廃サロンで手に取るCD

ブックオフ・図書館・TSUTAYAなど「文化の墓場としてのサロン」で入手してきたCDを紹介します。

別館 電影魔窟で拾い上げるVHS③

早くもVHS談義第3弾です。VHSディグを音楽関連以外のソフトに拡張してから、明らかに映画を観ることが増えました。私はドラマが(独特のノリや展開、また12,3回は絶対に観ないといけないという拘束感により)苦手で『孤独のグルメ』以外は全く観ません。まだ映画の方が好きなのですが、それでも2時間じっくり観るというのはちょっと辛いので、これまでは年に観て3本程度でした。しかし今年は20本くらい観てます、VHSで屑映画たちを。バブリーものは何故か大体90分程度で観れるものばかりですし、演者のファッションや都市の雰囲気、ベタな展開を楽しんでいればストーリーなんてどうでもよくなるので楽ちんです。映画がマジで好きな方々にタコ殴りにされそうですが、いずれにせよ「結構映画を観ている」というのはこれまでの自分になかった感覚なので純粋に嬉しいです。「良い映画」を観ない、という気負いのなさがまたディグライフの醍醐味なのかもしれませんね…。今回もそんなお気楽な作品からご紹介致します。


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『どっちにするの。』(1989)

渋谷TSUTAYAにてレンタル。赤川次郎の小説『女社長に乾杯!』を原作とした、中山美穂主演の快活ラブコメでございます。監督は『就職戦線異状なし』の金子修介

ひょんなことから玩具メーカーの副社長となった中山、彼女が周囲を巻き込み倒産状態にある会社の再建に乗り出す、とまぁ大筋はそんなところ。同時に社長に就任するのが中山の後輩役であった伊藤智恵理(あんまり存じ上げないのですがバラドル?メガネのせいで斉藤祐子にしか見えなかった)、専務には万年係長だった小林克也。3人の要職就任直後の浮かれっぷりがベタベタで気持ちいいです。

ブコメなので当然中山を2人の男が取り合うのですが、それが若かりし風間トオル真田広之という構図。本作を観て私確信致しました、若い頃の風間トオル滅茶苦茶いいな。以前Twitterの方で紹介した『東京Xマス・ラブウォーズ(出演:菊池桃子鈴木京香風間トオル吉田栄作etc.)』というドラマビデオでも鈴木京香の相手役として風間が好演していたのでレンタルした際にも期待を寄せていたのですがやはりバブル期の風間は良い。純朴で控えめ、しかしながら熱いときはとことん熱いのです…。終盤にはオフィスを花で敷き詰めたりしちゃいます。「クイーン」ぽさが未だ成熟しきっていない頃の中山とのギクシャクぶりは微笑ましい限りですね。一方の真田はテンプレなワルい色男を演じつつ「絶叫マシーンに乗ると奇声を放ち爆笑しながら仕事のアイデアをメモしまくる奇人」という役柄でもありまして、そこは十分本作の見所なんじゃないでしょうか。

「序盤にディスコに遊びに行っちゃう作品は大体良作」理論を提唱する私にとっては理論の裏付けに足る作品だったなぁと感じましたが、一方で本作がDVD化していないのも頷けます。だってノリがモロ植木等の映画ですもの。「オフィスで起こった偶然の不遇を偶然のゲットラックの連鎖で成功に持っていく」という、こういう確定ボーナスなノリって映画を無駄に後味悪くして有無を言わさず傑作足らしめたがる現代には流行らないのでしょうね。

あ、忘れてました。アイドルとして絶頂期だった頃の宮沢りえが、風間を想う会長の孫娘役で出演してます。当時の宮沢の服用方法がいかなるものだったかがよく分かる役柄でした。ゲロゲロ~。はしゃぎすぎで篠原ともえかよ、とすら思いましたけど。何故に宮沢りえはしっとりサブカル側にベン図を拡張できたのか、バブル期のアレコレを追っているとつくづく不思議なんですよね。あの頃のCMNOWを読んでても、こういう映画なんか観てても、ただただ「宮沢りえ今回もスベってんな~」としか思わないのに。もしかしたら凄く明白な事情があるかもですが(無垢なので宮沢りえの諸々について何も知りません…)そんなに興味ないのでパスで。ついでですが乙女塾の(平成の昭和アイドルこと)中嶋美智代も宮沢の友達役で一瞬出てきます。エンドロール観るまで全く気づきませんでした。

主題歌は中山美穂の16thシングルでもある「Virgin Eyes」です。杏里が作った滅茶苦茶「杏里~」な曲ですね。こういう映画にはゴージャスかつ中庸な曲が映えますね。

バブリー邦画を集めてると、結局こういう映画を現代に観るとき「演者のキャラクターと組み合わせ」に良し悪しが全て委ねられるなぁと痛感しますね、当たり前なんですけど。「当時どういうキャラクターだったか、今現在どういうキャラクターなのか(当時はトレンディ俳優でも現在ハチャメチャで全然違う個性で活躍しているとまた見る目が変わってくる)」「主演級俳優の組み合わせがトレンディ濃度を丁度よく保っているか(個性派がひとりワンマンで引っ張って行っちゃうバブリーものは正直あんまり観なくてもいいかな、クニコさんとか純次さんとかが主演だとまず視聴候補から外してしまう)」など、ストーリー等はそっちのけで考えて観ています。何の役にも立たないですが、無益なことを時代遅れのツールで行えることがただ幸せなんです…。そういう意味では本作には大満足でした。テンポもよくスカッとする作品ですのでお時間のある方は一度暇潰しに視聴されることをオススメします。あ、あの、またYouTubeに上がってしまってることですし…(レンタルしてから気づいた)。

https://youtu.be/Y-DoGfWLZYk


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『愛と平成の色男』(1989)

こちらも渋谷TSUTAYAにてレンタルした代物です。簡単に申し上げると「石田純一が「我々が一般的にイメージする石田純一像」を演じたイメージビデオ的映画」です。「不倫は文化」的石田の方です。監督・脚本は『の・ようなもの』等でおなじみ森田芳光。彼のキャリアを汚した可能性もある本作ですが、結論から言うとなかなか面白かったです、突っ込み所が多くて。

鈴木保奈美演じる妹と共に昼は歯医者を経営し、夜はサックス奏者なジャズメンという2つの顔を持つ男、長島道行はドチャクソなプレイボーイ。治療中に若い女性客を口説いたりディスコで「ウチの歯医者で治療しない?」と口説いたり…。しかし女性から結婚のアプローチを受けると上手くかわす。彼は結婚嫌いなのです、プレイボーイなので。そんな彼の悩みは不眠症、ある夜「不眠症を解消してくれそうな女の子」と出会ったことで長島のセックスアンドザシティライフは徐々に崩壊の匂いを漂わせる…。あらすじだけでも本作のコメディっぷりはお分かりになっていただけるかと思いますが、ストーリー(そんなものが本作にあるとしたら、ですが)は淡々と進行します。しかしながらちょくちょく流れる長島のポエジーな心情描写が滅茶苦茶で爆笑もの。何が「差し歯ならホタルイカを噛むことができるけど、指輪ではツメも噛めないよ」だよ。そんな「100万ドルの夜景よりも君が~」的なクサい台詞まみれな作品、まさに「全盛期の石田純一」ならでは、というか代役のなかなかきかない適役であったことには違いありません。

個人的には、数多く登場するプレイメイトのひとりとして鈴木京香が登場するのが残念でした。片田舎?に住む鈴木演じる坂木恵子はたまたま出張演奏に来ていた長島に惚れ上京。最終的には長島に「心配しないで、経験はあるから…」と迫る始末。初期の鈴木京香にやってほしくない役柄一位でした…。そういえば彼女がCD出したの今年でしたね。もっと前に感じるな。こちらはその30年前のお話…。逆に妹役である鈴木保奈美お転婆ぶりは適役でした。兄の彼女から結婚を迫られると演技で助け、報酬として指輪を受けとる歪んだ兄妹関係には当時「白鳥麗子でございます!」等でもぶっ飛んだ演技をしてくれていた彼女が釣り合います。

私的にはトレンディラブコメとして完璧だった本作。都知事に立候補しようとしてドスベリした挙げ句たるんだ顔つきが何故か嫁の親父に似てきてしまっている現在の石田からは想像できない「あの頃の彼」をお腹いっぱい拝めます。元来役者志望だった彼の精一杯の棒演技をご賞味あれ…。

https://youtu.be/AbuIxD-_dBs

こちらもYouTubeに上がってしまってました…。


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『フォーエバー・フィーバー』(1998)

今は亡きVHSショップ「大山LINK」で100円で購入。アジア映画のVHSはちまちま集めてますがこちらはちょっと珍しくシンガポール映画(DVD化されているので希少価値自体は無し)。イナタい青年のトラボルタっぷりが気恥ずかしいジャケですが、内容もそのまま「トリビュート・オブ・『サタデーナイトフィーバー』」な映画です。舞台は1977年、ブルース・リーを愛する青年ホックはたまたま友人と観に行った『サタデーナイトフィーバー』にドハマり。即座にガールフレンドのメイとダンスレッスンに通い近日開催のダンスコンテスト出場を(賞金5000ドルを目当てに)目指すがそこには執拗に嫌がらせをしてくるライバルがいて…といった内容。

大筋自体は毒にも薬にもならない青春映画です。しかしあくまでアジアンコメディということでどこか特有のダサ~が散りばめられており、そこが本作の見所なんでしょう。ホックは『サタデーナイトフィーバー』を何度か一人でも映画館に観に行くのですがその時毎回スクリーンからトラボルタがニュッと出てきて話しかけてきたり。ジャケの通りホックがダンスコンテストにトラボルタコスプレで出場するシーンなんかは爆笑しつつ「日本でも『サタデー~』公開当時は流行りたてのディスコにマジであの格好で来てた寒い奴も結構いた」らしいというエピソードを思い出し、つくづくアジアの虚しさなんかを…笑。

シリアス展開も要所要所にあるのですが、こちらもまた当時のお国柄テイスト。ダンスコンテストの優勝賞金5000ドルでホックはバイクを買いたいと考えているのですが、そこには「幼少期、通学に毎日8キロ歩かされた。その度に家族にバイクで送ってもらってる連中が羨ましかった。その時「金持ちになったらバイクを買う」と誓ったんだ。チャイナタウンに越してくる前のことさ」という理由が。またホックの家族関係(両親と3人兄妹)は頑固親父のせいで劣悪なのですが、唯一両親にベタベタに愛されていた弟で医学生レスリーが「ゲイであり性転換したい」と告白すると親父に即勘当されてしまいます。これもストーリーに大きく影響を与えるポイントなのですが、それ以前に唐突にセクシャリティの問題をねじ込むあたりシンガポールでは日本以上に身近というか迫るもののあるトピックだったのでしょうか。

