廃サロンで手に取るCD

ブックオフ・図書館・TSUTAYAなど「文化の墓場としてのサロン」で入手してきたCDを紹介します。

第10回 おニャン子クラブ「ショーミキゲン」+α

いつもご覧になっていただき誠に有り難うございます。途中で幾度も寄り道がありましたが、大本丸のアルバムレビューのコラムが今回で10回目を達成致します。前回の中級収穫ではアイドル歌謡中心の選盤になってしまいましたが、今回のメインコラムもその延長線上となります。

アイドルは作詞家・作曲家・プロデューサー等にとって何時の時代においても「主戦場」であり「実験工房」でもあります。かつて「テクノミュージック」の勃興の煽り(?)をモロに受けたのは当時のアイドルたちですし、ハイエナジーユーロビートは全盛期以降現代でもアイドル歌謡に何食わぬ顔して取り入れられています。ヘビメタアイドルに演歌アイドル、セクシーアイドルに宴会芸アイドル(「アレ」は果たしてアイドルだったのだろうか?)…。それらの殆どはギョーカイの策略であることに違いないですが、近年叫ばれている「ジャンル枠組みの解体(音楽のジャンル分けなんてくだらねぇ!っていうアレですね)」「多様性への肯定」等のショービジネス上での実践であるとも見てとれます。例えその末に生まれ出づるものがクズ同然でも…。多くを認めるということは非を是とする苦行でもあるのですよねぇ。

至極当然かつアナーキーな内容の前置きになってしまいましたがともかく始めていきたいと思います。


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おニャン子クラブ「ショーミキゲン」(2002)

ポニーキャニオン

渋谷TSUTAYAにてレンタル。特に希少盤でもなんでもないんですが、初めて聴いたとき色々と感慨にふけってしまったので紹介致します。

本作はハロー!プロジェクト全盛期(と言うには若干後期?)な当時において最早「伝説のアイドル」と化していたおニャン子クラブの幾度目かの再結成時に15年振りにリリースされたシングルです。1985年、フジテレビ系列「夕やけニャンニャン」から誕生したおニャン子クラブは、アイドル業界で殆ど初の「素人っぽさ」「超多人数」というコンセプトを携えて当時のオタク共の度肝を抜きました。「セーラー服を脱がさないで」や「バレンタイン・キッス」は歌詞の内容にも関わらず一般にもヒット。しかし「夕やけニャンニャン」終了と同時にあっけなくも解散。2年という短い活動に幕を降ろしました。その短命ぶりもあり、ファンにとっては「同級生と一緒に行事に参加している」という感覚であったのかもしれません。おニャン子からは国生さゆり工藤静香、(現演歌歌手の)城之内早苗など近年でも精力的に芸能界で活動している人物も誕生しましたね。まあまあ、こんな当たり前な話は正直別に要らないわけです。

本作には当時のおニャン子所属メンバーのうち15名が参加。かつてのおニャン子クラブが(今のインスタ的なものでなくあくまで当時の)パステルカラーなダサダササウンドの楽曲を多数発表していたのに対し、こちらはハードめなギターサウンドを主とした音作りになっています。特に間奏の粘りけのあるギターソロを聴いていると、中後期シャ乱Q(「NICEBOY!」や「君は魔術師?」の頃)のはたけによるジャンクな味付けのギターサウンドを思い出さざるを得ません。おニャン子つんくサウンドが垣間見れるというのは不謹慎な感じがして面白いです。うしろゆびさされ組うしろ髪ひかれ隊等で猛威を振るっていたゴツグによるものともまた違うような、ともかく変態的なアレンジの為された楽曲であることに違いありません。

歌詞に着目しますと、これほどグロテスクなアイドルソングもなかなか無いのではないでしょうか。「オバサン」に差し掛かったおニャン子のメンバーがあの頃の痴態を懐かしみ、今との価値観の変貌を告白する、というような内容なのですが、これがおニャン子のどの楽曲と比べても「セミプロの楽屋裏感」丸出し。歌詞考察のようになってしまい非常に不愉快ですが、1つづつ取り上げていきたいと思います。

