口美央子」と検索すると、山口が作詞で参加したアイドルのアルバムが二枚出てきます。彼女自身のアルバムは所蔵がないので出てきませんが…。
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また「リゾート」と検索すれば何故か村松健や成田路実「イリュージョン」、金沢朋子「ハウス・ミックス2」等、何の脈絡もない盤がズラズラっと登場します。そういうことです、本サイトの使い方は。出鱈目にそれっぽいワードを打ち込みCD絞り混み検索をすれば、未知のトレンディ盤に出会える可能性があるのです。これってちょっとスゴいよなぁと高校生くらいの頃から思っていました。

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一点の目的(あのCDは所蔵してるかな?等)をもって行われがちな図書館における検索機能ですが、このようなシステムを採ってもらえるとバーチャルディグの場として十二分に役立ってくれますよね。私の廃サロンディグも(本ブログを読んでいただけていればお分かりかもしれませんが)約半分は目黒区の恩恵を受けていると言って過言ではありません。貸し出しに関しても一度に本・CDごちゃ混ぜで20枚まで借りられるしね。皆様も目黒区図書館ディグ、是非お試しください。これだけ語ってアレですが、私は目黒区民でもなんでもありません。

蛇足ですが、逆にブックオフオンライン及びアプリ。アレなんなんでしょうね。憤慨です。いつ開いても重い、とにかく重い。しかも検索機能も融通が効かないというか、「出会い」に乏しいですよね…。ネット注文商品の店舗受け取りができるようになったのはグーですが、もうちょっとサクサク検索できるようにならないと余りにも使いにくい。実店舗行けよ!ってことなのでしょうか…。

 

前置きが長くなりましたが、今回も徒然なディグ戦利品のご紹介です。「中級収穫」とか言いつつ、実は一枚でいち記事書くのが面倒で超お気に入り盤も含めていることをお許しください…。


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木屋響子(Kyoko Sound Laboratory)「See You Again」(1992)

ブックオフ三軒茶屋店にて110円で購入。Kyoko Sound Laboratoryこと木屋響子は1971年生まれのシンガーソングライター兼マリンバ奏者。コロムビアエデュテインメントの元社長である父親の「命令」もあり、本名の木村恭子から始まり、木谷恭子、木谷響羽子、安倍恭子など幾度も改名を繰り返しています。これまでにドキュメンタリーやたまごっちの音楽等を手掛けた経歴があるそうです。本作はそんな彼女のKyoko Sound Laboratoryとしての1st。アーティスト名からもしや…?と察しましたが、やはりなかなかのテクノ(気味)歌謡アルバムです。と言っても彼女が本格的にテクノ化するのはこれ以降のようで、本作はまだ電子抑え目でバラエティに富む作風となっています。ジャケは谷村有美みたいなのに…(廃サロンディグのルールとして「谷村有美大江千里には手を伸ばさない」というものがあります。アレルギーだから)。普段こういったテイストのジャケはまず買わないんですが、Kyoko Sound Laboratoryという名前と110円という投げ売り加減に牽かれて買いました。しかし、これは聴かないと分かんないもんですね。

結論から言うと、バラエティに富んでいることが災いしてどうにも俗にもバラードにも振り切れてない悲しさがあります。良曲が多いだけに少し残念。木屋の声は声優の島本須美にも似た、突き詰めた清純さがあり、バラードはバラードで相応なクオリティに仕上がっていますが、中庸なガールズポップアルバムの一曲ぽいものに過ぎないよなぁという感想。どちらかというと、やはり打ち込みに寄った曲の方が違和が強調されていて良いです。表題曲の2「See You Again」は「5年後のランバダ」というアレンジ。イントロからしてそっくりで、軽やかな南米風打ち込みに乗せて木屋が淡々と別れを歌います。4「ASKA」は安いニューウェーヴチックな高鳴りするシンセと金属パーカッションになぜか民謡的な笛の音が絡み合うスピリチュアル系ガールズポップ。5「TOMODACHI」、これは良い!私「しゃべる!DSお料理ナビ」のBGMが大好きなんですが、それにも通ずる優しいボッサ風に刻まれる柔らかなシンセ。歌詞こそ「男女の友情は…」云々の普遍的なやつですが、相変わらずな淡々としたボーカルとニューエイジボサノヴァの連携がこれ以上なくアンニュイ。TinyPop等と比較するのは強引かもしれませんが「今聴きたい音楽」の一種に該当するのではないでしょうか。6「ELECTRIC LOVE」これまたタイトルド直球なテクノ歌謡が来ましたね~。サウンドのベースはハウスなので序盤は大したことないんですが徐々にギミックが効いてくるいぶし銀的テクノポップマインド。歌詞は元気OL版「Computer Love」といった趣。アウトロで薄れゆく木屋の声に少しずつヴォコーダーのエフェクトがかかっていくのが「妙」です…。「島本須美(風の声)が歌うテクノ歌謡」と思って聴くとグッドかもしれませんね。7「孤独のobjet」はイントロが中森さんちの「1/2の神話」や久宝さんとこの「男」風ですが、例によって淡々とした発声なのでプレーンマフィンのようなガールズポップになっています。本曲に限りませんが、氷を入れた熱湯を飲んでる気持ち。間奏のギターソロが恐ろしくドベタな気持ちよさで、好みっすよこれ。極めつけは10「See You Again(single version)」、先ほどのランバダ風アレンジから一転、アラビアンブギーな謎ミックスが展開されています。90年代の作品ですが、これほど無時代的な音楽も久々に聴きました。前回紹介したKONTAの「otherwise」のDayとNightの違いほど顕著ではありませんが、聴き比べが興味深いです。

本作以外の木屋の作品はジャケがとにかくスピリチュアルに寄っていて聴くのが怖いのですが、この人の声からしてそういう作風に合いそうだなってのも分かります。だからこそ本作のような俗っぽいアルバムの奇妙さが輝き出すようにも思いますね。110円という価格から考えるとかなり面白い買い物になりました…。


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NUU「唄波」(2002)

件の目黒区図書館にて借りました。

唐突ですが、私は2000年代前半のJ-POPにおける過剰なオーガニック感が苦手です。沖縄ブームとかを筆頭にした、俗な癖に有機体を気取っていたあの頃の音楽が結構嫌いです。バブリー歌謡が好きなのがその裏返しなのか、テクノ偏向が先なのか、そこら辺はよく分かりませんが。本作もそのリスニングアティチュードから考えるとスルーしそうなもんなのですが、パーカッションやリズム隊を基調としたカラッカラに乾いた(「オキナワ」が取り除かれた、無国籍な)「離島感」が何故か気持ちよく、愛聴盤、とまで行かないまでも好きな作品でした。NUUは1998年デビューの女性シンガーソングライター。作曲行為を「産曲」と称しています。1stシングル「青いドレス」はあの頃のR&Bスタイルですが、本作はそこから少し年月を経て、オーガニック路線に寄ったようです。なんか印象からUAとかに近いのかな、と勝手に思っています。

全体的に「優しい音楽」ですねー。パワータイプの音楽ばかり聴いている中でこういう作品がスッと挟まると泣きそうになってしまいます。一番好きなのが2「手のひらサイズの心臓」。自然の恵みを食べることを「からだに地球が入る・混ぜる」と歌う、童謡といいか民謡、あるいは「みんなのうた」チックな可愛い一曲。弦楽器や鍵盤に頼らない唱歌というのは素晴らしいですね。

 

https://youtu.be/M95uZQXtGfs

NUU「手のひらサイズの心臓」

ライブ音源がありました。レコーディング版はもっとスローかつミニマムな編成なのでまた印象が違う。

 

自然讃歌というか非欲情な楽曲が殆どなアルバムの中で9「或る女の日記」はオーガニックシャンソンといったドロッとした趣の作品となっています。この手の作風だけのアルバムだと「オッ、椎名林檎フォロワーですか」となりスルーしてしまうのですが、本作の中では程よい緩急として機能しているように思います。

ちょっとNUUは気になるので今後も気にしてみようかと。あとこの調子で猫沢エミとかCHARAとかも聴いていこうと思います。また全然違うのは分かってるのですが。オーガニックな女の子になってハンモックで寝ようかな(雑)。


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尾崎亜美「AMII'S BEST」(1994)

ここからはサクサク行かせていただきます。これも目黒区図書館にてレンタル。尾崎亜美ってビッグネームですが正直今まで楽曲を殆ど知らず…。そんな中で本ベストを借りた理由はマクドナルドでした。YouTubeでバブル期辺りのCMを観るのが趣味のひとつなんですが、特にマクドナルドのCMが好きで。時に俗、時にアンニュイなあのCM群、眠たい時に観るとなんとも心地よく「堕ち」れます。そのマクドナルドのCMの中でも1992年に放映されたあるシリーズで尾崎の「Walking in the rain」が使用されています。これがマクドナルドCMのイメージ戦略、特にセンチメンタル面を醸し出す良質な作品となっております。

https://youtu.be/-umM8QNfZ-U

思春期あたりの男の子や女の子が悲しみにくれている、そこで友人と触れあいつつマックの製品を頬張ると次第に笑みがこぼれる、最後には夕暮れのロードサイドのマクドナルド大型店が「おいしいね。マクドナルド」なるコピーと共にドーンと映し出される…。何てことないCMですが、ここで尾崎のフォーキーな弾き語りで構成された本楽曲が上手く機能してますね。「みんな、濡れながら、どこへ行くんだろう…」。マクドナルドのハンバーガーが食べたい!とかマクドナルドに行きたい!と喚起するのではなく、「いつでもそばにいるよ」という優しさを訴えかけたCMですよね。逆エドワードホッパー的アプローチ。CMの良さから本作を借り、この曲をフルで聴いてみましたが、途中でバンドがデーーンと登場したりせず、最後までアンニュイでフォーキーさを維持して終わります。CMにしても音楽にしても、こういうノリがいつまでもどこかで生き続けていてほしいものです…。

蛇足ですがこの曲、ガキ使に尾崎が出演した際に番組内で制作され、そのままエンディングとして使用された経緯があるそうです。その後マクドナルドのCMに流用されたという。これに関しては本当に知りたくなかったな。


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戸田誠司HELLO WORLD:)」(1995)

こんな有名盤ですが、地元のブックオフにて280円(から20%オフで224円か)で購入。存在は勿論知っていましたが意外にもレンタルできる場が無いんですよね(渋谷TSUTAYAに無し)…。正直そこまで興味がある訳ではなかったですが、ジャパニーズテクノの名盤であることと安価さにつられて購入しました。

SHI-SHONENやFAIRCHILD等のテクノポップバンドにて電子の風を吹かせてきた戸田の1stソロアルバムです。レビューは今さら私がするまでもありません。「TECHNOLOGY POPS π3.14」というテクノ偏向な名ブログにて良質なレビューがなされているのでそちらを是非…( http://reryo.blog98.fc2.com/blog-entry-541.html )。でも意外と(ネット以外で)気軽には入手不可な著名盤をこのような形で入手できてよかったです。8「Wiz」はエレクトロ・アンビエント作品の傑作だと思います。

 

https://youtu.be/BmQ62eTLAsc

戸田誠司「Wiz」

 

今回は目黒区図書館ディグについての解説との二本立てなのでレビューもこの辺にしておきます。最近当たりのアルバムに良く出会うのですがどうにも文章化しづらいものばかりで(割と中庸な癖に感覚的に良いと受け止めてしまうアルバムなんかは本当にレビューできない)…。だったら逆にハズレの作品についても触れていけたらいいですかね。それでは!