こちらも快活極まりない良い作品でした。サントラも『サタデー~』使用曲のカバーの連続ですが遜色なし。サントラ欲しいんですが一部の図書館にしか無く断念しました…。


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『東京ストーリーズ 恋の熱帯低気圧』(1990)

駿河屋にて210円で購入。1989-90までフジテレビで深夜に放送されていた「東京を舞台にした恋愛物」がテーマのオムニバスドラマのビデオセレクションです。各30分の放送で、全44回あるそうなんですが、VHSとして発売されたのは本作ともう一本のみ。各回の主演を見てみると中村由真藤井一子尾美としのり等のトレンディ期の演技を観られる回もあったようなので、現在その中からビデオをもってしても6本しか観られないというのは誠に残念です。またトレンディドラマの「雰囲気」は好きなものの、全12回ほどあるドラマという形式を観るのが苦手な私のような人間にとってはうってつけのフォーマットであったわけですが…限りあるブツを大切に観賞しましょう。

収録作品は表題作の「恋の熱帯低気圧」に加え「バラ色の人生」「ダイナマナイト」の全3本。「恋の~」はお天気お姉さんを演じる屋敷かおり(すみませんが存じ上げません…)の彼とのすれ違い生活を描いた作品。Z-BEAMというお笑いコンビが出演していますが、こちらも存じ上げません。90年代のみ活躍したお笑い芸人を観ると(例え存在を知らなくても)特殊なシュンとした気持ちになるのは私だけでしょうか。

「バラ色の人生」は整形美人役の千堂あきほと同じく整形ハンサム役の宇梶剛士によるラブコメ。たまたま同じ整形外科にて手術を受けていた二人が偶然バーで出会い付き合い始めますが、お互いは整形の過去を隠したまま。そんなある日ひょんなことから宇梶の整形がバレてしまい…という大筋。格安CDディガーの方々にもお馴染み千堂あきほの主演にはガッツポーズをせざるを得ませんが、それにしても滅茶苦茶な美人ですね…。また、(実際は新宿生まれのド・シティボーイ)な宇梶のかっぺな方言丸出し演技が観られるのも貴重なポイントです。当時の宇梶、当時の徳永英明アスファルトフュージョンさせたような濃さのハンサムで胸焼けがしそうです。

そして「ダイナマナイト」は上記2作からの流れで観ると面食らう異色作。銀座のビアガーデン会場へ合コンに来たOL同期7人組、しかし男たちの方は一向にやってこない。最高にかしましい女性陣は方々で不満や愚痴、世間話を矢継ぎ早に繰り広げる。暫くしてやっと「男たち」がやって来るのだが…というあらすじ。ラブコメではなくあくまで純にコメディの体裁です。本作の特徴は、何より出演・脚本・演出を「自転車キンクリート」という劇団が務めている点でしょう。観ていて感じる、良い意味での余白の無さや鑑賞者を飽きさせない台詞の応酬、そして細やかな伏線が次々に回収されていきながらも気軽に観れる作りには感心させられます。カメラワークの切り替わりによってTVであることを意識させられますが、もし固定画面であればそれこそ小劇場でコメディを観ている錯覚に陥ることでしょう。「ダイナマナイト」だけで十二分に元が取れるVHSでした。

バーテンにとってのマティーニのように、物語を編む者にとって短編とは一番技量が如実に試されるフォーマットです。ここで「恋の熱帯低気圧」「バラ色の人生」のようにいかにもラブコメドラマ然とした俗で気楽なものが良作なのか、「ダイナマナイト」のようにほとんど喜劇な強固なつくりのものが良作なのか、それは好き好きかもしれませんが、少なくともそのどちらもを受け入れられる「東京ストーリーズ」という枠がかつてフジテレビに存在したことを脳の片隅に記憶しておきたいものです。

 

という訳で今回は映画・ドラマのVHSのみをご紹介しました。次回はまた音楽系などもご紹介できたらと思います。美川憲一のVHSを4本まとめ買いしたばかりでもあるので…。

第12回 やや「ベストナウ やや」

久しぶりにCD一枚で一本のコラムを書いてみます。VHSや古雑誌の探索と平行してCDディグも通常ペース(通常:休日の度に図書館でCDを10枚借りる程度)で継続していましたが中々「これは!」というアーティストやアルバムに出会えず難産でした。前回の中級収穫も実は前々から少し書いては中断し、を繰り返していたものだったんですね。ひとつ前のCD一本でのレビュー、安斉かれんの0円8cmシングルから結構経ちましたが、現在当サロンで最も閲覧されているのはその記事です。ディグでもなんでもない記事が最も読まれているのは複雑ですが有難い限りでございます…。

つべこべ言ってないで本題に入りましょう。「バブル!」「トレンディ!」とうるさい当サロン。80-90年代頃の「俗」を愛好しているとどうしてもディグの対象がそういった趣、もしくはその延長線上にあるカルチャーになってしまいます。本来はディグの最大の醍醐味でありそうな「世間の認知度が低い良作なのか否か」は二の次で、ただただ時代に見捨てられた「俗」を追い求めてしまうディグライフ…。と嘆く遥か前に当ブログを何度かお読みの方はとっくにそんなのお気づきでしょうね。

 

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やや「ベストナウ やや」(1990)

東芝EMI TOCT-9065

 

目黒区の図書館にてレンタル。今回取り上げるのは「超有名「俗」アーティスト」、やや(小島八重子)です。いや~最近一日中ずーっとややのことばっかり考えてましたよ。今もしもインタビューで「今一番ハマっているものは何ですか」と訊かれたらVHSとかそっちのけで「やや!」と即答してしまいそうです。インタビュー受ける身分じゃなくてよかった。

1959年生まれ、かねてより芸能界入りを希望し、その「(良い意味での)場末なハスキー声」を用いて1982年に覆面ユニット「ヒマラヤ・ミキ&MODOKEES」として平山みきの代表曲「真夏の出来事」をカバーするなどして活動開始。そして1985年、いとうせいこう氏がプロデューサーとして初めて手掛けたことでも知られるヒップホップコンピレーションアルバム「業界くん物語」(コメディドラマVHS化もしています、ネット上に結構動画が上がっているのでそちらをどうぞ)に「夜霧のハウスマヌカン」で参加。本曲が翌年シングルカットされ「タモリ倶楽部」等で取り上げられたことからヒット。1986年の日本有線大賞にて新人賞を獲得し一瞬時の人となります。その後は北島音楽事務所に所属、1990年には(当時女性歌手の全員が歌っていたような気がする)「ランバダ」を彼女もリリースし便乗ヒット。しかし2000年に姉が亡くなり、それを切欠に実家の鉄工所の社長に就任し一時引退状態に。ただここで終わることなく、2014年に自主レーベル「ややレコード(!)」を設立し、現在も僅かながらリリース・営業活動を継続しております。こう言っては難ですが、所謂一発屋と見なされる方です。

私は正直今まで「夜霧のハウスマヌカン」及び彼女の存在をぼや~っとしか知らず(世代ではないので…)、先日たまたまYouTubeで「夜のヒットスタジオ」での歌唱映像を観て「何故今まで知らなかったのか…」と大いに悔やみ即図書館のサイトを回って検索。すると意外に所蔵がなく、その中でベストアルバムである本作をかろうじてレンタルできた、という訳です。彼女はオリジナルアルバム「花道~HA・NA・MI・CHI~」をリリースしているのですが、収録曲はほぼこの「ベストナウ やや」がカバーできているのでとりあえずこちらで我慢しました。でもジャケが最高なのでいつかは入手したい一品です。↓

 

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やや「花道~HA・NA・MI・CHI~」(1987)

 

ハウスマヌカン」なのでマネキンなジャケ、ややのニューウェイビーなメイクも相まって最高~。しかし「ハウスマヌカンだからマネキンなアートワーク」というのは「談合事件を取り上げてるワイドショーで「だんご三兄弟」が流れちゃう」的なちぐはぐさがありますね。別にいいですけど。ちなみに前述した「夜のヒットスタジオ」での歌唱映像もマネキンに囲まれた舞台装飾の中でややが絶唱するものとなっております。こちらも最高~↓

https://youtu.be/BV76SO9r3ZM

やや「夜霧のハウスマヌカン

徐々にその色が濃くなっていきますが、今回のコラムはYouTube上のやや関連の素晴らしい映像たちを皆で観賞しましょうの会でもあります。お楽しみに。

 

とりあえず本ベストアルバムに話を戻しましょう。ジャケはオリアルと比較すると演歌歌手のベスト然とした地味~ながらバブリーお姉さんなアートワーク。その鍵盤柄セットアップはどこで買えるんだよ。演歌歌手じみているのは北島音楽事務所所属であることや「夜霧の~」が演歌パロディであることによるものでしょうが、彼女は所謂「演歌歌手」ではありません。当時の持ち歌から考えるに、「ムード歌謡」「コミックソング」「電波アイドルソング」等、歌謡界の俗を煮詰めた複雑なジャンルを包括的に請け負う歌手でした。美川憲一なんかと実は割と割り当てられた音楽性が近いんじゃないか、などと思ったりします。後は後発の平成OLアイドル達とかもですよね。おやじGALSとか、平成おんな組とか。そんな彼女の本ベストアルバムには前述済みの「夜霧の~」「ランバダ」をメインに(この時点で何かが異常なんですよね)、「OLルンバ」「なぜかスターになっちゃった」等、香ばしいタイトルの楽曲が詰まっています。

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暗くてすみません…

 

そういえば未だ「夜霧のハウスマヌカン」について詳述していませんでしたのでそちらから。世代でない方々に念のためご説明しますと「ハウスマヌカン」とは今で言うショップ店員ですね。ブティックやらモールのテナントやらでDCブランドを身につけ販売する、当時はかなり女性の憧れの職業でした。カフェバー・ディスコに生息する高感度でバブルらしいオッシャレ~な身分、しかしいとうせいこうはその軽薄な生き様を皮肉たっぷりに歌詞に込め導入で「流行り廃りに命を懸けた 浅はか女」と表現。刈り上げたヘアスタイルを自嘲、見栄張ってる癖に昼飯はいつもシャケ弁当、三十路も近いけどどうすっぺか…と芸能人として駆け出しのややに歌わせました。洒落もトレンディもない、まるで「山谷ブルース」の世界。突き詰めていくと最早コミックソングでもないんですよ、これ。

しかし何しろ体裁が演歌なもので、スナックでカラオケするにはバッチリ合います。YouTubeで検索すると「夜霧のハウスマヌカン」用に作成されたに違いないカラオケビデオが2本も出てきます。

https://youtu.be/kI7_JoL61wM

まずはこちらから。女優が若干ややに似た細身の女性。客にはいい顔をしつつ腹ではムカムカ。商材である洋服に囲まれ、しゃがみこんでシャケ弁当を食べるシーンは涙なしには観れません。夜には野郎向けな居酒屋で「もう一本お銚子つけてよ~大丈夫だってば!」なんてやってます。可愛いな。

https://youtu.be/Q2J_cDUwQdI

もう一本はこちら。まず、なんとテレサ・テン歌唱なことにびっくり。調べてみるとテレサ・テンのベストアルバムの一部にのみ収録されているレアバージョンみたいですね。ややのドスとは対極にある、こなれてない感じが良くはありますがさすがに原曲には敵わないかな。