「女も若けりゃそれだけでチヤホヤされてたお刺身のままで 二十歳過ぎたら魔法が解けて焼いたり似たり…」

何故「魚」なのか…?「猫」だからか…?まあ実際「ナマモノ」ということなんでしょうが、お刺身とか焼いたり似たりという表現がなんともグロくて「レプリカント」と例う以上の血の気を感じてしまいます。

「青春のショーミキゲンは想像の花びら」

演歌のような気持ち悪い婉曲表現で結構好きなんですが、意味はゴリゴリに不明ですね…。三十路独身女性になれたら分かってくるのかもしれません。この直後のサビ締め「だからもっと欲を綺麗に咲かせて…」もドロっとしてて好き。

「恋愛のショーミキゲンは思いやりのマラソン」「ロマンスが終わっても愛はそれから そしてずっとそばにいたいか聞かせて」

こちらは一番のサビに比べると安易に「深いなぁ」などと思い易いというか、面前とおニャン子とは貴方にとって何だったのかを問うていますね。すっかり熟れてしまった情熱は吐き出したくなるような苦味になるのか、或いは各々の秘めたる性癖になるのか…。

その他にもかつて「男の子」「女の子」が多用されていたのに対し平然と「男」「女」となっている部分や、フニャフニャとした覇気のない感じで現代の若者に「21世紀は任せたわ」と歌う部分など気になるフレーズは幾つもありますが、ベースとなっているのは「あの頃感」溢れる、意志・主張のないアフレコ的な可愛げフレーズ。この混ざり合いがグロテスクな印象を与えるのでしょうね~などと単体で聴くと思う訳なんですが。

 

おニャン子は消費アイドルのはしりなどと言われることも多いですが、その手の評論をサラッとしてしまう方は女性が歌うムード歌謡・お座敷小唄なんかを忘れちまってるんでしょうね。ただプロ・セミプロ感を多勢によって薄めている(婉曲表現の有無という意味でも)だけで、別に彼女たちがいかがわしさの権化としてのアイドルを開拓したということもないような気がします。しかしながら本作は前述の通り「セミプロの楽屋裏」として機能するフレーズが散りばめられています。「あの頃」ぽい「おあつらえの無垢」をセルフカバーしたフレーズと混合されていることでさながら水野晴郎によるカルト映画の金字塔「シベリア超特急」における2度・3度と繰り返される大どんでん返しのような締まらなさを感じてしまいますね。されどおニャン子にはこのくらいの締まらなさがお似合いだったのではないでしょうか。2年間の淡すぎる行事は今でもファンの中で不定期に補完されていくのです。それは特番で観られるちゃちな「同窓会」企画でなのか、或いは各々のソロ活動を応援する中でなのか、そこまではリアルタイムのファンでないので汲み取りにくいですが…。

後はゆうゆこと岩井由紀子の声が目立ち過ぎて聴く度に笑っちゃうんですよね。当時34歳と結構な歳(失敬)なはずなんですが、なんですか、あの幼すぎる声色は。「諦めてしまったらそこで散るだけ」というワンフレーズのみなだけに癖になってしまいます。

 

https://youtu.be/yhXph4WElKE

おニャン子クラブ「ショーミキゲン」

↑はPVと思われる映像です。曲前にコメントを述べているのがゆうゆです。こうして見ると山瀬まみ感あるな。

それにしてもほとんどのメンバーが茶髪ですね。時代の移ろいを後追いしつつあの頃にしがみつきたい、というパブリックイメージに沿ったビジュアルの為に茶髪にさせたのではなかろうかとすら勘ぐってしまいます。

 