中級な収穫まとめ その6

「2020年なんて語られ過ぎて始まる前に終わってるようなもんだよなぁ」などと思っていたら遂に2020年ご本人がやって来てましたね。超ご無沙汰しております。各位、今年も宜しくお願い致します。

さて、先日待望の「オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド」が発売されました。ブックオフディガー集団「lightmellowbu」を中心に編まれたこの奇書、勿論愛読させていただいております。というか、廃サロン的には本書を片手にスマホで図書館サイトを巡回するのが最近の日課となってしまっています。賢人達の汗と涙、一喜一憂と身銭の集大成ガイドを図書館ディグに使用するとはある種の冒涜かもしれません。謎の背徳感に苛まれています。しかし実際問題、本書で紹介されている盤が図書館に所蔵されている例、結構あるんですよね…。原みゆきのディスコグラフィーは全て身近な図書館で揃ってしまいましたし、石田純一「EGOIST」やディガーの必修盤「芍薬」までもが税金でどこかの市区町村が購入していたという事実(どこかは全国のディガーのやる気を削ぎかねないのであえて申し上げません)…知りたくなかったし公表すべきでないような…笑 でもとりあえず音源が手に入れられたのは有り難いです。しかしながら「ディスクガイドを読み込んだ上でアルバムを入手する」行為と「純真なディグ」は全く別であることは余りにも自明で、各々の良し悪しがあります。「確認」と「発見」の違いなのですから。ディスクガイド由来の音源探求は「チートでズルい」と言えてしまう一方「ディグの種集め」と考えれば肯定的に自己催眠可能です。そして純真なディグは偶発的な喜びへの途方のない旅です。大変ですよね。この2つを上手く反復横跳びしていければ…と思いつつ今は本書を使った「種集め」の時期なのかなぁとモヤモヤする日々です。

そんな中でも一応「純真なディグ」は継続しています。今回は年末年始に手に入れた盤をつらつらと取り上げていきたいと思います。


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KONTA「Jane Doe」(1996)

渋谷レコファンにて750円で入手。こちら、実は渋谷公会堂にてBARBEE BOYSの再始動ライブ(1階5列目という好座席だったことはずっと自慢していきたい)を観る一時間ほど前に入手したものです。ネット上でも簡単に購入可能だったのですが、見つけたときは「巡り合わせだ!買わねば!」と興奮しましたね。

言わずと知れたBARBEE BOYSのボーカリスト兼サックス奏者KONTA(近藤敦)の3rdソロアルバムにして角松敏生プロデュース盤です。ツンツン頭でお馴染みの彼が初めて下ろし髪姿を見せたジャケが印象的ですね。このヘアースタイル、それまでのKONTAのパブリックイメージからの隔たりによって生まれるショッキングな印象を含めての髪型だなぁとつくづく思います。誰かが普通にこの髪型にしても、受ける印象はまるで違う、はずです。それはともかく。

まずリードトラックである2「otherwise…nightbreak」ですが、これが最高傑作。先行シングルの「otherwise…daybreak」の方はアニメ『シティーハンタースペシャル~ザ・シークレットサービス』の主題歌であり、PVも製作されました。

 

https://youtu.be/DwXUNvApZLg

KONTA「otherwise…daybreak」

 

こちらはこちらでKONTAソロらしい疾走感あるハードなトラックとして純粋に素晴らしいです。しかし本作収録の「nightbreak」の方はどうでしょう。いや~ヒネクレまくり!まず、これジャングルじゃないっすか!カッチョイ~! シングル版よりも若干スローにした代わりにシンセメインで妖艶な音使いがなされていますね。サックスも大して登場しないけどこれはこれで。後半とアウトロで唐突に現れる知らない誰かのラップもご愛敬、というか本アレンジにおいては寧ろ「アリ」に感じてしまいます(このラップのせいかファンの中では評判良くないっぽいんですけど)。タブラ?のビートも気持ちよすぎて「アレンジャー、タルヴィン・シンか…?」と勘違いしてしまいそうになったり。ともかくアルバムremixとしては至高の出来だと感じました。

その他の楽曲も、角松の意図なのか全体的にはゴージャスなアレンジが施されています。1「早射ちマック」は入りの弾むような進行がガールズポップを彷彿とさせていたり、ホーンセクションバリバリだったりと、KONTAからストイックなイメージを取り除いたような印象を受けます。3「cats and dogs」はこれまた珍しく打ち込みぐにゃぐにゃなクラブ歌謡。サビでは「いつだって俺が謝るのは好きだからさ」となんともひ弱なKONTAが見れます。後半からはダンサブルなノリが影を潜めてしまうので息切れ気味ですが、いずれも電子メロウなナンバーに乗るKONTAを堪能できます。が、前半のソリッドに爆裂する角松節の方が丁度よく「俗」なので、緩急入れず全編これで突き抜けて欲しかったなと個人的には思います。

実店舗で遭遇することは稀に感じられますが、メルカリや駿河屋をはじめとするネット店舗ではかなり安価で手に入るので気になる方は一度聴いていただきたいです。KONTAのソロアルバム、本作以降の「KONTA」「GUYS」はやたら高いのに1st~本作はべらぼうに安いんですよね…軒並み300円くらい…。(最後の最後で脱線しますが)先日ヤフオクで「KONTA」を500円で落としたので歓喜したくらいです。


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AJA+Sandmans「月の海月」(2000)

渋谷ディスクユニオンにて350円で購入しました。ジャケのチープルナティックな印象だけに牽かれて買いましたが、このAJAというアーティスト、うかみ綾乃の名で官能小説家としても活動する異色の歌手。これまでに4枚のアルバムをリリースしており、1stはテクノポップ好事家にはちょっと知られた「クスコー氏の宇宙船」(P-MODELの中期メンバーである中野テルヲが参加)です。で、本作はセカンド。いやぁ、これはいいものですよ…。

まずAJAの歌声が、なんと言いますか「神秘的ながらも猥雑」。大半の楽曲で、そのあどけなさが色濃い声で囁くように歌っているのですが、どこか(決してマイナスにはならない)いやらしさを携えていて、いずれの時代にも見受けられない「音楽におけるセクシー」を醸し出しています。

一方サウンドは、これはかなり俗寄りのプログレッシブと言っては大袈裟でしょうが、そういうものを感じます。インディーロックに寄り添う訳でもなく、かと言って歌謡的でもなく。時にシャープに、時に大胆に奏でられるバンド編成。つまり端的に言うと「一周回って普通」かもしれません。やはり本作を支配しているのはAJAの独特な妖艶さ。俗世間とはちょっとズレた気持ちよさを提供してくれているのは彼女の声だと思います。低音で密やかに歌われることで本作の中でも特に緊張感が強い3「天国のプログラム」やラテン?ともちょっと違う独特なリフによってやや歌謡曲テイストに感じられる5「真夏の果実」が特に気に入りました。

私はとっても好きな作品ですが、いちいち内省的な歌詞のどことない中2感や電子音控えめな音作りによって「今多く聴かれるべき作品ってこともないかな」とは思ってしまいますね…。しかし決して中庸な作品ではなく、いつか再評価タイミングが来そうな気もします。機会があれば是非。


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various artists「才色兼備2」(1997)

下北沢ディスクユニオンにて230円で購入。久々にこの手の「一曲でも当たりがあればいいや」なノリのCD買いました。こちらは当時のフジテレビアナウンサー(主に女子アナ)勢揃いで各自割り当てられたオリジナルを歌うという企画モノ。本作以外にも二枚出てるみたいです。ジャケの「97年!」な色味がいいですね。化粧具合といい服装といい、そのまんまアマチュアガールズポップ歌手の寄せ集めにも見えます。

案の定当たりは一曲だけだったのですが、それが1「YOTAKA」。こちらは元フジテレビアナウンサーで現在はフリーかつ日本大学芸術学部、放送学科特任教授を務める近藤サト(すみません、本作を聴くまで知りませんでした。超美人ですね…)による歌唱です。当時はその低音な声で人気を博していたようですが、本楽曲ではその特質が最大限に発揮されています。というかですね、この声完全に「浅い眠り」辺りの中島みゆきとおんなじじゃないですか…!第一声を聴いてたまげてしまいました。アナウンサーとしての声を聞いてみるとそんなきらいは全くなく、どちらかというと「ホステス」でイメージする声質に近いのかなぁなどと思ってしまうのですが(失敬)、この歌声に関しては完全にご乱心期を抜けたぐらいの頃の中島みゆきクリソツだと思います。曲調のせいもありますが「渚へ」(1991年リリース「歌でしか言えない」収録)のパクりか…?とすら。いつぞやに買った中島みゆきのパチソンカセットの歌手なんか目でないくらいの激似っぷりです。YouTube上に音源がないので誰とも分かち合えないのが悔やまれますが…。ともかく、アニソンのアルバムに一曲だけ入ってる妖艶な当たり楽曲を発掘したかのような喜びがありました。他ですか?別に聴いてないですし聴かなくていいと思います。

 

https://youtu.be/N8h3mayS1iA

歌唱動画とか無いのでおまけです。


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Steven Halpern「アルファ波ミュージック ハルパーンのスペクトラム・スイート」(1988)

三軒茶屋ブックオフにて280円で入手。ブックオフディガーにはお馴染み過ぎる「アルファ波」という単語。もし現在「ブックオフディグ用語辞典」のようなものが製作されるとしたら絶対に収録されますよね…。とはいえ「アルファ波」という文言=当たり、ということもなく、コンセプトもありきたりなら聴取感覚にも引っ掛からない駄作がほとんどなはずです。しかしこちらは大当たりでした。最近の通勤時うたた寝のお供として役立ってくれています。というか、柴崎祐二氏「CDさん太郎」の第1回にて言及されていましたが、こちら電子ニューエイジものとしては有名盤みたいですね。アルファ波盤の括りとは別軸だとは思いますが…。

哲学博士にして作曲家・演奏家・プロデューサーの肩書きを併せ持つ、音楽療法の権威として名高い(らしい)Steven Halpern。確かにそう言われるとメディテーションにうってつけな心地よさを提供してくれる作品ではありますし、実際眠るためにあるような音の群れと感じます。ミニマルで温かい、整頓されたお香のような。「音楽」というよりはシャトルランとか体操に使われそうなムード。更にブックレットによれば各トラックが用いる音階に人体の中心点(チャクラ)が割り当てられており、その部位を意識しながら聴くと「効く」らしいです。色々と御託が並べられておりスピへの耐性のない私などは困惑してしまうのですが、「まぁ、各自好きに聴くのもええんちゃうん?」と締められているので安心しました。そうします。

 

https://youtu.be/KCd43TWa6JA

Steven Halpern「Spectrum Suite」

 

後は、アルファ波盤あるあるなテイストのジャケが好きですね。地球を凌駕するデカさの鍵盤が虹色に煌めきながら宇宙に進出するという、この手のつけようのなさ。サウンドのこじんまりとした美学とは正反対な気もしますがダサカッコイイので良しとします。現場からは以上です。


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Tiara「Pyxis」(1993)

アマゾンの中古で310円で購入。これ、気になってたんですよ。20世紀アイドル系のツイートをよくする方のツイートで存在を知り、その方の「WINKの二番煎じコンセプト系アイドルだと格別に良い」との文言で「いつか見つけたら買わねば…」とは思っていたのですが中古系の実店舗で遭遇することは全く無く。結局アマゾンに破格で上がってたので諦めて買ってしまいました。しかしこれはよいものですね。

Tiara(ティアラ)は、元乙女塾の浅山美月と菊地奏衣によるアイドルユニット。かつてもう一人加えて三人組でFairyTaleというユニット(おニャン子のカバー8cmシングルを見かけたことがあります)を組んでいた二人ですが、1993年にTiaraとして再出発。しかしながらシングル一枚と本作をリリースしたのみで活動を終えてしまったようです。

本作からTiaraは、全体的には正にWINKの二番煎じ、というか若干幼くしたような印象を受けます。声の渋みがなくクリアで、そこそこの上手さですが特徴に欠けるような。ビジュアルやアートワークもお金かかってない感じで、インパクトが弱いように思います。そんな中シングルカットもされた1「いけない…わからない…好きならばかまわない」は秀逸。タイトルがそそりますよね。サビでもタイトルがそのまま用いられ、大味なアンニュイを構成。音の方もラテン気味でダンサブルかつごっついギターソロがエクスタシーを誘います。というか、好事家の中で本曲からWINKを連想しない人なんていないんじゃないでしょうか(強いて言うなれば「夜にはぐれて」のテイストに近いんでしょうか)。割とエネルギッシュな二人の歌唱法のせいで若干中庸に寄ってしまっている気もしますが、トラックをこの路線でもう少し引っ張っていれば…などと悔やんでしまいます。

 

https://youtu.be/bqPuagf0DfQ

Tiara「いけない…わからない…好きならばかまわない」

衣装の突き抜けたダサさ。ティアラは仕方ないにしてもさ…。

 

その他の収録曲も悪くはないけどスルメ曲は無いかなぁという印象。あくまで1を聴くためのアルバムですかね…。安価に入手できるなら良いですが、バブリーアイドル研究家の方々以外は血眼になって探すようなものでもないかも知れません。

蛇足ですが、本作を一通り聴いた後何気なしにWINKを聴いたら滅茶苦茶良く聴こえました。サウンドのゴツさがまるで違う…。

 

さて来月は渋谷CircusにてYu-Kohが開催されますね。私は2日目に行くつもりです。生でAOTQ氏(実在するのか…という謎の感想)やwai wai music resort等のアーティストを観れるまたとない機会なので楽しみです。どなた様か、お会いしましたら宜しくお願い致します。あ、あとキノコホテルの創業10周年公演も行くんだった。そっちも楽しみ。5年前くらいに「真夜中のヘヴィロックパーティー」で観たきりだもんなぁ。

廃サロン恒久保存盤2019

大して更新しなくなって久しいうちにもう年末になってしまいました…。この手のブログとして締めをやっておきたいと思います。

 

大学生くらいの頃から勝手に「今年のベスト盤」を決めるようになりました。インターネットに居ると当然ながら同じようなことをしている方はごまんといらっしゃいまして、音楽系のブログやSNSをやられてる方は勿論、普段音楽のことなんて語ってない方なんかも気軽に「今年のベスト9(正方形に纏めやすいからに違いないんですけど、まさしくインターネット時代ゆえの選盤枚数ですよねぇ)はこれだ!」と発表していますね。私なんかはずうっと回顧主義者しているので「今年聴いたアルバムなら昔発表された作品入れても構わないや」とその年出たものに拘らず選盤するのですが、世の中の大半の「今年の○枚」はちゃぁんと「今年の」を守っています。それを眺めながら「皆すげーなぁ」と指を咥えるのを繰り返すこと数年。今年もまた「今年」を完璧には守れそうにありません。でもね、これもまた沢山の人が仰ってることを拝借致しますと「過去の作品を「今」の人が初めて鑑賞するならば、それもまた「今」の作品として立ち上がり得るのだ!それでいいじゃねぇか!」と。だからといって胸張って誇れるようなもんでもないんでございましょうが、「「今年」とは「今年生まれ出るもの」だけを指すではない」というマイルールを振りかざしてお粗末にレビューさせていただきたく存じます。世間的にも名盤過ぎて「今さら?」な作品も登場するかと思いますが、それ一番私が分かってるから…という訳でご容赦ください。