ビデオの内容、一本目と比べていきましょう。女優がハウスマヌカンかどうかは微妙な所が大きな違いです。でっかいグラサン掛けてブティックや表参道を徘徊(男から煙草に火貰えなくて可哀想)、ほっかほっか亭の前で(こちらでは中身映りませんが恐らく)シャケ弁当を開封しそっ閉じ。三番のタイミングではグラサンを外しました、こちらも美人さんね。そしてこちらでは店に入らず路上でロシア人が呑んでそうなウイスキーの小瓶をグイっと。指折り齢を数え「来年三十路ダワ」と確認し終わります。

「夜霧の~」についてはこんなところで終了しておきます。ちなみにもうひとつのヒット曲「ランバダ」についてですが、石井明美バージョンとは別の歌詞なものの編曲もカマオ等のいわゆる原曲のまんまなので大した違いはありません。しかしながらややのハスキーボイス(彼女や平山みき、りりィ系統のハスキーボイス大好きなんですよね)が活きており私的にはお気に入りです。

 

ではその他の収録曲についても。ミーナ・マッツィーニのカバーで弘田三枝子ザ・ピーナッツ等によるカバーも有名な2「砂に消えた涙」は刑事ドラマのEDなんかに合いそうなパーカッション重めで打ち込みベースなミディアムポップス。気持ちいいよ~こういうの。

4「OLルンバ」では分かりやすく当時のオフィスレディーのテンプレート像をまとめてくれています。「結婚したいけれど」「女子大生の悪口ばかり」「仕事できない男たちより給料安い」。私が集めているトレンディビデオだとバリバリのキャリアウーマンなんてものは基本登場せず、このような「なんとなく働いてるけど与えられる仕事は大体お茶汲み・コピーとり。早めにイイオトコ見つけて結婚しないと行き遅れる」という枕詞を被せられた女性キャラクターのもとに何かしらのラブロマンスが起こる、という構造がほとんどです。現実問題それが状況として如何なものか、という点は置いといてストーリーとしては大変観賞しやすいんですよね。宗教画にAという動物が出てくると必ずBという状況を示唆している、というような定型と似ています。「夜霧の~」ではそれをハウスマヌカンという職業に限定して唄った訳ですが、こちらはより間口の広いOL。スローなルンバの形式を取らずにハイエナジーものなんかにしていたらこちらの方が寧ろ当時の女性には親しみやすかったのではないでしょうか。いや、限定してたからこそのインパクトで売れたという方が正しい見方なのは承知してますが。

5「なぜかスターになっちゃった」では、それこそ何故かイントロ・間奏・アウトロでパイプライン的テケテケサーフロックサウンドが引用されています。初っぱな、あの「テケテケテケテケテン…!」から急に減速してミディアムな打ち込みムード歌謡調に移行する様は完璧な間抜けさで一聴の価値あり。歌詞もややのデビューまでの半自叙伝のような作りで、コミカルなものの「ややのファン」しか興味ないであろう内容。「ややのファン」というパワーワード。本アルバム全般の「コミックムード歌謡」のノリが好きでないと厳しい曲ですね。

だいぶ飛びますが12「芝浦エレジー」は「演歌とバブリー平成OLアイドルソング」の融合が叶った傑作です。体裁は宴会ですが「高速3号線」「プールバー」「ソルティドッグ」といったベタなバブリーよくばりセットの応酬には嬉しくなってしまいます。そもそもウォーターフロントですから。長山洋子ですらアイドル期と演歌歌手期の切り替えはスッパリしたものだったので、ある種長山洋子越えか?胸焼けするほどのギターソロが泣かせます。

13はこれまたカバー「夢は夜ひらく」。歌詞は石坂まさをではなく園まりバージョン。ややのカバーにしては合点が行くような、ややが唄うには重すぎるような。バブルキャラの架空の十八番という想定で聴くとしっくりきます。

特筆すべき楽曲はこんなものでしょうか。サウンド・歌詞はおなじみのギミックまみれで「スゲー」とはなりませんが「ハウスマヌカンを唄ったやや」という概念が全てに磐石な土台を設けてくれているので、鑑賞者も真剣に向き合えば「安さ」を勝手に「時代感」へと補完できる仕組みになっていますね(?)。鼠先輩がピークで出したベストアルバムの体裁のオリジナルアルバム「ベストヒット☆コレクション-2008~2008-」と全く同じ理由での傑作と言えましょう。

 

「現在でも精力的に活動中」と前述しましたが、最後にややの今を観てみましょう。

 

https://youtu.be/r8k_1cLZmPM

やや「夜霧のハウスマヌカン

ウォーターフロント」の催しで唄うやや。マジで寂しいな…。声のドスがグレードアップしていてセクシー極まりないですが、観客の少なさやバックの大漁旗?により「演歌」の嫌な側面の方をフィーチャーしてしまっている最悪のステージです。この曲絶対にお祭り向けじゃないんだよ。主宰の誰か、呼ぶ前に気づけよ。

https://youtu.be/ozC0p397W-s

こちらは船橋の祭りで歌うやや。インタビュー付きです。だから祭りに呼ぶなって。冒頭に実行委員?の男性が「いやーびっくりですよ…!あの大スターがこの祭りに来てくれるなんて…!」と半笑いで答える様に憤りを禁じ得ません。しかもこのステージ、一般人の地獄のカラオケ大会の余興じゃありませんか。最悪~。デュエットとかしなくていいからさぁ…。

どちらのステージでも当時を彷彿とさせるキメキメ衣装で登場してくれるややの心意気に脱帽です。俺だったら幾ら仕事なくても「夜霧の~」唄いに祭りなんか出たくないな。

https://youtu.be/zB729808kXs

やや「夢 舞う 夢」

お口直しにややの現在での最新シングルを。本格な歌謡路線にシフトしていることが窺えます。短いながらインディーズ感満載のチープゴージャス。当時のややのイメージを崩壊させず、熟年の技を魅せてくれています。女社長感。年とってますます平山みきに似てきてますね。コンテンツとして観賞に値するかというとそういうものではないと思いますが、頑張ってるなぁ、と…。自身の会社でのセルフマネジメントですから。

 

ジャンルという枠組みの崩壊や特有の時代感の喪失が音楽においていやがおうにも自明な昨今(近年で最後に「こんな時代の音楽」ということで商業的に成功したのってマジであやまんJAPANだけなのではないでしょうか)。私がレトロやトレンディにおける俗を希求する理由のひとつに「現代に「今」らしい、「今」しかできない音楽が存在しないから」というものがあります。かたちばかりの昭和・平成回帰、そんなものは儚さの上塗りでしょう、分かっています。しかし「今」が余りに薄口すぎて刺激に欠けることからそういった酸性のコンテンツが注目を集め、我々も追随してしまうというのもまた現実。「過去を懐かしがってばかりいないで「今」ある素敵なものを味わえ」と言われても、現状がこれでは中々…。とりあえず今私なんかにできることは「愛護されず早急に打ち捨てられてしまった過去」をサルベージすることだけ。当時を知らなかった者にとってはどれだけ過去の作品でも「今触れている」のものなんですから。それが如何に無力なことかを痛感しつつ、今日も「夜霧のハウスマヌカン」を愛聴するばかりです…。

 

おまけ

https://youtu.be/dBy-RiuBlvQ

やや「真夏の出来事(平山みき)」

ややのモノマネ番組出演時の映像でお別れです。クリソツ。当時平山が風水の影響で全身黄色のものを身につけるようになったところまでモノマネしていて嬉しい。

中級な収穫まとめ その5

2回連続でVHSディグの成果を紹介する記事になってしまい「廃サロンも早くも廃業かな…」と思いかけてましたが、裏腹に枕元にはCDがうず高く積まれていく日々(VHSも同様にうず高いんですけど)。もうこれはちょっと1枚の盤で固有の記事を書くのは諦めてごった煮レビューにしてしまおう、ということでこちらを執筆しております。今年はまだパ音とCFCF+dip in the poolとNightTempoのライブが残ってますし流石にそろそろビデオだけでなく音楽に向き合わないと…。という謎の罪悪感を中級レビューで消化していきたいと思います。

 

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アヤパン(高島彩)「着信のドレイ」(2002)

もしかしたら現時点で今年一番聴いた盤かもしれません。少し前に渋谷ディスクユニオンにて450円で手に入れました。神保町に存在するアイドル歌謡の聖地「タクト」で確か3000円程度で売られていたのを見たことがあります。破格。

こちらは元フジテレビアナウンサーの高島彩がフジテレビの深夜番組「千枚CD」の企画でアイドルとしてアヤパン名義でリリースした唯一のシングルです。当時の高島はまだ駆け出しの新人で、本作も1000枚限定販売だったようです。後の彼女の正にアイドル的人気、00年代の女子アナブームを牽引した功績(?)から考えると枚数の少なさに驚愕しますね。A,B面共に作詞は秋元康、作曲は馬飼野康二というウンザリするくらいお馴染みな面子。さらに表題曲「着信のドレイ」はWINKを彷彿とさせるユーロ歌謡という情報は前々から入れていたので気になってはいたんですよね。この価格帯でなければ絶対に買いませんが…。

まあまあ、しかしながら一聴してみると我らがバイブル「ラグジュアリー歌謡」に掲載されているだけあるな、という味付けがなされています。というか単に「WINKぽさ」を煮詰めた味付け。安易と冒涜の間なWINKオマージュ許すまじ、という方には全くオススメできませんが、小刻みな拍の取り方に合わせて指先をタップしているとそんなこともどうでもよくなってきます。本作に限らないのですが、このような半狂乱なパカパカパカというパーカッションを聴いているといつもKRAFTWERKに一瞬在籍していたフェルナンド・アブランテスのことを思い出してしまうんですよね。KRAFTWERKのコンセプトから逸脱しかねない動的な叩きっぷりに見かねたラルフとフローリアンがクビにしたと専ら噂のアブランテス…彼の技法めちゃくちゃ好きなんですが。彼のクビを切欠にKRAFTWERKのライブにおけるコンピューターのみでの音源制御が進んだというのも皮肉な話でして…ここには全く関係ないですが…。

https://youtu.be/IiDFpDwpTxs

KRAFTWERK「Numbers,Computer World(percussion:Fernando Abrantes)」

 