この楽曲を聴いて抱いたものと似た感情を呼び起こす楽曲は恐らく幾つもあるんでしょうね。筋肉少女帯の25周年記念楽曲「中2病の神ドロシー」という曲は「バンギャとして四半世紀追いかけてきたバンドがある日突然消えた。というか「そんなバンドはこの世に存在しなかった」ことになっていた。25年観ていたのは自分の影だった…」という音楽ファンには怖すぎる内容の世にも奇妙な物語ですが、こちらもあるグループによって人生を狂わされた者たちに、節目という享楽の中に潜む「時間の経過の残りカス」という命題を突きつけたという意味では似通っています。

https://youtu.be/ydX3d1YfVLc

筋肉少女帯「中2病の神ドロシー」

 

また、先日(少なくとも私の印象としては)ゲリラ的に発表されたhitomiの「LOVE2020」も、単なる銭集めのアンサーソング以上に心を蝕むものを秘めていました。彼女の代表曲「LOVE2000」と曲を全く同じとした替え歌なのですが、歌詞がかつてのものよりも老成したものになっています。「ニセモノ(の愛)なんて興味ない」から「ニセモノでも愛せたならそれでいいじゃないの」と、でもかつて「膨らんでばかり」だった夢は「見失ってばかり」に、「食べてみなくちゃ分かんない」ものを「食べてみたら不味かった、けど私の力になっていく」、そんなこんなで「20年経って色んなことが変わって私はここにいる」んですよ~って感じで内容が変遷しております。多分ファンの方以外はわざわざ曲聴き比べる必要もなくこのコラム読んでくれたらそれで終わりで結構だと思います。

曲が替え歌ならPVもちゃんとセルフパロディしろよ!って感じなんですがそんなこともなくチャチな作品になっていて詰めが甘いですね。なんでしょう、この手の感情って「オッサンが世代のアニメをパチンコ化したやつを泣きながら打ってる」感じにも思えてしまうのですが…。とにかく、この「長年追い続けてきたものってこの程度だったのかよ」という憤怒・落胆・後悔の混じりあった感情もまた、この手の楽曲に付き物なのでしょう。

https://youtu.be/V9nTwwDn2kQ

hitomi「LOVE2020」

 

という訳で今回は歴史を歩んできていない者が歴史の終止符にいちゃもんを付ける、という最悪な内容になってしまいました。しかしながら「終わり」のある優美さというものは大事にすべきだと思いますね。「死ぬまで現役!」も結構ですが、醜態を晒しながら駄作量産工場となってしまうグループなんて幾らでもいらっしゃるのですから…。アイドルには文面化されていない有効期限のようなものがあるのでこのように終止符が打たれやすいのでしょうね。

ではこの辺で失礼致します。また次回宜しくお願い致します。

中級な収穫まとめ その3

こんにちは、廃サロン恒例となりつつある寄せ集めコーナーの始まりです。

先日元ハロー!プロジェクト所属の加護亜依辻希美によるユニット「W(ダブルユー)」の13年ぶりのTV歌唱がありましたね。私もそれ目当てでテレビ東京の「テレ東音楽祭2019」という番組を視聴していました。この手の番組ってほとんど「現代の音楽産業で目に見えて稼ぎ頭となっているアーティストの生ライブ」と「昔の歌手の懐かし映像」で構成されてるじゃないですか。で、この番組における後者が平成の歌手・アーティストだけだったんですよ。令和になったんだなぁって感じですね。こういう番組でミポリンの「派手!」なんて流れなかったですよ、ついこの前まで。この件で特にもの申す事がある訳でもないんですが、ともかくこれからは「名曲番組」でジュリーの姿をお目にかかることもなくなるんですね~ってくらいです。

 

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midori takahashi「プラス思考」(1993)

ディスクユニオン新宿店にて380円で入手。その以前にも吉祥寺のブックオフで発見していたんですが500円だったので躊躇して購入を断念してしまっていたので正に邂逅。レーベルは柴崎氏曰く「俗流アンビエント界のブルーノート」な「Della」です。遭遇頻度が割と高い(はず)ので見かけたことのある方やお持ちの方もある程度いらっしゃるかもですが、いや~名盤ですよこれ。マジで毎朝聴いてます。