 


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1,ハレトキドキ「追憶のネビュラ」(2019)、及びハレトキドキシングルの数々

Vaporwave・FutureFunkが世間様に見つかってしまい、その展開・一挙一動が毎度界隈で賛否両論を生む「オカシナ」世の中になって久しい中、今年はある種ハレトキらしい一年であったように思います。ユーロビートの復興、「J-POP」の(何度目?な)再評価、その中で幾多のオマージュがメインストリーム・アンダーグラウンド関わらず登場していますが、ハレトキはシンデレラストーリー的快進撃を遂げていると思います。

私が初めてハレトキを認知したのは1stシングルである「キスミー」を友人から「これ良かったよ」と借り受けたことが切欠でした。nsn氏の可愛らしいジャケやLP風デザインの盤、そしてなによりbrinq氏によるユーロビートを踏まえつつも「どの時代らしさもありながらどの時代のものでもないような」楽曲のアレンジ・クオリティに衝撃を受け、慌てて(まだ友人から借りている状態にも関わらず)渋谷タワレコに「キスミー」を買いに行きました。その後も「タッチミー」「テルミー」「GET MY LOVE」「サンシャイン・ラヴ」とハイペースなリリースを享受しながら「これはスゴいものが進行しつつあるな」と。また今年6月には高円寺にて開催された「ジャスコランド」という古町moi氏主宰の「ジャスコテック(スーパーマーケット味を感じるペラっとしたサウンド)」なるジャンルのイベントでvo.のみさつん氏の昭和アイドル歌謡DJを聴き、その触れ幅に感動したものでした(小川範子「ガラスの目隠し」から森川由加里「SHOW ME」の流れが嬉しかった)。そして結成一周年記念公演を踏まえて発売された待望の1stが本作「追憶のネビュラ」なのです。

既発のシングル表題曲・カップリングを中心とした構成なのでつい最近ハレトキを知った人にはちょうど良く全曲入手できる嬉しいアルバムですが、正直シングルを集めてた身には新鮮味に欠ける…。と購入前には思っていたのですが、いざ聴いてみると途切れなくハレトキの楽曲の数々を堪能できる当たり前な幸せ。アルバムという形態でのリリースはやはり嬉しいものですね。件の新曲も素晴らしーです。「Dividing My Heart」は、やもすれば失礼かも知れませんが「ポップアーティストのアイドル歌手への提供曲セルフカバー」のような趣。ハレトキらしさ全開でこれまでに培われてきたエッセンスがふんだんに盛り込まれているものの、そのキレキレさが逆に提供曲感を漂わせているのでしょうか。ご本人登場の高貴。アルバムのみの収録だからか…?表題曲?の「Nebula」もボイスコラーモリモリでこれぞテクノ歌謡!な一曲。素敵。キレキレながらもポップでキュートな楽曲が続くなか、本作のイメージの触れ幅をグッと拡張しているのがInterlude。特に「Interlude2[RAVEN]」は、今年聴いたテクノインストの中で一番好きかもしれません。ミニマルながらも濃いめの味付けな本曲はさながらリッチーホウティン(特に「The Tunnel」の頃の)がサイバートランスに転向したら、なバキバキっぷり。惚れます。ハレトキを単に「みんな大好きアイドル歌謡」なユニットだと軽んじていると痛い目に遭いますね。極めつけは代表曲「キスミー」のケンモチヒデフミremix。これが最高、「ほぼ全曲持ってるから買わなくていいや」と言わず買っといて良かったです。アジアンかつ荘厳な味付け・仕組みの連続はタルヴィンシン(懐かし…)の「OK」なんかを連想させますね。これをアルバムの最後に持ってくるハレトキ…、ボートラでなくあくまでアルバムの締めくくりとして扱われることでアルバムを通して聴き終えたときに唖然を誘ってきますがこれが何故か気持ちよい。このリミックスによって、既リリース曲寄せ集めでも、かといって綺麗に整頓された順風に心地よいだけでもない、劇場型のアルバムと化していると言えましょう。勿論「キスミー」という懐の広い、何にでも成れそうな楽曲の崇高さも忘れてはいけません。

ハレトキの活動、マジで一週間毎くらいに濃密になっていてSNSから目が離せません。来年には本作のリリパもあるので気になる方は是非。前回の一周年記念ライブではブラウン管と草木を用いた、さながらナムジュンパイクの「ケージの森」のような舞台になってましたが次回はどうでしょうかね…。今後もますます精力的にリリース・ライブ等こなしていっていただけることを願っております。


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2,やや「ベストナウ やや」(1990)

いきなり29年前にタイムスリップです。てか本作、ついこないだ記事にしたばっかじゃないのよ。しかしそれでも、私にとって今年は本作無しには語れません。詳しくは本作単独の記事を読んでください。突発的にある昔のアーティストにドハマりすることの多い人生でしたが、今年は何と言っても彼女でしたねぇ。知らんがな。

ムード歌謡に歴史の教科書があるのならば、ややは絶対に最終章に記載されるべき人物でしょう。2019年にはムード歌謡は成り得ませんもの。現代がつまらない時代だと感じる理由が幾つもあるとしたら「ムード歌謡が成立しないから」というものもそのひとつ…と信じて止みません。


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3,「Kouta Katsutaro」(2019)

ややでムード歌謡の話になったので思いきってその源流らしきものの頃まで遡ってみましょうか、80年前くらいに。

本作はBandcampで「Death Is Not The End(世界の土着音楽やブルースを無国籍的に再解釈し配信しているレーベルです、という説明で正しいでしょうか…?)」が今年リリースしたベストアルバムです。Twitterで何名かの方々がお勧めしているのを見てダウンロードしました。歌手の名は小唄勝太郎。昭和初期あたりに活躍した芸者であり女性歌手です。「お座敷小唄(当時は「ハァ小唄」と呼ばれていたようです)」というジャンル?のアーティストとしては始祖に近い、後のムード歌謡に通じる楽曲の数々を歌った方のようですね。昭和のこの手のアーティストだと「ゲイシャ・ワルツ」で著名な神楽坂はん子が挙げられますが、その遥か前の芸者シンガー。

本アルバムの良い点はアーティスト名・楽曲名共にローマ字表記なところでしょうか。少なくとも日本人にとってはなのですが、こうすることにより時代感が排されジャージー・憂い・エキゾ等を纏った勝太郎の楽曲の数々を古くさくなくむしろ新鮮な室内音楽として楽しむことができますね。「遥か過去の作品であっても、今初めて観賞し愉しむことができるのであればそれは「今」の作品なのだ」を信条にディグを継続する中で本作はそのお手本のようなスタンス・形態でリリースされたと言えます。「お座敷」という男性至上主義で嫌味と捉えられがちな要素がある種障壁なのだとしたら、小唄勝太郎というアーティストは本作でそこから最大限に解き放たれたとも思います。しかしそれが私の「ビリー・バンバンニューエイジとして聴こう」みたいなヘンタイ心とはまた意味合いが違うのも事実でしょう。一世紀近くの時を越えて、勝太郎は世界に向けてアイデンティティを喪失した形で御披露目された訳ですので…。本当に「突き詰めればシンプルに愉しめばいいのだ音楽ってやつぁ」とばかり言っていてよいのでしょうかね…。謎過ぎる杞憂が始まってしまいましたが、ともかく本作は最高なリバイバルです。かく言う私は勝太郎の歌声・音のシンプルさに単純に心地よさを感じるのみですので、頻繁に通勤中の睡眠導入として聴いています。「朝からお座敷」という気負いが排されてるからこその観賞方法でしょうね。


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4,筋肉少女帯「LOVE」(2019) 収録「ボーン・インうぐいす谷」

今年を総じて振り替える回に言うのも難ですが、最近私大槻ケンヂ関連の楽曲しか聴いてません。他の作品のレビューがしづらくなるほどに。遥か以前に軽く触れていたアーティストへの偏向がふとした切欠で自分の中で再燃して歯止めが効かないという経験はこれまで何度かしてきましたが、今回再燃してしまったのはオーケンです。筋少、特撮、ソロと多岐に渡る活動をこなし、そのいずれでも単にラウドロック・ミクスチャー等といったジャンルにとらわれず其々の活動が時に融解し合う世界観を作り上げて続けていますね。先日には彼が今年始動させたポエトリーリーディングプロジェクト「大槻ケンヂミステリ文庫(通称「オケミス」)」のインストアイベントに行って来ましたが、彼の朴訥とした話法に職人芸のそれすら感じ、彼の「ラウドロックづいてる声ではなくて、うねり・粘り気を纏いつつも飄々とした発声」の良さを再認識しました、今さら。

 

そもそも彼への熱が再燃したのは先日リリースされたばかりの本作「ボーン・イン・うぐいす谷」のMVをYouTubeで視聴したことが切欠でした。本作が彼の朴訥が全開だったのです。

https://youtu.be/WT9iDI997qg

筋肉少女帯「ボーン・イン・うぐいす谷」

ある女性は小さな頃に、地元である「うぐいす谷(鶯谷とは異なる架空の地名だそうです、オーケン談)」というホテル街で頻繁にカップルの恥じらう仕草を目撃していた。彼女なりに「ホテルとは愛を大事に隠し育てる場所なんだわ、中は秘密の森になっていて鳥たちが鳴いていたりするのよきっと…」と妄想を広げていた。それを彼女は「かくれんぼ」と呼び、大人になって実際に「かくれんぼ」した時「やっぱり私間違ってなかったわ」と呟く。やがて彼女も恋人と別れうぐいす谷を去っていくのだが、その時確かに鳥のさえずりが聞こえた気がした…。以上のようなストーリーを筋少には珍しくムード歌謡(今回の頻出ワードです)チックに、しかしメタルの要素は随所に見られる形で物語っていく、という楽曲となっております。本曲が収録されている「LOVE」というアルバム自体がムード歌謡等をモチーフにコンセプト立てられた作品だそうですが、それにしても本曲は異彩を放っております。同じ「物語る」にしてもかつては主に「少年少女の鬱屈」「死生観」をテーマにすることが殆どであった筋少。2006年の再結成以後はそのようなテーマが影を潜めコミカルにシャウトな楽曲が増えてきたとはいえ、全体を通して殆ど絶唱しない朴訥とした歌唱法を含めここまで歌謡に振り切った作品はなかなかありませんでした。この歌詞、アックス(蛭子能収丸尾末広等を輩出したカルト漫画雑誌「ガロ」の後継雑誌)にぽつんと掲載される短編漫画のような趣があって本当に素敵なんですよね。近現代のお伽噺のような、陳腐に言ってしまえば「みんなのうた」のような…、テーマがテーマなのでNHKが許すはずもありませんが、それなら日曜のAMなんかでかかって欲しい作品です。

PVにしても「USAダンスに続けて流行らせたい」と語るうぐいすダンスや絵本チックというか今多いよね~なタッチの女の子のイラストが可愛らしい。お馴染みの血みどろな特効服を身につけたオーケンに何故か違和感を一切感じず「意匠の全てが成功してるな」と全開で受け入れてしまいます。

かつて80-90年代のバンドブームと渋谷系との架け橋とも言える立場にいた大槻の、意外なる寡作がここに誕生してしまったように思うのです。勿論アルバムを通して聴いても捨て曲が見つからない、申し分ない出来でありますが、廃サロン的には「ボーン・イン・うぐいす谷」を主だってプッシュしていきとうございます。


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5,西村由紀江「graceful」(1993)

今年は遅ればせながらディグの対象をニューエイジに踏み出せた年でもありました。なんだかんだで歌モノが好きなのでこれまでインストにはどうにも手が伸びずにいましたが(アンビエントなんかは大好物ですがあれはキリがないので…)、Vaporwaveへの興味関心の落ち着きからその源流を探ってみたくなったのです。手始めにブックオフでも幾度となく背表紙にてその名を目にしていたニューエイジピアニストの西村由紀江から聴くようにしたところ本作が大当たり。ニューエイジに抱いていた「安直な癒し系」という固定観念を大きく覆していただきました。本作は彼女の中でも異色らしく、ピアノの主張を抑え目に打ち込みやサックスの色気を全面に散りばめた「夜のBGM」といった作品となっております。メロウで泣かせるシンセ音に繊細で奥ゆかしい西村のピアノが妖艶に絡み付く…。2「綺 麗」なんかはそのような本作の要素をふんだんに盛り込んだ泣きインストとなっていて今年死ぬほど聴きました。ジャジーともまた異なる、都会のホテルのラウンジで流れてたらブチ上がるタイプの音楽。ニューエイジとは本来そういうジャンルでもないのでしょうけどね。濃密に夜を彩りつつ、その色は決してネオン色でなくシック。「こういう音楽聴きたいな」と期待する前に本作に出会えたことに感謝するのみです。今年親密に触れてきた音楽の中だと、アニメ版「ハートカクテル」のサントラだったり、6月にイベントで観させていただいた森で暮らす氏の楽曲等にも近しいものがありまして、このような「陰鬱としたニューエイジ」は自分の中で今年のテーマのひとつであったように思います。