歌詞は「彼氏からのメール中毒になっちゃったよー」というもので、松浦亜弥のデビュー曲「ドキドキ!LOVEメール」の激情版といった趣です。音がギトギトすぎて大して歌詞の内容が聴いてても入ってこないので言うことは特にありません。すみません。ただサビで1番では2段階、2番では3段階にフレーズのキーを上げて繰り返す所は無理あるだろって感じで笑ってしまう。書いててレビュー向きでないなと思いつつ、でも紹介したかったのでこんなところで締めます。中級なのでこんなもの。とにかく聴き始めると私みたいに連続10回くらい聴いてた!という羽目になること請け合いです。

今のJ-POPって「あの人からの既読が全然付かないんだけど未読スルーしてんのかしら?」って歌詞存在するんですかね?「いいね!の数よりも大切なものがある!」みたいな奴はたまに見かける気がするんですが。

https://youtu.be/ouCtoguv0Zw

アヤパン「着信のドレイ」

 

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セクシーメイツ・他「テクノカラオケ Vol.1」(1994)

目黒区図書館でレンタル。タイトルでお察しいただけますでしょうか。そう、以前ご紹介したこともあるザ・マイクハナサーズの類似作品です。「ハートのエースが出てこない」「ロマンスの神様」「決戦は金曜日」等といった当時の新旧カラオケ定番曲を赤の他人が歌うという内容。さらに殆どの楽曲の歌い手はこれまた以前取り上げたギリギリガールズC.C.ガールズ等と同様セクシーアイドルの一派である「セクシーメイツ」(男性歌手の曲はマジで知らん誰かさんが歌ってます)。おまけに各曲テクノアレンジ(ユーロビートハイエナジーの要素もありますが根幹はデステクノ系でしょうか?ゴリゴリ)が施されています。これでみんな大好きと言わず何と言いましょうか。私だけか?カラオケ屋の機種でDAMを選択すると歌謡曲を調べてる時に(テクノアレンジVer)みたいな奴が出てくるのを見たことのある方はいらっしゃいますでしょうか?どうやらそれが本作の収録曲らしいです。ブックレットにそのように記載されていました。

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前書き、最高か…?

マイクハナサーズのものと主に違う点は、全曲フルコーラスのものをフェイドアウト無しに繋げているので長尺で聴き続けやすい所とセクシーメイツの歌唱が本人に近づける気の全くない、あくまでカバーなので「これはこれで」という気持ちで聴ける所でしょうか。いや、めちゃくちゃ良いですよ本作。「テクノカラオケ」と名乗ってハウス系に逃げてない点も大いに評価できますね。

先ほど上げた収録曲の他も、セクシーメイツ歌唱のものはアイドルものとガールズポップ系に絞られてます。プリプリが入ってないのが「らしい」というか。珍品としては中森明菜の「愛撫」なんていう渋い飛び道具も収録されています。いやー笑っちゃうくらいデステクノアレンジが似合わないこと。「フー!」って言われてもねぇ。

廃サロンの信条のひとつである「度が過ぎた俗物精神の愛護」を考える上で必聴盤であることは間違いありません。では何故本作で一本書かないのか?オススメには値しないからよ!こんなの私だけ楽しいやつです、どうせ。

Vol.1ということでまだ他にもシリーズが存在するようです。裏町で密やかに捜索を継続したいと思います。

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セクシーメイツの皆さんです。

https://youtu.be/GB38YqcD5dk

↑歌唱動画が無かったのでせめて動くセクシーメイツもどうぞ。


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杉真理「ladies&Gentlemen 」(1989)

目黒区図書館にてレンタル。シティポッパーの方々にはナイアガラ人脈として、また名盤「Stargazer」等でお馴染み杉真理がトレンディ期に発表した10thアルバムです。以前まで杉真理は全く聴いたことなかったのですがVHSディグで出会った赤星たみこ氏原作のトレンディドラマ「恋の街東京」の主題歌として本作収録の「歴史はいつ作られる」が流れたのを聴いて即図書館のサイトでレンタル予約をしました。VHSディグがCDディグに繋がる、ディグの連関が起こる瞬間というものは誠に気持ちがいいですね…。まずアートワークがなかなか秀逸だと思いました。フォーマルな男女のシルエットがシンプルながら古くせー。ブックレットの中にもかつてのクリップアートを彷彿とさせるテイストのイラスト(各々に脈絡なし)が散りばめられています。こういった古本屋のワゴンセールで打ち捨てられているwindows教則本みたいなノリは大好きですね。Vaporとはまた違うような、オタクくんの精一杯のお洒落と言うべきか、なんか可愛げがあって素敵です。

肝心の内容は中庸ながら、要所要所で杉の卓越したポップセンスが光る好盤となっております。件の「歴史はいつ作られる」は正当にトレンディドラマ主題歌してます。博愛な詞にポップス表千家なアレンジが何の間違いもなくハマってくれています。ポンキッキ感ある平和な楽曲です。その次曲「月に行く舟」も最高なんですが、メロディーの展開がモロ「いちょう並木のセレナーデ」で笑ってしまいます。「moonlight」「古ぼけたコメディのような」等、変哲無さそうで実は現代J-POPで聴くことは叶わないフレーズが散りばめられていて快感と失笑に包まれますね。そのまた次曲はうってかわってハードビートなラテンポップス「エウロパのSunset」。これが本作の最高傑作ではないでしょうか。ノリはどちらかと言うとめいこ嬢よりかは松岡直也氏の方のラテンか?夕焼けにスペーシー要素を絡めた詞はオッシャレ~とはどこかひとつ掛け違えてしまったかのようなちぐはぐさ(「エウロパ=木星の第2衛星」の意なんですね)。でも、こんな丁度いいBPMのラテンを提示されてしまえば踊らずにはいられません。和レアリックとか深いこと考えてはいけません。「カンパリ色の空」の下、僕らは躍り狂うしかないのです…。「クリスマスのウエディング」はテンプレなクリスマスソングの寡作。実はこれもVHSディグで出会ったトレンディドラマビデオの主題歌だったんですね。菊池桃子鈴木京香風間トオル吉田栄作出演のトレンディクリスマスラブコメのB級名作『東京Xマス・ラブウォーズ』。主演4名の最高すぎる布陣はもとより(本作がほぼドラマ初出演だった鈴木の可愛いこと…)、端役がピンクの電話吉村明宏(アッコの物真似といえばMr.シャチホコじゃなくて彼ですよね)、高橋ひとみ等と「VHSトレンディドラマディグをしていると遭遇しがちな皆様」を総ざらいしていて嬉しくなってしまいます。YouTubeでも観れるのでうっかりURLを貼ってしまいましょうか。

https://youtu.be/MUGe7_HUHpw

そして本作の終盤、四人の恋の行方は如何に…?を飾るのが杉真理の「クリスマスのウェディング」だったのです。J-POPのオルゴールアレンジなんかにも通じる陳腐な優しさを感じながらも「結局こういうのも好きなんだなぁ」などと自分が「人間」である実感を持たせてくれます。

VHSディグには一度視聴したのち作品を反芻することで見聞を拡張していく喜びがありますが、音楽は手間のかからなさから何度も飽きずに聴き進んでパラノイアになっていく喜びがあります。その2つが絡み合ってしまうとちょっとヤバいな、と本作から思わされました。ビデオの視聴感覚が音楽によっていつまでも延長され続けてしまう…。


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三枝成章ハートカクテル Vol.6」(1991)

突然ですが、皆さんは「癒し」とか「BGM」ではなく純粋に「寝るため」に音楽を聴くことはございましょうか…?私は頻繁にあります。学生時代は晩の就寝前に好きな音楽を聴いてたらいつの間にか眠りについていたということがしばしばありました。しかし今は出勤時間が朝6:00とかなので、通勤電車内で「今軽く寝ておかないと仕事きっついな」と若干子憎たらしい理由で、「寝るため」の音楽をウォークマンで流しながら電車の座席の端に寄りかかりながら眠っています、毎朝。早朝の眠気眼の身にとって電車・駅って割とうるさい場所で、振動音・車内アナウンス・他の乗客のひそひそ話等「軽く寝たいだけなのに」という立場からはキツい雑音に満ちています。だからそうして散漫になりがちな意識を「音楽」一点に全て委ねる必要があるんですね~。

私にとって「寝るため」の音楽に肝要なのは①楽器数、音使いがミニマムであること②ほぼパーカッションレスであること③アルバムにおいて、一曲毎の長さが3,4分であること、この3点です。①②については最低用件と言いますか、こうでないと眠れないのです。生楽器モノにしろシンセものにしろ、パーツが過剰では眠れたもんじゃございませんし、波打つところに一定の振動が付いていては「ノリ」を引き起こしてどうしても気を牽かれてしまいます(ささやかなドラム程度なら可)。さらに③の要素に叶っていればより「使いやすい」アルバムだと言えます。アンビエントニューエイジのアルバムだとしばしば「50分一曲のみ」みたいなものも存在しますが、これだと導入部を聴き覚えてしまいなんとなく頭で「あぁこういう曲だったなぁ」などと思わされ、眠りへと沈み混むのが遅れてしまいます。その点3,4分の曲が12曲程度収録されているアルバムですと、シャッフル再生によっていくらでも眠りの導入を新鮮にすることができます。どうせ途中で寝てしまうのであんまり各曲しっかり記憶しませんしね。ちなみに逆に1分程度の小品が沢山入っているものも気が途切れやすく、加えて曲間の無音時に外部の雑音を聞くハメになるので×です。この3つを全て満たす作品というものはなかなか見つからず、日々少ない手持ちカードの中から一枚アルバムを選出し「今日は眠れるか…?」と不安におののきつつ瞳を閉じています。まったく、我ながらどうしようもない奴ですね。

で、本作が登場するわけです。こちらは中野ブロードウェイ内のまんだらけUFOにて108円で購入。やったぁ、ハートカクテルだぁ!それにしても安すぎませんかね。わたせせいぞう氏のトレンディ・ラブ聖書コミックこと「ハートカクテル」、そのアニメ版のサントラシリーズの最終作です。本アニメのサントラといえばラテンフュージョンの名手松岡直也氏が手掛けたvol.1,2が頻繁にディスクレビューなんかで取り上げられますが、その他のアーティストの手によるものも変わらず素晴らしいです。特に本作は「お洒落」の観点だけでなく「寝るため」という実用?の観点からも最高傑作です。1「ラッキー・キーワードはG-8」を筆頭にほぼ全曲スムースラウンジものとして滅茶苦茶眠くなれるんですよ。囁くピアノ、ブリブリ言わない妖精の如きサックス、撫で付けてくれているかのようなピチカート奏法、そして柔らかにラグジュアリーなシンセ…。下北Threeの無題イベントで観た森で暮らす氏の作品を彷彿とさせます。JT提供の深夜5分アニメでこんな良質なものを提供されてしまえば、そのあまりに短い放送時間よりも早く眠りに落ちてしまいそうです。あぁ、リアルタイムで観たかった…などと思いながらメルカリでVHS版をちまちま収集しています。じゃあ別にいいじゃん。本ブログをお読みになるような方には珍しくもなんともないアルバムでしたが、私は失礼ながら以上のように「服用」しています。

https://youtu.be/fT7MkVVp2g8

「ラッキー・キーワードはG-8」

 