まずジャケが堪らないですね。プラス思考のイメージとして途方もない階段を登るメタルピクトグラムくん。CG創成期感がビンビンで「狙ってるのか?」と思ってしまうほど。こんなアートワークで「プラス思考」だとさぞかしハードビートなフュージョン寄りのインスト集だと察してしまいますが実際は美メロなピアノ&シンセのアンビエント集。なんと言いますか、この手のアルバムにしては十分に「作品」として成立しているんですよね。長尺(全5曲ですが各曲9分程度です)の「Energy Flow」ばりな「上手」なクオリティのインストが気持ちよく作用し、流し聴いていると心地よい眠気が…。おなじみの「聴き取れない程度のサブリミナルメッセージ」も四か国語で隠されているようです。音色が押し付けがましい「プラス思考」でなく、険しい現状を肯定し抱き止めてくれるかのような、そんな優しい世界観に包まれています。と言ってもある種の俗っぽさは確実に潜んでいて、商業的作品という前提をもって聴くとそれはそれで合点がいく展開ですね。しかしこのような「高尚な雰囲気を匂わせておきながら確実に「音楽作品」としては(恐らく)落第」という作品は最高です。第1回でご紹介した「サロンミュージック」と非常に近しい作風に感じられますが、あちらが多様な色味の楽曲で構成されていたのに対しこちらは全曲テンションが一定です。プラス思考のくせに泣き曲ばかりというか、アンニュイを超越し慕情ですらあります。

俗流アンビエントを掘ろうとしてブックオフイージーリスニング棚をじっと見つめてても「波の音をバックに…」とか「クラシックの名曲の中から効用に合わせて選曲し…」みたいな「温泉かよ」と言ってしまうようなアルバムが殆どなのが現実。ですがこのようなアルバムに出会えると勇気づけられます。私にとっては「作品の効用」より「作品の発見」によってプラス思考がもたらされたような気がします…笑


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ゲンスブール・トリビュート′95~ゲンスブールに捧げる俺の女達~」(1995)

大田区の図書館にて入手。なんですかねこのヒエログリフ調のジャケは。ヌーヴェルヴァーグの教祖として名高いセルジュ・ゲンスブールが手掛けた楽曲を、サエキけんぞう小山田圭吾小西康陽あがた森魚など錚々たる面子のプロデュースにより、細川ふみえカヒミ・カリィ夏木マリなどの歌手・俳優に歌唱してもらう、という企画ものコンピ。この手のアーティストトリビュートアルバムってあんまり好みでなく、本作に関しても全体を通して聴いたことは正直未だにありません。では何故ご紹介するのかというと、細川ふみえが歌う「恋するシャンソン人形」が余りにも最高すぎるからです…。

フーミン、90年代を代表するグラビアアイドルとして余りにも有名ですが、歌手活動も至高なまでにクオリティが高いです。オリジナル楽曲はことごとく「何故?」と疑問視してしまうほど大御所が担当しており、デビュー曲「スキスキスー」は小西康陽福富幸宏コンビ。2nd「にこにこにゃんにゃん」と3rd「だっこしてチョ」の作曲は石野卓球(3rdは作詞もピエール瀧!)。そしてラストシングルとなった「ポチに八つ当り」は大槻ケンヂ作詞でございます。ナゴム界隈を中心とした、いずれも佳作なアイドルテクノ歌謡ですのでそちらも是非。そのいずれでも聴くことのできるのがフーミンの鼻にかかったどこかタリナイ感じのする浮遊ボイス。しかし音痴という訳でもなく、ウィスパーする瞬間などはフーミンにしか出せない独自のセクシーを醸し出していてハマってしまう。アイドルポップとして正しく機能的というか、軽やかなバブリーを堪能できます。