、とここまでを『新蒸気波要点ガイド』を読む前に書いたのでした…。まさかピンポイントで取り上げられているとは思わず…。恥ずかしいような、でも私の稚拙な遡りの技法は案外間違ってなかったのだなぁと安心もしました。実際めちゃくちゃ良いアルバムだし。


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6,CFCF「LIQUID COLOURS」及びそのリリースライブ(2019)

あるアーティストの作品を一切聴いたことない状態でライブに行ったところ最高だったので会場でアルバムを買い、それがその年のベストに食い込んでしまった、という順序逆転サクセスストーリーが起きてしまいました。CFCFはカナダ・モントリオールを拠点に活動する(強いて言うなれば)電子音楽家。彼がdip in the poolらと渋谷・Circusにてライブを開催すると知ったのは今年の10月。dip in the poolのライブは去年のKateNV来日公演の際に観たきりだったので行かねば!と情報解禁直後にチケットを取りました。しかし肝心のCFCFについては全く知らず、なんとなく億劫でライブ当日まで音源を聴かないままに臨んでしまいました。今思えば、この「未体験のまま生でライブを観る」という状況がかえってCFCFの音楽を魅力的に感じることができた最大の要因だったのでしょう。勿論dip in the poolのライブも去年よりも更に円熟味が増して「ジャパニーズ・ニューエイジユニットとしての王者の貫禄よ…」と思わされました。しかしその直後に登場したCFCFが奏でる音楽というのが「お行儀の良いアンビエントニューエイジに治安の悪いジャングルビートが絡む」という体裁のもの!45分程度の時間、緩やかに、しかしながらノンストップで「液体」の如くぬめやかに展開していく彼の世界観に魅了されてしまいました。時折エコーがかったギターソロが介入してくることによって緩急も生まれ、浸りながらも常に覚醒した身で音楽体験ができるという点にも感動させられましたね。その後アンコールでdip in the poolとのコラボを見届け終演。物販で興奮冷めやらぬままに慌てて本作「LIQUID COLOURS」を購入し家路に着きました。

アルバムを聴いてみるとあのライブがほぼ作品再現ライブであったと分かり驚愕。CFCFのキュートながら職人気質な人柄を含む「光景」(ライブ中アロマデフューザーをいじくり回したりしていて可愛らしかった)を除けば、いつでもあのライブで体験した心地よい音に触れることができる名盤です。おまけにCD版に付属していた解説は柴崎祐二氏によるもの。非常に勝手ながら「ご無沙汰しております」という気持ちになりました。氏はそこでCFCFによる証言を踏まえて(記憶から引っ張り出した要約で申し訳ありませんが)「ニューエイジ的音響世界に(コマーシャリズム音楽的側面・俗物感の強い)ジャングルビートが絡むことで、一種のアンチテーゼとして聴くことが可能。しかし主義主張・外縁の文化的事情から切り離して単純に音を愉しむこともできる。Vaporwaveや俗流アンビエントを踏まえたリスナーは、それらとの関係性から本作を観賞できるだろう」というようなことを綴っていたように記憶しています。この解説には同意するばかりでした。「文化的背景を絡めつつ批評する心構えで音楽を聴く」という態度も「思考」という意味では勿論重要ですが、その呪縛から解き放たれることでコンテンツの受容行為はより自由かつ多岐に脚を伸ばせるようになるのでしょう。Vaporwave出現・伝播における意義のひとつに以上のような点が挙げられる、と考えていた身としては本作及びCFCFとの出会いは久々にそのような「平和な受容」について考える良い機会となりました。加えて「アンビエント」「ニューエイジ」「ジャングルビート」という(リバイバル的流行を抜きにして)「昔のアイテム」と形容されてしまう要素の数々が融合し上質な「新しいキメラ」が誕生した、という現象も素晴らしく感じます。そのキメラとしての状態に拍手喝采しつつ各々の構成要素についての興味関心が改めて立ち上がってくるのです。特にジャングルに関しては南米のレゲエを原産とし日本では90年代に小室哲哉らが多様し流行した、という奇妙な背景を持ちながら普段「わざわざジャングルを聴く」ということもない、割と謎なジャンルです。そのビートが持つ単純明快なノリの気持ちよさが正に本作を極めて珍しい「ダンサブルなニューエイジ」に仕立て上げている…。あくまで私個人の話ではありますが、今後のディグにおいてはジャングルというものを多少なりとも頭の片隅に置いておくべきだな、と思わされました。気持ちいいもんね、ジャングル。


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7,BARBEE BOYS「eeney meeney barbee moe」(1990)

祝・BARBEE BOYS(何度目かの)復活!okamoto'sとの対バンを皮切りにKONTA主演のトレンディラブコメの傑作「・ふ・た・り・ぼ・っ・ち・」のDVD化、新譜「PlanBee」の発売、そして来年は代々木体育館と渋谷公会堂(追加公演)にてワンマンが開催されます。かく言う私も先日やっとの思いで渋公の方のチケットを獲得しました…。行くっきゃないでしょこれは。トレンディロックバンドとして余りにも有名なBARBEE BOYS。「目を閉じておいでよ」「女ぎつねon the run」なんかは最早バブル期のアンセムですよね。今さら語ることも無いですが、今年たまたま復活宣言のちょっと前に私の中でリバイバルが来てしまった、ということで本作にも軽くメモ書き程度に触れておきます。

元々学生時代に「√5」だけ聴いて追及していなかったのですが、夏ごろに改めて諸作を聴いてみて再燃。特に彼らの(解散前)ラストアルバムである本作の出来の良さはちょっとやり過ぎなくらいですね。男女の痴話・戯れを小綺麗でなく生々しく、それ故奇妙に描いた作品を中心に産み出してきた彼らですが、本作収録曲はどれもその世界観の強固な完成形であり捨て曲なし。マリリン・モンローの本名を冠し、いきなりKONTA絶唱で切り出される1「ノーマージン」から、曲名とは裏腹に全力疾走でスタミナ消費していく2「三日月の憂鬱」に続き、全ての振り返りを「何だったの?」と睨み返すかのような3「あいまいtension」(バービーで一番好きで、ニコニコ動画には最高なPVが上がってますね)、イマサの妖艶なボーカルにより緊張感漂う4「クラリネット」、ミディアムながら言葉遊びによりキャッチャーな5「勇み足サミー」(この曲、シングルカットなので当然ですがYouTubeにTV歌唱映像がやたらある印象)、KONTAソロの6「医者になんかわからない」と、ここまで全曲アップビート。対して後半は個人的にバービーの集大成と言うか「これでおしまい!」と宣言しているように感じる9「Na Na Na」を除けばスローなナンバー中心。杏子ソロの8「静けさに」は小刻みなギターのカッティングにどこか初々しさを感じる色っぽいつくり。そしてラスト12「おやすみ よそもの」はここに来てバービーの新機軸的世界観。生々しさは相変わらずなものの余りにも絶望的で「好きだけどあまり頻繁には聴けない曲」のひとつ。ここまでKONTAと杏子が声を張らない楽曲は無かったんじゃないですかね。

正にBARBEE BOYSの短い活動期間をジェットコースター並みに凝縮させたかのような寡作。近年何度か行ったライブでも本作から採用されることが多いみたいですね。来年の公演でもせめて「あいまいtension」くらいは聴けたらいいなぁと願っています。

 


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(8),中村由利子「アトリエの休日」(1994)

もし仮に「今年のベスト」を「今年一番聴いた盤」と解釈する場合があるのでしたら、私の場合本作に尽きます。今年の後半は通勤電車の中でほとんど毎朝のように(軽く眠るため)本作を聴いていましたから。前述の小唄勝太郎なんか比にならないくらい聴きました。

内容に関して言うことは特にありません。本作を聴いてる時は眠っているので。強いて言うなれば、ピアノ・ニューエイジモノの中でも特に起伏が少なく、心静かにさせてくれる傑作だと思います。「そういうアルバムが一番いいんだよね」とも別に思いませんけど…。知的好奇心的にはダメなリスニング傾向。ということでカッコ付きのベスト入りとなります。

 

…と、こんなところで締めようと思います。「コンセプト含めてお気に入り」「頻繁に聴いた」「一曲だけでなく全曲をまんべんなく聴いた」等を考慮して選定すると以上に留まってしまうんですよね。特に発掘盤かつベスト、と言えるものもなく、そういう意味では廃サロンを始めておいて難ですが「運命の出会い」には乏しい年だったのかも知れません…。ですが今年は予てより生で観たかったアーティストのライブに行ける機会も多かったですし、VHSディグなんかも(良くも悪くも)捗ってしまったので、単に「CDディグ」だけをしていたのでは得られない出会いが幾つもあったように感じています。来年もそんな入り組んだ出会いに期待し、生きる活力にしていきたいものです。

ではまた2020年にお会いしましょう。よいお年を…。

P.S. 気力があればこの次に2019年YouTubeベストを書きます。今年出会った変な動画について。

別館 電影魔窟で拾い上げるVHS③

早くもVHS談義第3弾です。VHSディグを音楽関連以外のソフトに拡張してから、明らかに映画を観ることが増えました。私はドラマが(独特のノリや展開、また12,3回は絶対に観ないといけないという拘束感により)苦手で『孤独のグルメ』以外は全く観ません。まだ映画の方が好きなのですが、それでも2時間じっくり観るというのはちょっと辛いので、これまでは年に観て3本程度でした。しかし今年は20本くらい観てます、VHSで屑映画たちを。バブリーものは何故か大体90分程度で観れるものばかりですし、演者のファッションや都市の雰囲気、ベタな展開を楽しんでいればストーリーなんてどうでもよくなるので楽ちんです。映画がマジで好きな方々にタコ殴りにされそうですが、いずれにせよ「結構映画を観ている」というのはこれまでの自分になかった感覚なので純粋に嬉しいです。「良い映画」を観ない、という気負いのなさがまたディグライフの醍醐味なのかもしれませんね…。今回もそんなお気楽な作品からご紹介致します。


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『どっちにするの。』(1989)

渋谷TSUTAYAにてレンタル。赤川次郎の小説『女社長に乾杯!』を原作とした、中山美穂主演の快活ラブコメでございます。監督は『就職戦線異状なし』の金子修介

ひょんなことから玩具メーカーの副社長となった中山、彼女が周囲を巻き込み倒産状態にある会社の再建に乗り出す、とまぁ大筋はそんなところ。同時に社長に就任するのが中山の後輩役であった伊藤智恵理(あんまり存じ上げないのですがバラドル?メガネのせいで斉藤祐子にしか見えなかった)、専務には万年係長だった小林克也。3人の要職就任直後の浮かれっぷりがベタベタで気持ちいいです。

ブコメなので当然中山を2人の男が取り合うのですが、それが若かりし風間トオル真田広之という構図。本作を観て私確信致しました、若い頃の風間トオル滅茶苦茶いいな。以前Twitterの方で紹介した『東京Xマス・ラブウォーズ(出演:菊池桃子鈴木京香風間トオル吉田栄作etc.)』というドラマビデオでも鈴木京香の相手役として風間が好演していたのでレンタルした際にも期待を寄せていたのですがやはりバブル期の風間は良い。純朴で控えめ、しかしながら熱いときはとことん熱いのです…。終盤にはオフィスを花で敷き詰めたりしちゃいます。「クイーン」ぽさが未だ成熟しきっていない頃の中山とのギクシャクぶりは微笑ましい限りですね。一方の真田はテンプレなワルい色男を演じつつ「絶叫マシーンに乗ると奇声を放ち爆笑しながら仕事のアイデアをメモしまくる奇人」という役柄でもありまして、そこは十分本作の見所なんじゃないでしょうか。

「序盤にディスコに遊びに行っちゃう作品は大体良作」理論を提唱する私にとっては理論の裏付けに足る作品だったなぁと感じましたが、一方で本作がDVD化していないのも頷けます。だってノリがモロ植木等の映画ですもの。「オフィスで起こった偶然の不遇を偶然のゲットラックの連鎖で成功に持っていく」という、こういう確定ボーナスなノリって映画を無駄に後味悪くして有無を言わさず傑作足らしめたがる現代には流行らないのでしょうね。

あ、忘れてました。アイドルとして絶頂期だった頃の宮沢りえが、風間を想う会長の孫娘役で出演してます。当時の宮沢の服用方法がいかなるものだったかがよく分かる役柄でした。ゲロゲロ~。はしゃぎすぎで篠原ともえかよ、とすら思いましたけど。何故に宮沢りえはしっとりサブカル側にベン図を拡張できたのか、バブル期のアレコレを追っているとつくづく不思議なんですよね。あの頃のCMNOWを読んでても、こういう映画なんか観てても、ただただ「宮沢りえ今回もスベってんな~」としか思わないのに。もしかしたら凄く明白な事情があるかもですが(無垢なので宮沢りえの諸々について何も知りません…)そんなに興味ないのでパスで。ついでですが乙女塾の(平成の昭和アイドルこと)中嶋美智代も宮沢の友達役で一瞬出てきます。エンドロール観るまで全く気づきませんでした。