何度目かのリハビリ的CDレビュー、今回は以上で締めさせていただきます。

いやぁ、もう年末近いんですね。ぼちぼち今年のベストについて考えていかねばいけません。去年までと違って今年はVHSのベストも決めたいですね、全く「今年の」でもないですが。

別館 電影魔窟で拾い上げるVHS②

毎度ご無沙汰しております。最近それほどCDディグをせずにVHSや古雑誌ディグの方にかまけているので、前回に引き続きVHSの紹介をすることに致しました。


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中原めいこMEIKO TV』(1985)

こいつは希少盤ですよ!80年代にラテンとエスノポップだけを武器に歌謡界を邁進、森雪之条との共作「君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね」を残し、90年代前期に姿を消して以来伝説と化している中原めいこ。その(ほぼ唯一市販されていた)映像作品です。中原めいこの映像はYouTubeなどにも当時のTV番組やライブ映像等多数上がっていますが、本作については断片的にもほぼ上がっていません。メルカリで6000円と高価でしたが迷った挙げ句購入。「MTV」をもじって『MEIKO TV』だそうです。

本作は「PV」「撮り下ろしのスタジオライブ」「ミニコーナー」の3要素によって構成されております。収録楽曲はジャケからも分かるように「CHAKI CHAKI CLUB」からのもの多し。中原の黄金期と言っていい頃でしょう。ジャケの正しいキッチュ感が好きなんですよね。

PVについては、まず本作のいの一番に前述の「君たち―」が流れます。こちらだけは各種映像サイトで視聴可能ですね。TVでの歌唱時の「め組」の世界観に近いような。作りは歌詞をなぞっただけの陳腐なものですが、だからこそのチープゴージャス。メンソールのタバコをバスケットいっぱいに抱えてはしゃいでるシーンが大好きです。

https://youtu.be/BF7VDSzKBfc

中原めいこ「君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね」

 

 他にも「Cloudyな午後」の「昭和の大衆が思い描く「美大」感」溢れるPVや「ホットラインは内線424」の丸の内オフィスを教育ママメガネをかけて闊歩しつつ途中でBasta Pastaのメニュー紹介が挟まっちゃうという素敵なPV等は必見です。そして本作の目玉でもある「やきもちやきルンバ♥️ボーイ」のPVですが、これが素晴らしい。まさに「CHAKI CHAKI CLUB」のジャケ写を映像化した内容で、ピンクのバスルームでくつろぎはしゃぐ中原、そこにディスプレイが幾つも設置されサイケ色な映像が流れ、周りでは原色しちゃってる熱帯魚が泳ぐ…。恥ずかしくなってしまうくらいA e s t h e t i cで、この悦楽にだけでも6000円払う価値アリです。

スタジオライブも良きです。「恋の秘訣」「ルナルナ・TIKITIKI」「FANTASY」等の代表作・寡作を堪能できます。↓「FANTASY」については(字幕が邪魔ですが…)一応ありました、YouTubeに。エセ一風堂なBackbandがイカしてます。あと中原はこの頃のヘアースタイルが一番可愛いですね、最後期のロングソバージュもイイですがこっちの方が似合ってる。

https://youtu.be/3EElU3TpKCs

中原めいこ「FANTASY」


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最後にオマケのミニコーナーのご紹介を。まず、オフィスレディーの一週間の着こなしを中原自ら着用しナレーション(は別人なんですよね~)と共に紹介する「めいこのワンポイントレッスン」(「めいこ」となってるのが可愛い)。オフィスの回転扉を通過する中原を見下ろすかたちで撮影しているので大変見辛いですがご愛敬。次に当時の流行りのカフェバーをひたすらスライドショーで紹介する「東京カフェバー図鑑」。購入前、このコーナーを中原自らがカフェバーを訪れてリポートなんぞするのだと勘違いしていたので実際視聴してガッカリしてしまいました。当時のカフェバーの雰囲気を見るのには良いんですが肩透かし…。最後に、こちらが最も謎な「田村哲也 MOD'S HAIR 徹底取材」。こちらにも中原は登場せず、タイトル通り有名美容室であるMOD'S HAIRの田村哲也が「パリの女の子は良いですよ…」とかなんとか言ってるだけの映像です。いや、なんで?

 

45分程度と若干ボリューム不足ではありますが内容にはおおむね満足。中原めいこのチープゴージャスな世界観を冗長感なく楽しめる良作だと思います。これ自体をDVD化希望!とは言いませんが、何かの折りに中原の音楽番組出演時の映像を纏めたBOXとか出たらいいですね…。↓とかがコメント内容込みで大好きなので…。

https://youtu.be/voFdEydpldw

中原めいこ「ロ・ロ・ロ・ロシアンルーレット


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『コンピューター・グラフィクス・コレクション3』(1990)

中野ブロードウェイ内のまんだらけUFOにて300円で購入。みんな大好きCG創成期のイナタいアニメーションの短編が45分に詰まった作品集です。

VHSで観れるこの時期のゴテゴテCGアニメーションといえば「The Mind's Eye」シリーズが有名(?)ですが、そちらはYouTubeで観れるもののVHSを入手するとなると1万近くの値が付いていて、なかなかに夢のアイテムと化しております。ちなみにそちらはDVD化したものがドラッグミュージックの通販サイトでも販売されていることからも分かるように、病気の時に見る夢のような内容で最高です。ウゴウゴの巨人お姉さんのOPが生易しく思えるような。しかし部分的にはVapor感覚に直結しているシーンも多々あり、(Vaporwaveとは無関係ですが)BAVYMAISONという日本のバンド(昨年解散)がPVの素材として引用しています。

https://youtu.be/b5zMtCvWhG0

「Beyond The Mind's Eye」

https://youtu.be/gpjt_XdjTX8

BAVYMAISON「不倫」

 

このような作品集の存在を知っていただけにUFOで件のVHSを発見したときの期待感は…お察しください。しかも二本同じものが並んでいて、どちらも300円だったので思わず両方レジへと運びそうになってしまいましたが、なんとか理性を取り戻して一本購入。

で、肝心の内容はと言いますと正直The Mind's Eyeには敵わないような内容でした。どちらかというとピクサーが以前出した初期短編CGアニメ集のDVDからストーリー性を拝したような。あんまりグロくなくて残念でしたね。でも幾つかは観るべきポイントがありまして、モロにビリー・ホリデイがモデルの黒人CGオネーサンがクネクネしながらディスコソングを歌う小狂気気分な作品だったり、こちらもみんな大好きエドワードホッパーの代表作『Nighthawks』をモチーフに卓上の調味料入れが踊り出す軽く無粋な作品だったり、全体的にアメリカナイズ(出所がそっちなんだから当然なんですけど)された超短編をテンポよく観ることができます。BGVとしては最高なんじゃないでしょーか。でもなんだか物足りなくて、結局YouTubeで「TV's TV」とかをシャッフル再生で観ちゃうんですよね…。

https://youtu.be/f4BOPwQxgjI

「TV's TV」

ダサいCGアニメを観るとアキバや中野じゃなくて上野に行きたくなるのは私だけですか?


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Mi-Ke『白い2白いサンゴ礁 ブルーライト・ヨコスカ』(1991)

『白い白い、白いサンゴ礁』と読みます。1991年、B.Bクイーンズのバックコーラスグループとしてデビューし直後に独立したアイドルグループとしても活動を始めたMi-Ke(ミケ)のPV集でございます。蒲田のレコード屋にて1000円で入手。相場よりも高めでしたがなかなか遭遇しないブツなので思いきって買ってしまいました。ほぼ全シングルのPVを集めたDVDも出てますが、そちらもプレミア付きですし「Mi-KeあたりはVHSで見んと!」という謎の拘りもありますし…。

B.Bクイーンズと同じく彼女らは織田哲郎プロデュースのビーイングアイドル。楽曲の殆どはカバーで、といってもWinkとは別路線でして、主に戦後の昭和歌謡や日本でヒットした洋楽ジャンルを振り替えるようなコンセプトアイドル。アルバムは毎回ガチガチにコンセプトが固められており、順に「グループサウンズ」「60年代女性歌謡ポップス」「フォーク」「サーフソング」「ロックンロール(というかロカビリーか?)」「60年代アメリカン・ヒット・パレード」「リバプールサウンド(主にビートルズ)」というコンセプトで纏められておりました。その都度シングル用に制作されたカバーでないオリジナル楽曲は各一曲ずつ。コンセプトで固めるのはパロディするためでなく、あくまで当時を生きたオジサマ共の涙を誘い乱舞させるため。いわゆるアイドル像とは別のアプローチで媚び媚びな集団でありました。ご推察の通り、当時掠めていた60'sブームも相まって割と人気があった、ようです。1stでは当時のGSの大御所とコラボしたり(かまやつとか、その辺)、そもそもハウスまみれなアレンジカバーを許容された彼女らが受けた恩恵とか、現代の歌手がするカバーとはちょっと趣が異なるような気がします。(織田を含めた)Mi-Keというコンセプチュアルアート集団による「古き良き昭和」を小馬鹿にしながらも朗らかに世間へ再提示する態度、加護ちゃん辻ちゃんダブルユーの1stにも通じるところがあるような(ビチビチ跳ね返る「淋しい熱帯魚」…)。歌によるコスプレというものは、パロディではなくゴリゴリのアンチテーゼにも成りうるのだ、ということを考えてしまいます。そういう所も含めて私は彼女らが大好きです。

話をVHSに移しましょう。本作には「白い2白いサンゴ礁」「BLUE MOONのように」「ブルーライト ヨコスカ」の3曲分のPVが収録されております。監督を務めたのはあの岩井俊二氏。正直私、彼の作品は全く観たことないのでコメントしようがないのですが、予想外なマジカルバナナの成立という感想です。映像自体も「ヨコスカ」以外は何ともフツーですし。「サンゴ礁」ではMi-Keの3人が江ノ電に乗って江ノ島周辺を回るだけ、ですが宇徳たちが江ノ電内でマーブルチョコやポッキーなんかを食べてるシーンは単純に微笑ましくてありがとうございますという気持ちにさせられます。どちらかというと「サンゴ礁」は楽曲自体にコメントを入れておく方が正しいような気がします。本曲の歌詞はプロテストから卒業した、つまり吉田拓郎以降のフォークソングのタイトルからの引用によって成り立っており、その強引さに笑ってしまいます。「結婚するって本当ですか」とかそのまま使うなよ、サンゴ礁なごり雪を同居させてどうすんのよ、等々楽しい歌詞ですね。

https://youtu.be/nrLruKmpehs

Mi-Ke「白い2白いサンゴ礁

 