主題歌は中山美穂の16thシングルでもある「Virgin Eyes」です。杏里が作った滅茶苦茶「杏里~」な曲ですね。こういう映画にはゴージャスかつ中庸な曲が映えますね。

バブリー邦画を集めてると、結局こういう映画を現代に観るとき「演者のキャラクターと組み合わせ」に良し悪しが全て委ねられるなぁと痛感しますね、当たり前なんですけど。「当時どういうキャラクターだったか、今現在どういうキャラクターなのか(当時はトレンディ俳優でも現在ハチャメチャで全然違う個性で活躍しているとまた見る目が変わってくる)」「主演級俳優の組み合わせがトレンディ濃度を丁度よく保っているか(個性派がひとりワンマンで引っ張って行っちゃうバブリーものは正直あんまり観なくてもいいかな、クニコさんとか純次さんとかが主演だとまず視聴候補から外してしまう)」など、ストーリー等はそっちのけで考えて観ています。何の役にも立たないですが、無益なことを時代遅れのツールで行えることがただ幸せなんです…。そういう意味では本作には大満足でした。テンポもよくスカッとする作品ですのでお時間のある方は一度暇潰しに視聴されることをオススメします。あ、あの、またYouTubeに上がってしまってることですし…(レンタルしてから気づいた)。

https://youtu.be/Y-DoGfWLZYk


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『愛と平成の色男』(1989)

こちらも渋谷TSUTAYAにてレンタルした代物です。簡単に申し上げると「石田純一が「我々が一般的にイメージする石田純一像」を演じたイメージビデオ的映画」です。「不倫は文化」的石田の方です。監督・脚本は『の・ようなもの』等でおなじみ森田芳光。彼のキャリアを汚した可能性もある本作ですが、結論から言うとなかなか面白かったです、突っ込み所が多くて。

鈴木保奈美演じる妹と共に昼は歯医者を経営し、夜はサックス奏者なジャズメンという2つの顔を持つ男、長島道行はドチャクソなプレイボーイ。治療中に若い女性客を口説いたりディスコで「ウチの歯医者で治療しない?」と口説いたり…。しかし女性から結婚のアプローチを受けると上手くかわす。彼は結婚嫌いなのです、プレイボーイなので。そんな彼の悩みは不眠症、ある夜「不眠症を解消してくれそうな女の子」と出会ったことで長島のセックスアンドザシティライフは徐々に崩壊の匂いを漂わせる…。あらすじだけでも本作のコメディっぷりはお分かりになっていただけるかと思いますが、ストーリー(そんなものが本作にあるとしたら、ですが)は淡々と進行します。しかしながらちょくちょく流れる長島のポエジーな心情描写が滅茶苦茶で爆笑もの。何が「差し歯ならホタルイカを噛むことができるけど、指輪ではツメも噛めないよ」だよ。そんな「100万ドルの夜景よりも君が~」的なクサい台詞まみれな作品、まさに「全盛期の石田純一」ならでは、というか代役のなかなかきかない適役であったことには違いありません。

個人的には、数多く登場するプレイメイトのひとりとして鈴木京香が登場するのが残念でした。片田舎?に住む鈴木演じる坂木恵子はたまたま出張演奏に来ていた長島に惚れ上京。最終的には長島に「心配しないで、経験はあるから…」と迫る始末。初期の鈴木京香にやってほしくない役柄一位でした…。そういえば彼女がCD出したの今年でしたね。もっと前に感じるな。こちらはその30年前のお話…。逆に妹役である鈴木保奈美お転婆ぶりは適役でした。兄の彼女から結婚を迫られると演技で助け、報酬として指輪を受けとる歪んだ兄妹関係には当時「白鳥麗子でございます!」等でもぶっ飛んだ演技をしてくれていた彼女が釣り合います。

私的にはトレンディラブコメとして完璧だった本作。都知事に立候補しようとしてドスベリした挙げ句たるんだ顔つきが何故か嫁の親父に似てきてしまっている現在の石田からは想像できない「あの頃の彼」をお腹いっぱい拝めます。元来役者志望だった彼の精一杯の棒演技をご賞味あれ…。

https://youtu.be/AbuIxD-_dBs

こちらもYouTubeに上がってしまってました…。


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『フォーエバー・フィーバー』(1998)

今は亡きVHSショップ「大山LINK」で100円で購入。アジア映画のVHSはちまちま集めてますがこちらはちょっと珍しくシンガポール映画(DVD化されているので希少価値自体は無し)。イナタい青年のトラボルタっぷりが気恥ずかしいジャケですが、内容もそのまま「トリビュート・オブ・『サタデーナイトフィーバー』」な映画です。舞台は1977年、ブルース・リーを愛する青年ホックはたまたま友人と観に行った『サタデーナイトフィーバー』にドハマり。即座にガールフレンドのメイとダンスレッスンに通い近日開催のダンスコンテスト出場を(賞金5000ドルを目当てに)目指すがそこには執拗に嫌がらせをしてくるライバルがいて…といった内容。

大筋自体は毒にも薬にもならない青春映画です。しかしあくまでアジアンコメディということでどこか特有のダサ~が散りばめられており、そこが本作の見所なんでしょう。ホックは『サタデーナイトフィーバー』を何度か一人でも映画館に観に行くのですがその時毎回スクリーンからトラボルタがニュッと出てきて話しかけてきたり。ジャケの通りホックがダンスコンテストにトラボルタコスプレで出場するシーンなんかは爆笑しつつ「日本でも『サタデー~』公開当時は流行りたてのディスコにマジであの格好で来てた寒い奴も結構いた」らしいというエピソードを思い出し、つくづくアジアの虚しさなんかを…笑。

シリアス展開も要所要所にあるのですが、こちらもまた当時のお国柄テイスト。ダンスコンテストの優勝賞金5000ドルでホックはバイクを買いたいと考えているのですが、そこには「幼少期、通学に毎日8キロ歩かされた。その度に家族にバイクで送ってもらってる連中が羨ましかった。その時「金持ちになったらバイクを買う」と誓ったんだ。チャイナタウンに越してくる前のことさ」という理由が。またホックの家族関係(両親と3人兄妹)は頑固親父のせいで劣悪なのですが、唯一両親にベタベタに愛されていた弟で医学生レスリーが「ゲイであり性転換したい」と告白すると親父に即勘当されてしまいます。これもストーリーに大きく影響を与えるポイントなのですが、それ以前に唐突にセクシャリティの問題をねじ込むあたりシンガポールでは日本以上に身近というか迫るもののあるトピックだったのでしょうか。

こちらも快活極まりない良い作品でした。サントラも『サタデー~』使用曲のカバーの連続ですが遜色なし。サントラ欲しいんですが一部の図書館にしか無く断念しました…。


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『東京ストーリーズ 恋の熱帯低気圧』(1990)

駿河屋にて210円で購入。1989-90までフジテレビで深夜に放送されていた「東京を舞台にした恋愛物」がテーマのオムニバスドラマのビデオセレクションです。各30分の放送で、全44回あるそうなんですが、VHSとして発売されたのは本作ともう一本のみ。各回の主演を見てみると中村由真藤井一子尾美としのり等のトレンディ期の演技を観られる回もあったようなので、現在その中からビデオをもってしても6本しか観られないというのは誠に残念です。またトレンディドラマの「雰囲気」は好きなものの、全12回ほどあるドラマという形式を観るのが苦手な私のような人間にとってはうってつけのフォーマットであったわけですが…限りあるブツを大切に観賞しましょう。

収録作品は表題作の「恋の熱帯低気圧」に加え「バラ色の人生」「ダイナマナイト」の全3本。「恋の~」はお天気お姉さんを演じる屋敷かおり(すみませんが存じ上げません…)の彼とのすれ違い生活を描いた作品。Z-BEAMというお笑いコンビが出演していますが、こちらも存じ上げません。90年代のみ活躍したお笑い芸人を観ると(例え存在を知らなくても)特殊なシュンとした気持ちになるのは私だけでしょうか。

「バラ色の人生」は整形美人役の千堂あきほと同じく整形ハンサム役の宇梶剛士によるラブコメ。たまたま同じ整形外科にて手術を受けていた二人が偶然バーで出会い付き合い始めますが、お互いは整形の過去を隠したまま。そんなある日ひょんなことから宇梶の整形がバレてしまい…という大筋。格安CDディガーの方々にもお馴染み千堂あきほの主演にはガッツポーズをせざるを得ませんが、それにしても滅茶苦茶な美人ですね…。また、(実際は新宿生まれのド・シティボーイ)な宇梶のかっぺな方言丸出し演技が観られるのも貴重なポイントです。当時の宇梶、当時の徳永英明アスファルトフュージョンさせたような濃さのハンサムで胸焼けがしそうです。

そして「ダイナマナイト」は上記2作からの流れで観ると面食らう異色作。銀座のビアガーデン会場へ合コンに来たOL同期7人組、しかし男たちの方は一向にやってこない。最高にかしましい女性陣は方々で不満や愚痴、世間話を矢継ぎ早に繰り広げる。暫くしてやっと「男たち」がやって来るのだが…というあらすじ。ラブコメではなくあくまで純にコメディの体裁です。本作の特徴は、何より出演・脚本・演出を「自転車キンクリート」という劇団が務めている点でしょう。観ていて感じる、良い意味での余白の無さや鑑賞者を飽きさせない台詞の応酬、そして細やかな伏線が次々に回収されていきながらも気軽に観れる作りには感心させられます。カメラワークの切り替わりによってTVであることを意識させられますが、もし固定画面であればそれこそ小劇場でコメディを観ている錯覚に陥ることでしょう。「ダイナマナイト」だけで十二分に元が取れるVHSでした。

バーテンにとってのマティーニのように、物語を編む者にとって短編とは一番技量が如実に試されるフォーマットです。ここで「恋の熱帯低気圧」「バラ色の人生」のようにいかにもラブコメドラマ然とした俗で気楽なものが良作なのか、「ダイナマナイト」のようにほとんど喜劇な強固なつくりのものが良作なのか、それは好き好きかもしれませんが、少なくともそのどちらもを受け入れられる「東京ストーリーズ」という枠がかつてフジテレビに存在したことを脳の片隅に記憶しておきたいものです。

 

という訳で今回は映画・ドラマのVHSのみをご紹介しました。次回はまた音楽系などもご紹介できたらと思います。美川憲一のVHSを4本まとめ買いしたばかりでもあるので…。

第12回 やや「ベストナウ やや」

久しぶりにCD一枚で一本のコラムを書いてみます。VHSや古雑誌の探索と平行してCDディグも通常ペース(通常:休日の度に図書館でCDを10枚借りる程度)で継続していましたが中々「これは!」というアーティストやアルバムに出会えず難産でした。前回の中級収穫も実は前々から少し書いては中断し、を繰り返していたものだったんですね。ひとつ前のCD一本でのレビュー、安斉かれんの0円8cmシングルから結構経ちましたが、現在当サロンで最も閲覧されているのはその記事です。ディグでもなんでもない記事が最も読まれているのは複雑ですが有難い限りでございます…。

つべこべ言ってないで本題に入りましょう。「バブル!」「トレンディ!」とうるさい当サロン。80-90年代頃の「俗」を愛好しているとどうしてもディグの対象がそういった趣、もしくはその延長線上にあるカルチャーになってしまいます。本来はディグの最大の醍醐味でありそうな「世間の認知度が低い良作なのか否か」は二の次で、ただただ時代に見捨てられた「俗」を追い求めてしまうディグライフ…。と嘆く遥か前に当ブログを何度かお読みの方はとっくにそんなのお気づきでしょうね。

 

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やや「ベストナウ やや」(1990)

東芝EMI TOCT-9065

 

目黒区の図書館にてレンタル。今回取り上げるのは「超有名「俗」アーティスト」、やや(小島八重子)です。いや~最近一日中ずーっとややのことばっかり考えてましたよ。今もしもインタビューで「今一番ハマっているものは何ですか」と訊かれたらVHSとかそっちのけで「やや!」と即答してしまいそうです。インタビュー受ける身分じゃなくてよかった。

1959年生まれ、かねてより芸能界入りを希望し、その「(良い意味での)場末なハスキー声」を用いて1982年に覆面ユニット「ヒマラヤ・ミキ&MODOKEES」として平山みきの代表曲「真夏の出来事」をカバーするなどして活動開始。そして1985年、いとうせいこう氏がプロデューサーとして初めて手掛けたことでも知られるヒップホップコンピレーションアルバム「業界くん物語」(コメディドラマVHS化もしています、ネット上に結構動画が上がっているのでそちらをどうぞ)に「夜霧のハウスマヌカン」で参加。本曲が翌年シングルカットされ「タモリ倶楽部」等で取り上げられたことからヒット。1986年の日本有線大賞にて新人賞を獲得し一瞬時の人となります。その後は北島音楽事務所に所属、1990年には(当時女性歌手の全員が歌っていたような気がする)「ランバダ」を彼女もリリースし便乗ヒット。しかし2000年に姉が亡くなり、それを切欠に実家の鉄工所の社長に就任し一時引退状態に。ただここで終わることなく、2014年に自主レーベル「ややレコード(!)」を設立し、現在も僅かながらリリース・営業活動を継続しております。こう言っては難ですが、所謂一発屋と見なされる方です。

私は正直今まで「夜霧のハウスマヌカン」及び彼女の存在をぼや~っとしか知らず(世代ではないので…)、先日たまたまYouTubeで「夜のヒットスタジオ」での歌唱映像を観て「何故今まで知らなかったのか…」と大いに悔やみ即図書館のサイトを回って検索。すると意外に所蔵がなく、その中でベストアルバムである本作をかろうじてレンタルできた、という訳です。彼女はオリジナルアルバム「花道~HA・NA・MI・CHI~」をリリースしているのですが、収録曲はほぼこの「ベストナウ やや」がカバーできているのでとりあえずこちらで我慢しました。でもジャケが最高なのでいつかは入手したい一品です。↓

 

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やや「花道~HA・NA・MI・CHI~」(1987)

 

ハウスマヌカン」なのでマネキンなジャケ、ややのニューウェイビーなメイクも相まって最高~。しかし「ハウスマヌカンだからマネキンなアートワーク」というのは「談合事件を取り上げてるワイドショーで「だんご三兄弟」が流れちゃう」的なちぐはぐさがありますね。別にいいですけど。ちなみに前述した「夜のヒットスタジオ」での歌唱映像もマネキンに囲まれた舞台装飾の中でややが絶唱するものとなっております。こちらも最高~↓

https://youtu.be/BV76SO9r3ZM

やや「夜霧のハウスマヌカン

徐々にその色が濃くなっていきますが、今回のコラムはYouTube上のやや関連の素晴らしい映像たちを皆で観賞しましょうの会でもあります。お楽しみに。

 

とりあえず本ベストアルバムに話を戻しましょう。ジャケはオリアルと比較すると演歌歌手のベスト然とした地味~ながらバブリーお姉さんなアートワーク。その鍵盤柄セットアップはどこで買えるんだよ。演歌歌手じみているのは北島音楽事務所所属であることや「夜霧の~」が演歌パロディであることによるものでしょうが、彼女は所謂「演歌歌手」ではありません。当時の持ち歌から考えるに、「ムード歌謡」「コミックソング」「電波アイドルソング」等、歌謡界の俗を煮詰めた複雑なジャンルを包括的に請け負う歌手でした。美川憲一なんかと実は割と割り当てられた音楽性が近いんじゃないか、などと思ったりします。後は後発の平成OLアイドル達とかもですよね。おやじGALSとか、平成おんな組とか。そんな彼女の本ベストアルバムには前述済みの「夜霧の~」「ランバダ」をメインに(この時点で何かが異常なんですよね)、「OLルンバ」「なぜかスターになっちゃった」等、香ばしいタイトルの楽曲が詰まっています。

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暗くてすみません…

 

そういえば未だ「夜霧のハウスマヌカン」について詳述していませんでしたのでそちらから。世代でない方々に念のためご説明しますと「ハウスマヌカン」とは今で言うショップ店員ですね。ブティックやらモールのテナントやらでDCブランドを身につけ販売する、当時はかなり女性の憧れの職業でした。カフェバー・ディスコに生息する高感度でバブルらしいオッシャレ~な身分、しかしいとうせいこうはその軽薄な生き様を皮肉たっぷりに歌詞に込め導入で「流行り廃りに命を懸けた 浅はか女」と表現。刈り上げたヘアスタイルを自嘲、見栄張ってる癖に昼飯はいつもシャケ弁当、三十路も近いけどどうすっぺか…と芸能人として駆け出しのややに歌わせました。洒落もトレンディもない、まるで「山谷ブルース」の世界。突き詰めていくと最早コミックソングでもないんですよ、これ。

しかし何しろ体裁が演歌なもので、スナックでカラオケするにはバッチリ合います。YouTubeで検索すると「夜霧のハウスマヌカン」用に作成されたに違いないカラオケビデオが2本も出てきます。

https://youtu.be/kI7_JoL61wM

まずはこちらから。女優が若干ややに似た細身の女性。客にはいい顔をしつつ腹ではムカムカ。商材である洋服に囲まれ、しゃがみこんでシャケ弁当を食べるシーンは涙なしには観れません。夜には野郎向けな居酒屋で「もう一本お銚子つけてよ~大丈夫だってば!」なんてやってます。可愛いな。

https://youtu.be/Q2J_cDUwQdI

もう一本はこちら。まず、なんとテレサ・テン歌唱なことにびっくり。調べてみるとテレサ・テンのベストアルバムの一部にのみ収録されているレアバージョンみたいですね。ややのドスとは対極にある、こなれてない感じが良くはありますがさすがに原曲には敵わないかな。

ビデオの内容、一本目と比べていきましょう。女優がハウスマヌカンかどうかは微妙な所が大きな違いです。でっかいグラサン掛けてブティックや表参道を徘徊(男から煙草に火貰えなくて可哀想)、ほっかほっか亭の前で(こちらでは中身映りませんが恐らく)シャケ弁当を開封しそっ閉じ。三番のタイミングではグラサンを外しました、こちらも美人さんね。そしてこちらでは店に入らず路上でロシア人が呑んでそうなウイスキーの小瓶をグイっと。指折り齢を数え「来年三十路ダワ」と確認し終わります。

「夜霧の~」についてはこんなところで終了しておきます。ちなみにもうひとつのヒット曲「ランバダ」についてですが、石井明美バージョンとは別の歌詞なものの編曲もカマオ等のいわゆる原曲のまんまなので大した違いはありません。しかしながらややのハスキーボイス(彼女や平山みき、りりィ系統のハスキーボイス大好きなんですよね)が活きており私的にはお気に入りです。

 

ではその他の収録曲についても。ミーナ・マッツィーニのカバーで弘田三枝子ザ・ピーナッツ等によるカバーも有名な2「砂に消えた涙」は刑事ドラマのEDなんかに合いそうなパーカッション重めで打ち込みベースなミディアムポップス。気持ちいいよ~こういうの。

4「OLルンバ」では分かりやすく当時のオフィスレディーのテンプレート像をまとめてくれています。「結婚したいけれど」「女子大生の悪口ばかり」「仕事できない男たちより給料安い」。私が集めているトレンディビデオだとバリバリのキャリアウーマンなんてものは基本登場せず、このような「なんとなく働いてるけど与えられる仕事は大体お茶汲み・コピーとり。早めにイイオトコ見つけて結婚しないと行き遅れる」という枕詞を被せられた女性キャラクターのもとに何かしらのラブロマンスが起こる、という構造がほとんどです。現実問題それが状況として如何なものか、という点は置いといてストーリーとしては大変観賞しやすいんですよね。宗教画にAという動物が出てくると必ずBという状況を示唆している、というような定型と似ています。「夜霧の~」ではそれをハウスマヌカンという職業に限定して唄った訳ですが、こちらはより間口の広いOL。スローなルンバの形式を取らずにハイエナジーものなんかにしていたらこちらの方が寧ろ当時の女性には親しみやすかったのではないでしょうか。いや、限定してたからこそのインパクトで売れたという方が正しい見方なのは承知してますが。

5「なぜかスターになっちゃった」では、それこそ何故かイントロ・間奏・アウトロでパイプライン的テケテケサーフロックサウンドが引用されています。初っぱな、あの「テケテケテケテケテン…!」から急に減速してミディアムな打ち込みムード歌謡調に移行する様は完璧な間抜けさで一聴の価値あり。歌詞もややのデビューまでの半自叙伝のような作りで、コミカルなものの「ややのファン」しか興味ないであろう内容。「ややのファン」というパワーワード。本アルバム全般の「コミックムード歌謡」のノリが好きでないと厳しい曲ですね。

だいぶ飛びますが12「芝浦エレジー」は「演歌とバブリー平成OLアイドルソング」の融合が叶った傑作です。体裁は宴会ですが「高速3号線」「プールバー」「ソルティドッグ」といったベタなバブリーよくばりセットの応酬には嬉しくなってしまいます。そもそもウォーターフロントですから。長山洋子ですらアイドル期と演歌歌手期の切り替えはスッパリしたものだったので、ある種長山洋子越えか?胸焼けするほどのギターソロが泣かせます。

13はこれまたカバー「夢は夜ひらく」。歌詞は石坂まさをではなく園まりバージョン。ややのカバーにしては合点が行くような、ややが唄うには重すぎるような。バブルキャラの架空の十八番という想定で聴くとしっくりきます。

特筆すべき楽曲はこんなものでしょうか。サウンド・歌詞はおなじみのギミックまみれで「スゲー」とはなりませんが「ハウスマヌカンを唄ったやや」という概念が全てに磐石な土台を設けてくれているので、鑑賞者も真剣に向き合えば「安さ」を勝手に「時代感」へと補完できる仕組みになっていますね(?)。鼠先輩がピークで出したベストアルバムの体裁のオリジナルアルバム「ベストヒット☆コレクション-2008~2008-」と全く同じ理由での傑作と言えましょう。

 

「現在でも精力的に活動中」と前述しましたが、最後にややの今を観てみましょう。

 

https://youtu.be/r8k_1cLZmPM

やや「夜霧のハウスマヌカン

ウォーターフロント」の催しで唄うやや。マジで寂しいな…。声のドスがグレードアップしていてセクシー極まりないですが、観客の少なさやバックの大漁旗?により「演歌」の嫌な側面の方をフィーチャーしてしまっている最悪のステージです。この曲絶対にお祭り向けじゃないんだよ。主宰の誰か、呼ぶ前に気づけよ。

https://youtu.be/ozC0p397W-s

こちらは船橋の祭りで歌うやや。インタビュー付きです。だから祭りに呼ぶなって。冒頭に実行委員?の男性が「いやーびっくりですよ…!あの大スターがこの祭りに来てくれるなんて…!」と半笑いで答える様に憤りを禁じ得ません。しかもこのステージ、一般人の地獄のカラオケ大会の余興じゃありませんか。最悪~。デュエットとかしなくていいからさぁ…。

どちらのステージでも当時を彷彿とさせるキメキメ衣装で登場してくれるややの心意気に脱帽です。俺だったら幾ら仕事なくても「夜霧の~」唄いに祭りなんか出たくないな。

https://youtu.be/zB729808kXs

やや「夢 舞う 夢」

お口直しにややの現在での最新シングルを。本格な歌謡路線にシフトしていることが窺えます。短いながらインディーズ感満載のチープゴージャス。当時のややのイメージを崩壊させず、熟年の技を魅せてくれています。女社長感。年とってますます平山みきに似てきてますね。コンテンツとして観賞に値するかというとそういうものではないと思いますが、頑張ってるなぁ、と…。自身の会社でのセルフマネジメントですから。

 

ジャンルという枠組みの崩壊や特有の時代感の喪失が音楽においていやがおうにも自明な昨今(近年で最後に「こんな時代の音楽」ということで商業的に成功したのってマジであやまんJAPANだけなのではないでしょうか)。私がレトロやトレンディにおける俗を希求する理由のひとつに「現代に「今」らしい、「今」しかできない音楽が存在しないから」というものがあります。かたちばかりの昭和・平成回帰、そんなものは儚さの上塗りでしょう、分かっています。しかし「今」が余りに薄口すぎて刺激に欠けることからそういった酸性のコンテンツが注目を集め、我々も追随してしまうというのもまた現実。「過去を懐かしがってばかりいないで「今」ある素敵なものを味わえ」と言われても、現状がこれでは中々…。とりあえず今私なんかにできることは「愛護されず早急に打ち捨てられてしまった過去」をサルベージすることだけ。当時を知らなかった者にとってはどれだけ過去の作品でも「今触れている」のものなんですから。それが如何に無力なことかを痛感しつつ、今日も「夜霧のハウスマヌカン」を愛聴するばかりです…。

 

おまけ

https://youtu.be/dBy-RiuBlvQ

やや「真夏の出来事(平山みき)」

ややのモノマネ番組出演時の映像でお別れです。クリソツ。当時平山が風水の影響で全身黄色のものを身につけるようになったところまでモノマネしていて嬉しい。

中級な収穫まとめ その5

2回連続でVHSディグの成果を紹介する記事になってしまい「廃サロンも早くも廃業かな…」と思いかけてましたが、裏腹に枕元にはCDがうず高く積まれていく日々(VHSも同様にうず高いんですけど)。もうこれはちょっと1枚の盤で固有の記事を書くのは諦めてごった煮レビューにしてしまおう、ということでこちらを執筆しております。今年はまだパ音とCFCF+dip in the poolとNightTempoのライブが残ってますし流石にそろそろビデオだけでなく音楽に向き合わないと…。という謎の罪悪感を中級レビューで消化していきたいと思います。

 

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アヤパン(高島彩)「着信のドレイ」(2002)

もしかしたら現時点で今年一番聴いた盤かもしれません。少し前に渋谷ディスクユニオンにて450円で手に入れました。神保町に存在するアイドル歌謡の聖地「タクト」で確か3000円程度で売られていたのを見たことがあります。破格。