「BLUE MOONのように」はオリジナルアルバム未収録のレア曲(一部ベストには収録)で、7割くらいの力でビーイングしてるアレンジです。Mi-Keのギリギリな学生服姿が拝めます。月など一切出てこないひたすら夕方な謎PVでもあります。どうなんですかね、こういう映像観て「いや、岩井のエッセンス割と出てるよ!」ってその道を知ってる人は感じられるもんなんでしょうか。

https://youtu.be/JSSLraj66UA

Mi-Ke「BLUE MOONのように」

 

そんな中「ブルーライトヨコスカ」はMi-Keに興味のない方にも一見の価値アリな良PVに仕上がってます。カラオケビデオの体裁をとっておりサビ時には歌詞が流れてくる点、まだカラオケと言えば「カラオケボックス」よりも「カラオケパブ・スナック」だった頃を彷彿させるギラギラな電飾まみれなセット、小芝居に次ぐ小芝居、思わずこちらまで踊り出したくなるような振り付け…。全てがカワイイ。茶目っ気で成り立ったPVとなっております。全てにありがとう、ありがとう…。本VHSにはこの楽曲だけカラオケバージョンが収録されてます。家で歌えってか。

VHSがなくとも、現在でもカラオケで本曲を歌うと一部の機種ではこのPVを観ることができます。多少なりともレトロ趣味のあるご友人とカラオケに行った際にはチャレンジしてみるのも良いんじゃないでしょうか。一番の出だしでいきなりカーセックスについて歌われている曲なので強くはオススメしませんが…。

何故か本曲のみYouTubeでなくデイリーモーションに映像が上がっていたのでそちらを。

https://dai.ly/x5y2ms

Mi-Keブルーライトヨコスカ

 

最後に。本稿に取りかかっている最中に我が家のビデオデッキが寿命を迎えました。渋谷TSUTAYAでレンタルした「ふ・た・り・ぼ・っ・ち」を観ようとしたところVHSを飲み込んだまま自動で電源オフ。その後何度電源を付けても即座に自動シャットダウン。「終わった…」と思いましたね。VHSを取り出す手段は生きてたのでレンタル品は無事でしたが視聴昨日はオジャン。まだ観てないビデオが20本くらいあるのに…てか今現在も注文してこれから届くビデオが何本もあるというのに…。メルカリでビデオデッキを買うことも考えましたが、それよりいっそのこと前々から欲しかった小型のテレビデオを買ってしまいました。当時車載用として用いられていたという6インチのものです。今後はそちらをビデオライフのお供として愛玩していきたいと思います。VHSギークマン(俺か)に幸あれ…!

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別館 電影魔窟で拾い上げるVHS①

はい、今回から別館を設立いたします。名付けて「電影魔窟」です。こちらでは私が収集したVHSを紹介していきます。

私はVHSを(確か)5,6年前よりちまちま集めています。当時はまだ中古メディア市場にVHSが相当数存在し、ブックオフにも一本100円~という価格帯で様々なVHS(今もそうですがディズニー映画やジャニーズ、ハロプロ系が多かったです)が打ち捨てられるように売ってました。その中には未DVD化のもの、DVDを購入するとなると高価なものが紛れており、宝探しのような気分で収集していたことを覚えています。図書館でのCDディグを始めたのもこの頃なので、私にとってCDとVHSは同じように(そこそこ)長年ディグしてきたメディアなんですね。それでも当時は「たまたま」気になるものを見つけたら買う程度でしたが、ここ2年くらい意識的に廃サロンディグをするようになるに伴い、レコード屋なんかでYMO関連やP-MODEL関連のVHSをほぼ無意識に買うようになり、件の「電影魔窟」ディグが平行してスタートしてしまいました。メインで収集しているのはどメジャーからマイナーまで問わず興味のあるアーティストのライブ映像やPV集、ほぼイメージビデオ程度なレベルのもの。ほとんどレコード屋駿河屋で購入しますが、最近はメルカリも多用するようになっちゃいました。次に90年代周辺のトレンディB級邦画。こちらはカスであればカスであるほど面白かったりするので激安なものでも気が抜けません。中古ビデオ専門店でジャケとにらめっこしながらバブリーな香りのする駄作を探すのが好きです。その次に、これはちょっと収集に努力を要するのですが、90年代のアジア映画も掘ってます。駿河屋なんかには以外に揃っておらず、ビデオ屋さんで遭遇できたらラッキーな代物です。それでも流石に「恋する惑星」レベルのものでしたらそこそこ見つけられますかね。他にもごくたまにアニメ系やCG創世記の映像集なんかも見つけられたら買う、といったところでしょうか。こんな感じでいつの間に枕元にそこそこの高さのVHS山を従えて就寝する生活となって久しいです。B級ホラーのVHSなんかを集めている方々からしたら少ない方ですが、5,60本くらいは溜まったんじゃないでしょうか。自宅のあちこちにスペースが乱立してて面倒なのであんまり数えたくないです。

VHS視聴というのは、旧式メディアギークメンにとっての「儀式」であり「祈り」なのだと思っています。DVD視聴のその1がディスクを「乗せる」のに対しVHSはテープを「差し込む」のがスタート。幾ばくかの重みを感じつつガチャリとテープを挿入すると、時間差で画面には誰が名付けたか「砂嵐」が吹き荒れる。やがてノイズのちらつく漆黒が「許可を得ずにレンタル・上映会・販売することを固く禁じます」なる文言によって明ける。そしてメーカーの禍々しいロゴと共に本編スタート。テープによっては別作品の紹介予告を見ないといけないものもありますね(ディズニー映画のビデオやレンタルしたビデオに多かったイメージですが、購入した中古テープに入ってると逆に貴重に感じられ嬉しい)。そして本編を見終えると次回首尾よく観られるように巻き戻し。例え「もう2度と観ねーな」と決め込んだものに関してもついつい巻き戻してしまう謎の性…。

これのどこが「儀式」なんじゃい、と言われてしまうと難しいんですが、チャプター分けされていない、微妙にお手軽ではないメディアに相対して愚直に観賞するのってどことなく信心深く思えませんか…?間違っても「メルカリでVHSディグってると結構大川隆法の霊言ビデオ出てくるよね」みたいな話ではございません。

前述済みですが「場所をとる」というのもVHSディグの大きな特徴のひとつであります。DVDのソレと比べて2,3倍の厚みがあるパッケージ。だからこそ背表紙のブツとしての存在感は相当で、コレクション行為の実感がCDやDVDよりも湧きやすいのは確かです。「ゴツくて格好いいなぁ」という特徴がオトコノコ本能を満たしてくれるんですよ。しかしながらスペースが無くなってくるとその代償もでかく、限られた場でないと買い取りなど望めないので手放すには「もえないゴミ」にしてしまうのが手っ取り早いという事実。私が主に集めている毒にも薬にもならないような内容・価値の作品であれば尚のこと。板橋区・大山の「LINK」というVHS屋では要らないVHSを持ち込むと割引が受けられるサービスをやっていましたが7月に閉店してしまったようです…!閉店直前にたまたま訪れておいて良かった…。

では試しに何本か最近の収穫をご披露して皆様のご機嫌を窺おうかと思います。


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『右曲がりのダンディー』(1989年公開)

いきなりコレです…勘弁してください…。私のディグ範囲ってこんな感じですよ、というものを象徴した作品です。蒲田のヒューゴにて100円で購入。

見ての通り安全地帯・玉置浩二主演のバブリーラブコメ映画。原作は末松正博の漫画作品だそうです。玉置の演じる一流商社営業マンの一条まさとは容姿端麗でスポーツ万能、都内各地にキープのギャルを持ち、一晩かけて彼女たちに会って回る生活。そんな彼の元に名取裕子や松本小雪(「夕やけニャンニャン」で鶴太郎と一緒に司会を務めてましたね)演じる問題アリの女性たちが現れひと悶着もふた悶着も起こる…ってな簡単極まりないストーリーです。内容を真剣に観るとまあまあの駄作なのかもしれませんが、「怪演」から逸脱したハツラツ玉置が観られる快活な作品という意味では最高。平成版「日本一の○○男」シリーズを作りたかったというような気概も感じます。となると玉置が植木でこぶ平(玉置の同僚として三番手役での出演)は谷啓?などと余計な感想を抱いてしまいます。他にも加賀まりこ井森美幸仮面ライダーまでもがちょい役として出演しています。井森はマジで10秒くらいしか出てなくて拍子抜けしてしまいました。ネオン輝く六本木の街を仮面ライダーのバイクに2人乗りする玉置のシーンは、これだけで「観てよかった」という気分にさせてくれます。あとは玉置が酔い潰れてバーで滅茶苦茶にゴロゴロ転がるシーンも最高ですね。主題歌の玉置ソロ作「I'm Dandy」もブラスが利きまくってて、シャウトまみれで格好いいんですよ。

https://youtu.be/unUJEU5rtpw

玉置浩二「I'm Dandy」

バブリーモノを集める中で1つの指針になるようなビデオでした。当時の定価¥14,307には目を疑いましたが…(映画のVHSは往々にして当時¥15,000程度しました)。

 

https://youtu.be/J6fPV7_q-20

↑アアッ、YouTubeで全編観れてしまうじゃないかッ、けしからん。ということでお暇な方はどうぞ。


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Wink『Winkle Winkle』(1991)

活動停止中のアイドルユニットの中で群を抜いて今最も乗りに乗っていると言っても過言でないWink。彼女らの「イメージビデオ」です。金町のビデオスターにて500円で購入。

今年は結成30周年ということで彼女らの音源や映像作品が多数再発されましたが、本作はそこから見事に漏れています。まあ内容を観れば再発されなくて当然という感じでしが。内容はWinkの二人がロスとハワイ(かどうかもよく分からない砂漠っぽいどこか)で若干微笑みながら戯れているだけの30分。BGMとして本作限定の楽曲が6曲も収録されているのですが、勿論彼女達が歌っている訳でもないインストで、出来の悪い方の俗流アンビエント未満のような何か。コレクターズアイテムと言うにもお粗末な内容で、見終えてちょっと落ち込んでしまいました。当時はWinkもタレントショップを乱立させていたと聴きますが、そういうような場所で人知れず放置されていたようなVHSなのかな、と予想する以外に私にできることはございません。せめてPV集のインタールード的に挟み込む為の撮影にしておけばよかったのに。


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中江有里「DEUXMONTS」(1993)

現在主に文筆家やコメンテーターとして精力的に活動している中江有里、そんな彼女はかつてアイドルとしてデビューしていた…!そんなどことなく淫乱すぎる設定をお持ちの中江の(こちらも)イメージビデオです。駿河屋で確か500円程度で購入。