こちらは元フジテレビアナウンサーの高島彩がフジテレビの深夜番組「千枚CD」の企画でアイドルとしてアヤパン名義でリリースした唯一のシングルです。当時の高島はまだ駆け出しの新人で、本作も1000枚限定販売だったようです。後の彼女の正にアイドル的人気、00年代の女子アナブームを牽引した功績(?)から考えると枚数の少なさに驚愕しますね。A,B面共に作詞は秋元康、作曲は馬飼野康二というウンザリするくらいお馴染みな面子。さらに表題曲「着信のドレイ」はWINKを彷彿とさせるユーロ歌謡という情報は前々から入れていたので気になってはいたんですよね。この価格帯でなければ絶対に買いませんが…。

まあまあ、しかしながら一聴してみると我らがバイブル「ラグジュアリー歌謡」に掲載されているだけあるな、という味付けがなされています。というか単に「WINKぽさ」を煮詰めた味付け。安易と冒涜の間なWINKオマージュ許すまじ、という方には全くオススメできませんが、小刻みな拍の取り方に合わせて指先をタップしているとそんなこともどうでもよくなってきます。本作に限らないのですが、このような半狂乱なパカパカパカというパーカッションを聴いているといつもKRAFTWERKに一瞬在籍していたフェルナンド・アブランテスのことを思い出してしまうんですよね。KRAFTWERKのコンセプトから逸脱しかねない動的な叩きっぷりに見かねたラルフとフローリアンがクビにしたと専ら噂のアブランテス…彼の技法めちゃくちゃ好きなんですが。彼のクビを切欠にKRAFTWERKのライブにおけるコンピューターのみでの音源制御が進んだというのも皮肉な話でして…ここには全く関係ないですが…。

https://youtu.be/IiDFpDwpTxs

KRAFTWERK「Numbers,Computer World(percussion:Fernando Abrantes)」

 

歌詞は「彼氏からのメール中毒になっちゃったよー」というもので、松浦亜弥のデビュー曲「ドキドキ!LOVEメール」の激情版といった趣です。音がギトギトすぎて大して歌詞の内容が聴いてても入ってこないので言うことは特にありません。すみません。ただサビで1番では2段階、2番では3段階にフレーズのキーを上げて繰り返す所は無理あるだろって感じで笑ってしまう。書いててレビュー向きでないなと思いつつ、でも紹介したかったのでこんなところで締めます。中級なのでこんなもの。とにかく聴き始めると私みたいに連続10回くらい聴いてた!という羽目になること請け合いです。

今のJ-POPって「あの人からの既読が全然付かないんだけど未読スルーしてんのかしら?」って歌詞存在するんですかね?「いいね!の数よりも大切なものがある!」みたいな奴はたまに見かける気がするんですが。

https://youtu.be/ouCtoguv0Zw

アヤパン「着信のドレイ」

 

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セクシーメイツ・他「テクノカラオケ Vol.1」(1994)

目黒区図書館でレンタル。タイトルでお察しいただけますでしょうか。そう、以前ご紹介したこともあるザ・マイクハナサーズの類似作品です。「ハートのエースが出てこない」「ロマンスの神様」「決戦は金曜日」等といった当時の新旧カラオケ定番曲を赤の他人が歌うという内容。さらに殆どの楽曲の歌い手はこれまた以前取り上げたギリギリガールズC.C.ガールズ等と同様セクシーアイドルの一派である「セクシーメイツ」(男性歌手の曲はマジで知らん誰かさんが歌ってます)。おまけに各曲テクノアレンジ(ユーロビートハイエナジーの要素もありますが根幹はデステクノ系でしょうか?ゴリゴリ)が施されています。これでみんな大好きと言わず何と言いましょうか。私だけか?カラオケ屋の機種でDAMを選択すると歌謡曲を調べてる時に(テクノアレンジVer)みたいな奴が出てくるのを見たことのある方はいらっしゃいますでしょうか?どうやらそれが本作の収録曲らしいです。ブックレットにそのように記載されていました。

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前書き、最高か…?

マイクハナサーズのものと主に違う点は、全曲フルコーラスのものをフェイドアウト無しに繋げているので長尺で聴き続けやすい所とセクシーメイツの歌唱が本人に近づける気の全くない、あくまでカバーなので「これはこれで」という気持ちで聴ける所でしょうか。いや、めちゃくちゃ良いですよ本作。「テクノカラオケ」と名乗ってハウス系に逃げてない点も大いに評価できますね。

先ほど上げた収録曲の他も、セクシーメイツ歌唱のものはアイドルものとガールズポップ系に絞られてます。プリプリが入ってないのが「らしい」というか。珍品としては中森明菜の「愛撫」なんていう渋い飛び道具も収録されています。いやー笑っちゃうくらいデステクノアレンジが似合わないこと。「フー!」って言われてもねぇ。

廃サロンの信条のひとつである「度が過ぎた俗物精神の愛護」を考える上で必聴盤であることは間違いありません。では何故本作で一本書かないのか?オススメには値しないからよ!こんなの私だけ楽しいやつです、どうせ。

Vol.1ということでまだ他にもシリーズが存在するようです。裏町で密やかに捜索を継続したいと思います。

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セクシーメイツの皆さんです。

https://youtu.be/GB38YqcD5dk

↑歌唱動画が無かったのでせめて動くセクシーメイツもどうぞ。


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杉真理「ladies&Gentlemen 」(1989)

目黒区図書館にてレンタル。シティポッパーの方々にはナイアガラ人脈として、また名盤「Stargazer」等でお馴染み杉真理がトレンディ期に発表した10thアルバムです。以前まで杉真理は全く聴いたことなかったのですがVHSディグで出会った赤星たみこ氏原作のトレンディドラマ「恋の街東京」の主題歌として本作収録の「歴史はいつ作られる」が流れたのを聴いて即図書館のサイトでレンタル予約をしました。VHSディグがCDディグに繋がる、ディグの連関が起こる瞬間というものは誠に気持ちがいいですね…。まずアートワークがなかなか秀逸だと思いました。フォーマルな男女のシルエットがシンプルながら古くせー。ブックレットの中にもかつてのクリップアートを彷彿とさせるテイストのイラスト(各々に脈絡なし)が散りばめられています。こういった古本屋のワゴンセールで打ち捨てられているwindows教則本みたいなノリは大好きですね。Vaporとはまた違うような、オタクくんの精一杯のお洒落と言うべきか、なんか可愛げがあって素敵です。

肝心の内容は中庸ながら、要所要所で杉の卓越したポップセンスが光る好盤となっております。件の「歴史はいつ作られる」は正当にトレンディドラマ主題歌してます。博愛な詞にポップス表千家なアレンジが何の間違いもなくハマってくれています。ポンキッキ感ある平和な楽曲です。その次曲「月に行く舟」も最高なんですが、メロディーの展開がモロ「いちょう並木のセレナーデ」で笑ってしまいます。「moonlight」「古ぼけたコメディのような」等、変哲無さそうで実は現代J-POPで聴くことは叶わないフレーズが散りばめられていて快感と失笑に包まれますね。そのまた次曲はうってかわってハードビートなラテンポップス「エウロパのSunset」。これが本作の最高傑作ではないでしょうか。ノリはどちらかと言うとめいこ嬢よりかは松岡直也氏の方のラテンか?夕焼けにスペーシー要素を絡めた詞はオッシャレ~とはどこかひとつ掛け違えてしまったかのようなちぐはぐさ(「エウロパ=木星の第2衛星」の意なんですね)。でも、こんな丁度いいBPMのラテンを提示されてしまえば踊らずにはいられません。和レアリックとか深いこと考えてはいけません。「カンパリ色の空」の下、僕らは躍り狂うしかないのです…。「クリスマスのウエディング」はテンプレなクリスマスソングの寡作。実はこれもVHSディグで出会ったトレンディドラマビデオの主題歌だったんですね。菊池桃子鈴木京香風間トオル吉田栄作出演のトレンディクリスマスラブコメのB級名作『東京Xマス・ラブウォーズ』。主演4名の最高すぎる布陣はもとより(本作がほぼドラマ初出演だった鈴木の可愛いこと…)、端役がピンクの電話吉村明宏(アッコの物真似といえばMr.シャチホコじゃなくて彼ですよね)、高橋ひとみ等と「VHSトレンディドラマディグをしていると遭遇しがちな皆様」を総ざらいしていて嬉しくなってしまいます。YouTubeでも観れるのでうっかりURLを貼ってしまいましょうか。

https://youtu.be/MUGe7_HUHpw

そして本作の終盤、四人の恋の行方は如何に…?を飾るのが杉真理の「クリスマスのウェディング」だったのです。J-POPのオルゴールアレンジなんかにも通じる陳腐な優しさを感じながらも「結局こういうのも好きなんだなぁ」などと自分が「人間」である実感を持たせてくれます。

VHSディグには一度視聴したのち作品を反芻することで見聞を拡張していく喜びがありますが、音楽は手間のかからなさから何度も飽きずに聴き進んでパラノイアになっていく喜びがあります。その2つが絡み合ってしまうとちょっとヤバいな、と本作から思わされました。ビデオの視聴感覚が音楽によっていつまでも延長され続けてしまう…。


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三枝成章ハートカクテル Vol.6」(1991)

突然ですが、皆さんは「癒し」とか「BGM」ではなく純粋に「寝るため」に音楽を聴くことはございましょうか…?私は頻繁にあります。学生時代は晩の就寝前に好きな音楽を聴いてたらいつの間にか眠りについていたということがしばしばありました。しかし今は出勤時間が朝6:00とかなので、通勤電車内で「今軽く寝ておかないと仕事きっついな」と若干子憎たらしい理由で、「寝るため」の音楽をウォークマンで流しながら電車の座席の端に寄りかかりながら眠っています、毎朝。早朝の眠気眼の身にとって電車・駅って割とうるさい場所で、振動音・車内アナウンス・他の乗客のひそひそ話等「軽く寝たいだけなのに」という立場からはキツい雑音に満ちています。だからそうして散漫になりがちな意識を「音楽」一点に全て委ねる必要があるんですね~。

私にとって「寝るため」の音楽に肝要なのは①楽器数、音使いがミニマムであること②ほぼパーカッションレスであること③アルバムにおいて、一曲毎の長さが3,4分であること、この3点です。①②については最低用件と言いますか、こうでないと眠れないのです。生楽器モノにしろシンセものにしろ、パーツが過剰では眠れたもんじゃございませんし、波打つところに一定の振動が付いていては「ノリ」を引き起こしてどうしても気を牽かれてしまいます(ささやかなドラム程度なら可)。さらに③の要素に叶っていればより「使いやすい」アルバムだと言えます。アンビエントニューエイジのアルバムだとしばしば「50分一曲のみ」みたいなものも存在しますが、これだと導入部を聴き覚えてしまいなんとなく頭で「あぁこういう曲だったなぁ」などと思わされ、眠りへと沈み混むのが遅れてしまいます。その点3,4分の曲が12曲程度収録されているアルバムですと、シャッフル再生によっていくらでも眠りの導入を新鮮にすることができます。どうせ途中で寝てしまうのであんまり各曲しっかり記憶しませんしね。ちなみに逆に1分程度の小品が沢山入っているものも気が途切れやすく、加えて曲間の無音時に外部の雑音を聞くハメになるので×です。この3つを全て満たす作品というものはなかなか見つからず、日々少ない手持ちカードの中から一枚アルバムを選出し「今日は眠れるか…?」と不安におののきつつ瞳を閉じています。まったく、我ながらどうしようもない奴ですね。

で、本作が登場するわけです。こちらは中野ブロードウェイ内のまんだらけUFOにて108円で購入。やったぁ、ハートカクテルだぁ!それにしても安すぎませんかね。わたせせいぞう氏のトレンディ・ラブ聖書コミックこと「ハートカクテル」、そのアニメ版のサントラシリーズの最終作です。本アニメのサントラといえばラテンフュージョンの名手松岡直也氏が手掛けたvol.1,2が頻繁にディスクレビューなんかで取り上げられますが、その他のアーティストの手によるものも変わらず素晴らしいです。特に本作は「お洒落」の観点だけでなく「寝るため」という実用?の観点からも最高傑作です。1「ラッキー・キーワードはG-8」を筆頭にほぼ全曲スムースラウンジものとして滅茶苦茶眠くなれるんですよ。囁くピアノ、ブリブリ言わない妖精の如きサックス、撫で付けてくれているかのようなピチカート奏法、そして柔らかにラグジュアリーなシンセ…。下北Threeの無題イベントで観た森で暮らす氏の作品を彷彿とさせます。JT提供の深夜5分アニメでこんな良質なものを提供されてしまえば、そのあまりに短い放送時間よりも早く眠りに落ちてしまいそうです。あぁ、リアルタイムで観たかった…などと思いながらメルカリでVHS版をちまちま収集しています。じゃあ別にいいじゃん。本ブログをお読みになるような方には珍しくもなんともないアルバムでしたが、私は失礼ながら以上のように「服用」しています。

https://youtu.be/fT7MkVVp2g8

「ラッキー・キーワードはG-8」

 

何度目かのリハビリ的CDレビュー、今回は以上で締めさせていただきます。

いやぁ、もう年末近いんですね。ぼちぼち今年のベストについて考えていかねばいけません。去年までと違って今年はVHSのベストも決めたいですね、全く「今年の」でもないですが。

別館 電影魔窟で拾い上げるVHS②

毎度ご無沙汰しております。最近それほどCDディグをせずにVHSや古雑誌ディグの方にかまけているので、前回に引き続きVHSの紹介をすることに致しました。


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中原めいこMEIKO TV』(1985)

こいつは希少盤ですよ!80年代にラテンとエスノポップだけを武器に歌謡界を邁進、森雪之条との共作「君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね」を残し、90年代前期に姿を消して以来伝説と化している中原めいこ。その(ほぼ唯一市販されていた)映像作品です。中原めいこの映像はYouTubeなどにも当時のTV番組やライブ映像等多数上がっていますが、本作については断片的にもほぼ上がっていません。メルカリで6000円と高価でしたが迷った挙げ句購入。「MTV」をもじって『MEIKO TV』だそうです。

本作は「PV」「撮り下ろしのスタジオライブ」「ミニコーナー」の3要素によって構成されております。収録楽曲はジャケからも分かるように「CHAKI CHAKI CLUB」からのもの多し。中原の黄金期と言っていい頃でしょう。ジャケの正しいキッチュ感が好きなんですよね。

PVについては、まず本作のいの一番に前述の「君たち―」が流れます。こちらだけは各種映像サイトで視聴可能ですね。TVでの歌唱時の「め組」の世界観に近いような。作りは歌詞をなぞっただけの陳腐なものですが、だからこそのチープゴージャス。メンソールのタバコをバスケットいっぱいに抱えてはしゃいでるシーンが大好きです。

https://youtu.be/BF7VDSzKBfc

中原めいこ「君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね」

 

 他にも「Cloudyな午後」の「昭和の大衆が思い描く「美大」感」溢れるPVや「ホットラインは内線424」の丸の内オフィスを教育ママメガネをかけて闊歩しつつ途中でBasta Pastaのメニュー紹介が挟まっちゃうという素敵なPV等は必見です。そして本作の目玉でもある「やきもちやきルンバ♥️ボーイ」のPVですが、これが素晴らしい。まさに「CHAKI CHAKI CLUB」のジャケ写を映像化した内容で、ピンクのバスルームでくつろぎはしゃぐ中原、そこにディスプレイが幾つも設置されサイケ色な映像が流れ、周りでは原色しちゃってる熱帯魚が泳ぐ…。恥ずかしくなってしまうくらいA e s t h e t i cで、この悦楽にだけでも6000円払う価値アリです。

スタジオライブも良きです。「恋の秘訣」「ルナルナ・TIKITIKI」「FANTASY」等の代表作・寡作を堪能できます。↓「FANTASY」については(字幕が邪魔ですが…)一応ありました、YouTubeに。エセ一風堂なBackbandがイカしてます。あと中原はこの頃のヘアースタイルが一番可愛いですね、最後期のロングソバージュもイイですがこっちの方が似合ってる。

https://youtu.be/3EElU3TpKCs

中原めいこ「FANTASY」


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最後にオマケのミニコーナーのご紹介を。まず、オフィスレディーの一週間の着こなしを中原自ら着用しナレーション(は別人なんですよね~)と共に紹介する「めいこのワンポイントレッスン」(「めいこ」となってるのが可愛い)。オフィスの回転扉を通過する中原を見下ろすかたちで撮影しているので大変見辛いですがご愛敬。次に当時の流行りのカフェバーをひたすらスライドショーで紹介する「東京カフェバー図鑑」。購入前、このコーナーを中原自らがカフェバーを訪れてリポートなんぞするのだと勘違いしていたので実際視聴してガッカリしてしまいました。当時のカフェバーの雰囲気を見るのには良いんですが肩透かし…。最後に、こちらが最も謎な「田村哲也 MOD'S HAIR 徹底取材」。こちらにも中原は登場せず、タイトル通り有名美容室であるMOD'S HAIRの田村哲也が「パリの女の子は良いですよ…」とかなんとか言ってるだけの映像です。いや、なんで?

 

45分程度と若干ボリューム不足ではありますが内容にはおおむね満足。中原めいこのチープゴージャスな世界観を冗長感なく楽しめる良作だと思います。これ自体をDVD化希望!とは言いませんが、何かの折りに中原の音楽番組出演時の映像を纏めたBOXとか出たらいいですね…。↓とかがコメント内容込みで大好きなので…。

https://youtu.be/voFdEydpldw

中原めいこ「ロ・ロ・ロ・ロシアンルーレット


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『コンピューター・グラフィクス・コレクション3』(1990)

中野ブロードウェイ内のまんだらけUFOにて300円で購入。みんな大好きCG創成期のイナタいアニメーションの短編が45分に詰まった作品集です。

VHSで観れるこの時期のゴテゴテCGアニメーションといえば「The Mind's Eye」シリーズが有名(?)ですが、そちらはYouTubeで観れるもののVHSを入手するとなると1万近くの値が付いていて、なかなかに夢のアイテムと化しております。ちなみにそちらはDVD化したものがドラッグミュージックの通販サイトでも販売されていることからも分かるように、病気の時に見る夢のような内容で最高です。ウゴウゴの巨人お姉さんのOPが生易しく思えるような。しかし部分的にはVapor感覚に直結しているシーンも多々あり、(Vaporwaveとは無関係ですが)BAVYMAISONという日本のバンド(昨年解散)がPVの素材として引用しています。

https://youtu.be/b5zMtCvWhG0

「Beyond The Mind's Eye」

https://youtu.be/gpjt_XdjTX8

BAVYMAISON「不倫」

 

このような作品集の存在を知っていただけにUFOで件のVHSを発見したときの期待感は…お察しください。しかも二本同じものが並んでいて、どちらも300円だったので思わず両方レジへと運びそうになってしまいましたが、なんとか理性を取り戻して一本購入。

で、肝心の内容はと言いますと正直The Mind's Eyeには敵わないような内容でした。どちらかというとピクサーが以前出した初期短編CGアニメ集のDVDからストーリー性を拝したような。あんまりグロくなくて残念でしたね。でも幾つかは観るべきポイントがありまして、モロにビリー・ホリデイがモデルの黒人CGオネーサンがクネクネしながらディスコソングを歌う小狂気気分な作品だったり、こちらもみんな大好きエドワードホッパーの代表作『Nighthawks』をモチーフに卓上の調味料入れが踊り出す軽く無粋な作品だったり、全体的にアメリカナイズ(出所がそっちなんだから当然なんですけど)された超短編をテンポよく観ることができます。BGVとしては最高なんじゃないでしょーか。でもなんだか物足りなくて、結局YouTubeで「TV's TV」とかをシャッフル再生で観ちゃうんですよね…。

https://youtu.be/f4BOPwQxgjI

「TV's TV」

ダサいCGアニメを観るとアキバや中野じゃなくて上野に行きたくなるのは私だけですか?


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Mi-Ke『白い2白いサンゴ礁 ブルーライト・ヨコスカ』(1991)

『白い白い、白いサンゴ礁』と読みます。1991年、B.Bクイーンズのバックコーラスグループとしてデビューし直後に独立したアイドルグループとしても活動を始めたMi-Ke(ミケ)のPV集でございます。蒲田のレコード屋にて1000円で入手。相場よりも高めでしたがなかなか遭遇しないブツなので思いきって買ってしまいました。ほぼ全シングルのPVを集めたDVDも出てますが、そちらもプレミア付きですし「Mi-KeあたりはVHSで見んと!」という謎の拘りもありますし…。

B.Bクイーンズと同じく彼女らは織田哲郎プロデュースのビーイングアイドル。楽曲の殆どはカバーで、といってもWinkとは別路線でして、主に戦後の昭和歌謡や日本でヒットした洋楽ジャンルを振り替えるようなコンセプトアイドル。アルバムは毎回ガチガチにコンセプトが固められており、順に「グループサウンズ」「60年代女性歌謡ポップス」「フォーク」「サーフソング」「ロックンロール(というかロカビリーか?)」「60年代アメリカン・ヒット・パレード」「リバプールサウンド(主にビートルズ)」というコンセプトで纏められておりました。その都度シングル用に制作されたカバーでないオリジナル楽曲は各一曲ずつ。コンセプトで固めるのはパロディするためでなく、あくまで当時を生きたオジサマ共の涙を誘い乱舞させるため。いわゆるアイドル像とは別のアプローチで媚び媚びな集団でありました。ご推察の通り、当時掠めていた60'sブームも相まって割と人気があった、ようです。1stでは当時のGSの大御所とコラボしたり(かまやつとか、その辺)、そもそもハウスまみれなアレンジカバーを許容された彼女らが受けた恩恵とか、現代の歌手がするカバーとはちょっと趣が異なるような気がします。(織田を含めた)Mi-Keというコンセプチュアルアート集団による「古き良き昭和」を小馬鹿にしながらも朗らかに世間へ再提示する態度、加護ちゃん辻ちゃんダブルユーの1stにも通じるところがあるような(ビチビチ跳ね返る「淋しい熱帯魚」…)。歌によるコスプレというものは、パロディではなくゴリゴリのアンチテーゼにも成りうるのだ、ということを考えてしまいます。そういう所も含めて私は彼女らが大好きです。

話をVHSに移しましょう。本作には「白い2白いサンゴ礁」「BLUE MOONのように」「ブルーライト ヨコスカ」の3曲分のPVが収録されております。監督を務めたのはあの岩井俊二氏。正直私、彼の作品は全く観たことないのでコメントしようがないのですが、予想外なマジカルバナナの成立という感想です。映像自体も「ヨコスカ」以外は何ともフツーですし。「サンゴ礁」ではMi-Keの3人が江ノ電に乗って江ノ島周辺を回るだけ、ですが宇徳たちが江ノ電内でマーブルチョコやポッキーなんかを食べてるシーンは単純に微笑ましくてありがとうございますという気持ちにさせられます。どちらかというと「サンゴ礁」は楽曲自体にコメントを入れておく方が正しいような気がします。本曲の歌詞はプロテストから卒業した、つまり吉田拓郎以降のフォークソングのタイトルからの引用によって成り立っており、その強引さに笑ってしまいます。「結婚するって本当ですか」とかそのまま使うなよ、サンゴ礁なごり雪を同居させてどうすんのよ、等々楽しい歌詞ですね。

https://youtu.be/nrLruKmpehs

Mi-Ke「白い2白いサンゴ礁

 

「BLUE MOONのように」はオリジナルアルバム未収録のレア曲(一部ベストには収録)で、7割くらいの力でビーイングしてるアレンジです。Mi-Keのギリギリな学生服姿が拝めます。月など一切出てこないひたすら夕方な謎PVでもあります。どうなんですかね、こういう映像観て「いや、岩井のエッセンス割と出てるよ!」ってその道を知ってる人は感じられるもんなんでしょうか。

https://youtu.be/JSSLraj66UA

Mi-Ke「BLUE MOONのように」

 

そんな中「ブルーライトヨコスカ」はMi-Keに興味のない方にも一見の価値アリな良PVに仕上がってます。カラオケビデオの体裁をとっておりサビ時には歌詞が流れてくる点、まだカラオケと言えば「カラオケボックス」よりも「カラオケパブ・スナック」だった頃を彷彿させるギラギラな電飾まみれなセット、小芝居に次ぐ小芝居、思わずこちらまで踊り出したくなるような振り付け…。全てがカワイイ。茶目っ気で成り立ったPVとなっております。全てにありがとう、ありがとう…。本VHSにはこの楽曲だけカラオケバージョンが収録されてます。家で歌えってか。

VHSがなくとも、現在でもカラオケで本曲を歌うと一部の機種ではこのPVを観ることができます。多少なりともレトロ趣味のあるご友人とカラオケに行った際にはチャレンジしてみるのも良いんじゃないでしょうか。一番の出だしでいきなりカーセックスについて歌われている曲なので強くはオススメしませんが…。

何故か本曲のみYouTubeでなくデイリーモーションに映像が上がっていたのでそちらを。

https://dai.ly/x5y2ms

Mi-Keブルーライトヨコスカ

 

最後に。本稿に取りかかっている最中に我が家のビデオデッキが寿命を迎えました。渋谷TSUTAYAでレンタルした「ふ・た・り・ぼ・っ・ち」を観ようとしたところVHSを飲み込んだまま自動で電源オフ。その後何度電源を付けても即座に自動シャットダウン。「終わった…」と思いましたね。VHSを取り出す手段は生きてたのでレンタル品は無事でしたが視聴昨日はオジャン。まだ観てないビデオが20本くらいあるのに…てか今現在も注文してこれから届くビデオが何本もあるというのに…。メルカリでビデオデッキを買うことも考えましたが、それよりいっそのこと前々から欲しかった小型のテレビデオを買ってしまいました。当時車載用として用いられていたという6インチのものです。今後はそちらをビデオライフのお供として愛玩していきたいと思います。VHSギークマン(俺か)に幸あれ…!

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