中江は1989年にアイドルとしてデビュー後、女優業等もこなしつつ2枚のアルバムを発表。その後メディア露出は断片的になり、ちらほらと作家業を開始。近年になってコメンテーターとして見かけることが増えてきました。活動初期から漂っていた知的な印象がそのまま成熟していった素晴らしい女性だと思います。歌声も針の通ったインテリジェンス溢れるものでして、「媚び」もなく、しかし「発散」もないフラットさがあります。という訳で彼女の楽曲には逆に感想があまり持てません。どの楽曲も気持ちよく聴けるけどハッキリと印象には残らないという。彼女に提供した作家陣は中島みゆき来生えつこ松井五郎…と定番どころを抑えてて豪華なんですけどね。そして本作はそんな楽曲の数々を彼女の写真集撮影に同行し撮影したロケ映像と共に楽しめるビジュアル写真集といった趣のVHSです。この頃はこういった体裁のイメージビデオが写真集と同時発売されることが多かったみたいですね。しかしそこは中江のイメージビデオらしく、イヤらしい作りには一切なっておらずあくまで「綺麗な映像集」としてみることができます。あとはジャケにこのショットを選んでいただき有り難うございます…という感想が強いです。ちょっと、あの、完成度が凄すぎて…なんとも…とキモいのたうち回り方をしてしまいますね…。

今度中江有里松井五郎トークイベントがあるみたいですが正直予約して行くべきだったかもしれません。

 

https://youtu.be/QyRP_jfmJIM

中江有里「風の姿」

本作の映像から中島みゆき作詞作曲の「風の姿」を視聴していただきましょう。砂漠っぽいですがそんな格好で暑くないんですかね。


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『スイートスポット』(1991)

バブルの代表格である流行語「おやじギャル」の発案者として有名な中尊寺ゆつこ原作の「SPA!」に連載されていた「スイートスポット」のOVAです。こちらは西荻窪の月光キネマにて700円で入手。発見したときは求めていたものの想定していなかった対象が具現化したようなものを見つけてしまった嬉しさに狂喜しました。

主人公の小山田ノンを始めとするOLたちのゴルフにディスコにハイブランドに大忙しな日常をコミカルに描いたギャグアニメで、ストーリーは特になくオムニバス形式の単発作品という印象です。内容は恐らく漫画の方を読んでいただいた方がテンポ良く理解できるんじゃなかろかと想像しています、読んでませんが。それより特筆すべきなのが声優陣。本作は製作がフジテレビ映像企画部なるところなのですが、声優の殆どを当時のフジテレビアナウンサーの面々が務めているのです。ちょっと世代でないので知らない方もいるのですが、有賀さつきの出演が全てを物語っていることくらいは分かります。他にも八木亜希子河野景子横澤彪…と微妙な豪華さ。ですがキャラクターの殆どがモブキャラなので誰が誰を演じてるのかは観ていて全然分かりませんでした。ですが全員演技力に乏しく文化祭のような雰囲気で微笑ましいです。そんな中、主人公である小山田を演じているのが何故か唯一フジアナでない森尾由美でウケます。森尾由美なんてバブリーから最も遠いような雰囲気なんですがねぇ、当時はどうだったんでしょうか。声優っぷりはこちらもハッキリ言ってヘッタクソで感慨深いです。ジブリにも不可能な名采配…。

トレンディやバブリーな要素をドラマや映画でなくアニメで観る機会というのは少ないのでこちらは貴重な作品と言えるでしょう…か…。宝物として大事にしてます。

 

初回はこの程度にしておきます。今後も電影魔窟で何か拾い上げましたらCD同様不定期にご紹介したいと思います。頻繁に更新できるとも思いませんが、たまーにお楽しみいただけますと幸いです。では。

第11回 安斉かれん「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」

今年なんか急に夏が爆誕しましたね、それはそうとこんにちは。

先日「シティ・ポップ 1973-2019(ミュージック・マガジン)」と「WA B・O・O・G・I・E(トゥーヴァージンズ)」の二冊のバイブルを買いました。どちらもブックオフディガー近似値地帯に生息する方々には必読な内容になっていますのでまだお持ちでない方は是非。前者はlightmellowbuの方々の尽力により、90'sシティポップの名盤が充実しており、私も早速掲載されていた何枚かを図書館で借りて参りました(買えよ、とかは禁句です)。柴崎氏のブックオフディグについての総括も爽快ですよ~。後者は眺めているだけでなんだかブギーな気分になってくるディスクガイド、というか楽曲ガイドになっておりますね。あくまでレコードがメインなのでDJ向き?読みながらYouTubeでザッピングしてみるのも良さそうですね。あと「浮遊空間(亜蘭知子)」買わなきゃ、という気持ちにさせられました。

 

本題に入ります。

これまで近年リリースされた作品をほとんど取り上げてこなかった廃サロン。そりゃそうですよね、今年出たものが廃れてるはずないもの。しかし、登場の瞬間に既に錆び付いている場合もあります。今回取り上げる作品からそれを教えていただきました。それが悪なのか、もしくはかえって善なのか…皆様の視聴覚で確かめてみてください。


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安斉かれん「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」(2019)

渋谷のタワーレコードにて0円で購入。0円で購入、ですよ。配布じゃありません。レジを通して0円のレシートを貰わないと持って帰れないんです。

令和元日である2019年5月1日にエイベックスからデビューし同時に本作をストリーミング形式で発表した安斉かれん。その後8cmシングルという「今流行り」の手法で同曲をタワーレコード限定で無料販売リリースしました。7月24日には2ndシングル「誰かの来世の夢でもいい」を同じく8cmシングルで無料販売開始しました。短冊シングルフリークの方にはお馴染みかもしれませんね。1stのリリース直後にTwitterで僅かにバズっていたのを見て「欲しいな」と思っていたのですが当初は確か新宿タワレコ限定だったので(新宿のタワレコへのアクセスが不便ということもあり)入手していませんでした。しかし前書きに登場した「WA B・O・O・G・I・E」を買うために渋谷のタワレコに行ったところ普通にレジ前に置いてありまして…。予期せぬ形でタワレコが廃サロンとして立ち上がってきました。念願叶ったという感じですね。

 

まずはPVを観ていただくのが簡潔でしょう。必ずコメント欄も含めてご覧ください…

https://youtu.be/ZnuA2EYEHSw

安斉かれん「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」

…如何だったでしょうか。どうです、酷評でしょう。「浜崎あゆみのパクリ」「あの頃のエイベックスの古臭さが出過ぎ」「たぶん20年前に登場してたとしても売れない」等々。

確かにタワレコで配布されていたインタビュー記事でも「音楽性やミュージックビデオも、何もかもがエイベックスの歌姫たちの系譜と断言できる内容」と評されています。というか火を見るより明らかではありますが。「ポストミレニアルギャル」という(なんのこっちゃ)次世代型ギャルという立ち位置(というかディレクション?)である彼女。そのパーソナリティは純真無垢で「幼少期にストーンズのライブでアルトサックスを見て吹奏楽部に入った」「音楽のレッスンを優先して友達と遊べなかったり卒業式にも出られなかった」、それでも「大好きな音楽の世界で生きていきたい」から努力してきた、そう。じゃあなんですか、この音楽性は。

本作は彼女が16歳の時に制作したものらしく、当時の鬱屈とした思い・寂しさ・悔しさを吐露した内容になっています。歌詞も純真無垢、というか愚直で中学生の日記帳をミスで開いちゃったかのような気恥ずかしさを覚えます。これ故の「ダサさ」を一聴して感じてしまうのは致し方ないかもしれませんが、安斉のインタビューを読んでからだと「愚直って素敵だ…」と擦れ枯らしなはぐれ者には染み入ってしまうのです…

 

アレンジとアートワークの話に入りましょう。本作で私が思ったのは「またオタクカルチャーがギャルカルチャーに「矯正されて」輸入されていくなぁ」ということでした。90'sとVaporwaveのことです。

古くはテクノミュージック。テクノといえば勃興当時は極めてギークなジャンル。機材にかかる資金や技術の高度さは「趣味」という思いがなければ取り組みにくい、金持ちのオタクによる音楽。それが商業化・大衆化する中でディスコ向けのテクノ、すなわち日本ではハイエナジーユーロビートの流れが、世界的にもハウスやらアシッドやらのチャラいテクノが一般的なテクノ認識となったと言っていいでしょう。他の矮小な例としても「AA(アスキーアート)」や「壁ドン」等々、枚挙に暇がありません。元来オタクカルチャーの中にあったものが「可愛い・カッコいい」から採用されたり、間違った意味で(怒りを表す壁ドンが理想のシチュエーションを表す流行語として)採用されたりと、ギャルカルチャー周辺にはそんな野蛮な面があります。恐喝か?

本作のアートワークもこの説に漏れないと思います。Vaporwave的アートワークとインスタ映えは表裏一体だと言われて久しいですし、「最近注目のVaporwaveについて調べてみた!」というようなデリカシーのない記事も最近とうとう出てきてしまいましたね。過剰なネオンカラーにランダム生成の日本語、サイバーパンクにSHIBUYAのイメージ、本作のアートワークも正に「ギャルに横取りされたVaporwave」です。別に本家Vaporwaveの肩を持っても仕方ないんですが、この流れを見ると今年でVaporwaveは正真正銘最後のピークを終えるんだろうなと真剣に思います。NightTempoもフジロック出るし。更にエイベックスの90's歌姫ばりのアレンジですが、これもオタクが(アニソンにおけるものが顕著ですが音楽に限らずの)90'sに注目するようになってきた流れから奪取したきらいが拭えません。暴力的なまでのギラギラシンセにタコ殴りなギター。全然関係ないですが工藤静香の「単・純・愛 vs 本当の嘘」を思い出すアレンジでした。歌詞の幼さとマッチしているようにも絶妙な違和であるようにも思え、車酔いとエクスタシーで揺さぶられているようです…

 

安斉は青春時代に身を削って書き上げた歌詞にこんなアレンジを施されて、しかも8cmシングルで無料販売なんかされてしまって、果たして本望だったのでしょうか?もしエイベックスによる強要のプロデュース戦略でしかないとしたら… 本作のアレンジはats-が出がけています。かつてはHΛLのキーボーディストとして活躍し、浜崎あゆみやAAAの楽曲もガッツリ手掛ける人物でもあります。「本人」の仕業だったんですね…笑 HΛLブックオフディグでよく見かけるんですが聴いたことなかったです。図書館にあるし聴いてみようかな。

 

…と、言いたいことを言い放題してしまいましたが、本作めちゃくちゃ好きです。PVはもう2度と観ない(確信)ですが、曲単体ではヘビロテしてしまっています。なんだかんだ私は品のないゴリゴリな音も好きなんだなぁと。安室やあゆのように癖のない工業ボイスなのが意図せず「エイベックス的なもの」への内からのアンチテーゼになっているのも良し。洋楽を和訳しただけのようなダンスグループ的J-POPやシティポップの幻影を追うフニャフニャなロックが溢れる現在の日本音楽業界ですが(すみません)、このようなアプローチが登場することは一種のハプニングとなる、かもしれません。今の時点では悪辣なコメントの蝿が集るに留まっていますが…。ともかくメジャーに亜流のメジャーで特攻する、そしてそれを否応なしとする安斉、その心意気に惹かれました。できれば直ぐ、もしくは後に何らか形ある評価が成されたらいいですね…。あとギャルカルチャーにおけるVaporwave風オシャレはVaporミームと同じなのでどうか一刻も早く撲滅してください。

 

 

中級な収穫まとめ その4

こんにちは、中級収穫のお時間です。

このようなレビューブログを始めて、ディグ熱が始める前より常時高まっているのは確かなのですが、幾つか大きな問題があります。

①聴取がディグに到底追い付かない

→手に入れたことで満足して放置されている音源がウォークマンにたんまり

②自分のディグ成果だけでなくツイッター等で見かけた他者のディグ成果物も気になる

→聴いてない音源がたんまり

③カセットテープやVHSのディグにも勤しんでしまっている

→視聴していないメディアが…以下略

④結局「新しく入手した未知のもの」よりも「滅茶苦茶お気に入りな既知のもの」の摂取が常に優先されてしまう

→以下略

という感じです。要するに情報過多という…。皆様の中にも同じような悩みをお持ちの方がいらっしゃると思います。もし逆に「自分はディグ成果物をコンスタントに片付けてるよ~」という方がいらっしゃいましたら貴方様は偉いです、マメです。

いつか友人が「人間の寿命を考えると、例え全ての時間を音楽聴取に当てたとしてもこの世に存在する○分の1(忘れた…)も聴けないんだよねぇ」と言っていたことを思い出しました。あるコンテンツに興味を持ち行動を起こせば起こすほど堪らない無力感に苛まれるのです…。そんな辛いならやめちまえ、とは決して思いませんがね。皆さん、善きかつ果てなき廃サロンディグを!

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いつかVHSディグの記事も試しに書いてみようかな。この有り様ですので。


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平山みき平山みきのエキゾチカ大魔境」(1993)

目黒区図書館にてレンタル。平山みきは唯一無二の場末ハスキーボイスを武器に息長く活躍し続ける重鎮女性歌手で、「真夏の出来事」「真夜中のエンジェル・ベイビー」なんかが有名ですね。また近田春夫プロデュース・ビブラトーンズ参加のアルバム「鬼ヶ島」はテクノ歌謡の名盤として各所で頻繁に取り上げられます。

こちらはそんな平山が割と近年にリリースしたカバー主体のアルバム。「モスラの歌」を皮切りにイタリアの「サンライトツイスト」やこの手のアルバムで腐るほど擦られている「夜来香」、「ベサメムーチョ」等々が文字通りエキゾチック、というか森林に埋もれるが如くのアレンジで歌唱されています。彼女の代表曲「真夏の出来事」も2Versionのアレンジで収録。ラストを飾る「たいわんたわわん」日本アジア航空のキャンペーンソングだったそうです。こうして見るとanouta氏の紹介でもお馴染み(?)な美川憲一「Golden Paradise」のような作りですね。あちらも否定しようのない名盤でしたがこちらもなかなかです。90年代のワールドミュージック・ディグの潮流から考えると微妙に時期がずれたリリースだったのでは…と思ってしまいますが現在聴くならそんなことは関係ございませんね。

正直なところ玉石混淆なアルバムであることは違いありません。「真夏の出来事」のカバーのうちの1つはハウスミックスなので「またこれか…」ってだけの印象ですしオリジナルの「たいわんたわわん」も平山の気だるいボーカリゼーションが裏目に出て単にやる気ないオバサン感が強調されてしまっています。しかしながら私の好みからすると思わず目を見張ってしまうような楽曲も存在します。「サンライトツイスト」は原曲から若干BPMを落とした代わりに本来一切用事の無いはずの軽い音のカウベルがガンガン鳴ってますし、ベース主体の重たいアレンジと平山の濃ゆいボーカルと合わさって密林サイケな歌謡曲となっていて最高。「何日君再来」はシンプルなエレピと胡弓が溶け合ったチル味の高く気持ちいいアレンジです。

トレンディものにしてもエキゾものにしても厚化粧な作品が好きな身としてはこの平山×エキゾチカのタッグは評価せざるを得ません。ジャケも調子のいい時の羽野晶紀みたいで美しいですね。そういえば羽野晶紀も当時似たようなジャケでコミックアイドル歌謡やってたなぁ、などと思い出したりします。


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織田晃之祐「NHK日曜美術館」~美術館への誘い」(1996)

こちらは世田谷区の図書館で入手。柴崎祐二氏が彼のブログを元に新宿・du cafeにて開催したイベント「出張CDさん太郎」。そこで柴崎氏が序盤に触れたのが織田晃之祐でした。織田はNHKの元放送用専属劇団である東京放送劇団に所属し番組の音作りに貢献していた人物、だそうです。本作もNHKの長寿番組「日曜美術館」のBGM集。各曲にはゴッホシスレークリムト印象派前後の画家の名前がタイトルに付いています。各画家のイメージミュージックとして作曲されたのでしょうか。しかし内容はそんな周辺情報からは意外な程にシンセなアンビエント。てっきりピアノ小品集のようなものかと思ってたのですが…。しかしこれは嬉しい意外性。まるでプラネタリウムで流れているような雑味のないアンビエントを楽しめます。キラキラとした効果音が眠気を誘い、正に日曜に朝食を食べながらでも聴いて二度寝に落ちてしまいたくなります…。ジャケの朴訥とし過ぎたアートワークと「旧来型アートを紹介するBGMとしては余りにもデジタル」という点を除けば言うことなしな良作。流石に(表舞台で活躍していたとは言えないものの)大御所の作品はケチつけどころ無しですね。


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SWITCH「フルテン」(1995)

秋葉原ブックオフにて280円で入手。いやーずっと探してたんですよコレ。8人組J-FUNKユニット(で合ってるんでしょうか?)であるSWITCH。本作がデビューアルバムで、その後セカンドを発売し自然消滅してしまいました。TBS系で放送された「その筋」ではバイブル的人気を誇るギャグ漫画『行け!稲中卓球部(古谷実)』のアニメ版で2曲のOP曲を担当しており、その関係で知ってたんですよね。稲中のサントラは目黒区の図書館で入手済でその2曲の音源は持っていたんですが、彼らのアルバムも欲しくて3年くらい探したり探さなかったりしてたんですよ(Amazonなんかでは普通に手に入ります)。

件のOP曲というのが「しゃにむにシェイク!シェイク!」と「満員電車ひとめぼれ」。いずれも詞の馬鹿馬鹿しさにデジタルファンクが絡み付いた良作です。驚きなのは前者が元祖ジャパニーズファンクの大澤誉志幸による作曲であること、そして2曲共に作詞がlightmellowbuによるレビューで復権?を果たした「ボーイ・ミーツ・ガール」の尾上文によるものだということです。
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↑「ボーイ・ミーツ・ガール」

https://youtu.be/iuglp6jx0r8

ボーイ・ミーツ・ガール「裸足で散歩」

私、正直「ボーイ・ミーツ・ガール」のポエトリーは「ムリ」だったので手に入れてから一度しか聴いてないんですが、まさか数え切れないほど聴いていたこの2曲も彼による作詞だったとは…。これだからディグはやめられないですね。ファンク感が強いのはどちらかと言うと前者で、若干マジメちゃんしてる詞ながら気持ちいい。後者はパーカッシブで高速な音に満員電車内での劣情をやけっぱちに歌った詞が乗る良作。いずれも稲中という度を超えた不謹慎の塊であるギャグ漫画のテーマソングとしてはうってつけでした。

https://youtu.be/T-B5HiTr5RU

「しゃにむにシェイク!シェイク!」

https://youtu.be/80mduaikG0I

「満員電車ひとめぼれ」

 

本作、この2曲のインパクトと質を超える楽曲は他にありませんでした…残念…。強いて言うなら「たまるか」なんかは若干バービーボーイズ傾向を感じたり「宇宙原人」はまさかのゴスペルアレンジだったりしますが、全体的なお馬鹿ファンクっぷりは2曲以外は平均点ってな具合。lightmellowbuから「ボーイ・ミーツ・ガール」を聴いてしっくりきた方は尾上の別の仕事も覗いてみるつもりでこちらもいかがでしょうか。


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runescape斯凱利「runescape​.​wav符文風景骨架」(2018)

どこでも言及されているのを見ないので本稿とはズレますが取り上げてしまいます。こちらは私が初めて好きになったVaporwave。postVaporwaveの範疇に括られてしまう作品が蔓延する現在においてもコンスタントに正統派Vaporwaveな作品をリリースし続けるBandcamp上のレーベル「Geometric Lullaby」が昨年三作目として発表したアルバムです。油彩で描かれたような小人?のジャケが悪い意味で印象的で、これを見ただけでは聴いてみようとは中々思わないでしょう。しかし中身は上質な「ゲームミュージック」をチョップド&スクリューさせ解像度を極端に粗くしたVaporwaveインスト作品集。いずれもゼルダの伝説に用いられるような、疑似ケルトなBGMを加工して作成されたと思われます。Vaporwave化されたゲームケルトは曇天に覆われた、荒廃した草原や山賊に荒らされた家々、屍の打ち捨てられた洞窟等を彷彿とさせます。それはデジタル遊戯に勤しんでいた大きな子供たちのノスタルジーをトラウマに変換し、似非は結局似非だったのだという諦めを説いているかのようでもあります…。ロビンソン・クルーソーのような絶望感…。

このように記述するとサイテーな感じもしますが、これほど「粗くて綺麗」な音楽も珍しいですよ。パーカッションの反響が強調されているのはVaporwaveではまあ変なことでもないのですが、これが上手く作用し聴者の不安を煽る。どんなホラーミュージックも本作には勝てない、気がします。

PVが最高なので絶対に観てください…!アルバムごと聴きたくなること間違いなしです。

https://youtu.be/6fPQWx66vLc

「Geometric Lullaby」の作品はどれもオススメですのでその他もチェックしてみてください。捨てアカ氏主宰の「Local Visions」と並んで最も好きなVaporwave(界隈)レーベルです。

https://geometriclullaby.bandcamp.com/

 

中級収穫のコラムとしては少ない枚数の紹介となってしまいましたがご了承ください。月が変わる前に一本書いておきたかったので…。また本流のコラムや番外編も含めた新しい記事も書いていきますね。

来月は青田典子×ベッドインの六本木・マハラジャナイトや下北沢・ThreeにてTsudio Studio氏やNECO ASOBI氏を含むLocal Visions界隈によるライブイベントがあって良い8月になりそうです。どんな取り合わせだよ。