そして本作はそんな細川ふみえのアイドルとしての活動が一段落した頃のカバー。イントロは「ラジャラジャマラハジャー」と聴き違うようなシタール音が響き、直後にシャンソン人形お馴染みのフレーズが切迫したシンセ音で再現されます。原曲のフランスギャルverはなかなか張り上げた歌唱法ですが、こちらは全編前述のウィスパーボイスで貫徹。フランス歌謡曲としての原曲を更にソフィスティケイトさせた優雅で重厚感のあるテクノポップで、カバーとしては無視できないほどのクオリティ。「あえてダサく」としてのアーティストイメージで統一されていた頃のフーミンだけを知った後に聴くとちょっと驚いてしまいますね。極めつけはアウトロ。伴奏がフェードアウトしていく中で、演出なのか照れからなのか微かにフーミンの「フフッ…」という笑い声が聴こえます。これがなんとも「カバー曲」の中で意味深に作用し「してやったり」なのか?などと考えてしまいます。

細川ふみえ、最近だとガキ使や波乱爆笑に出演し貴重映像を生産しているみたいなのですがどちらも見逃してしまったんですよね…。こういうカバー曲なんかを聴いていると願わくばセルフカバーもしくはまさかのバンド結成なんかを「夢見て」しまうんですが…。彼女も結構苦労されているようなのでそっとしておきましょうか…https://youtu.be/poMpAExmeU8

細川ふみえ「恋するシャンソン人形」


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Risky「My life is…」(1999)

メルカリにて500円で入手。廃サロンで取り上げるには多少名の通りすぎたCDなのかもしれません。こちらは1989年にアイドルとしてデビューし、現在ではその過去を感じさせないほどにTheタレントとしてオールマイティーな活躍を魅せる島崎和歌子が発表したシングルです。本作は島田紳助がバリバリ出演していた頃のTBS系列「オールスター感謝祭'99春」内の「放送中に島崎和歌子のシングルを50,000枚完成させる」という企画で誕生しました。放送内で島崎和歌子に企画が伝えられ、困惑の中楽曲発表・レコーディング(エイベックスへの移動中にデモを聴き覚えたようです)・ジャケット撮影等々が進められました(どこまで本当なのかは定かでありませんが)。島崎の本作での名義も番組内のお馴染みの方式(スイッチオン!)によって多数決で決定。それが「Risky」だったという訳です。
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うん、どちらか選べと言われたなら「Risky」ですわね。そんなこんなで企画開始から4時間28分、遂に「My life is…」は完成したのでした。ギネスにも載ったそうですがどんな部門なんだよ。

作詞:秋元康に作曲:織田哲郎というテレビっぽいゴテゴテなキャスティングですが、案の定ビーイングっぽい磐石ガールズポップ作品となっております。島崎和歌子の声ってなんというか、あまりに上手すぎるんですよね。ビジュアルに伴うが如くな、悪く言ってしまえば限りなく凡庸。正統派アイドル氷河期かつバラドル黎明期な90年代にさえデビューしなければ、かつての所属事務所社長が彼女に言ったように「第二の山口百恵」クラスの歌手になれたと信じて止みません、私は。

歌詞を聴き流していると「またアキモトの片手間リリックか」となってしまいそうですが実際そんなこともなく。特にかつての秋元のひねくれは炸裂していませんが、島崎に「愛に囲まれて生きてきたけど独りで歩き出すよ、慰めはいらないよ」といった歌詞を歌わせるのは犯罪的というか、本人もそこまで短絡的な思い詰め方をして生きているとは思えないんですが。サビの「人混みの中じゃ足跡もないよ 生きている証拠がないね」の部分はあまりに澄んでいて・実直すぎて、なんとも鼻血が出そうです…。最高なシングルなのですが、なにしろビーイングぽい曲なのでどうも女の子と恋愛する類いのゲームのテーマソングにも聴こえますね。

和歌子さん、マジで大好きなのでこれからも応援してます。あわよくば全曲集+DVD付きのBOXを再販してください。f:id:rikimikiri:20190625221438j:image

 

https://youtu.be/7QCX-jRV0kE

Risky「My life is…」(うたばん)

このうたばんの映像が一部始終が分かって素晴らしいです。うたばんの空気感って今思えば最高ですよね…。もう一歩なCGの使われ方とか、嵐の大野くんが中居とバトる感じとか…。歌唱用のスタジオが殺風景と神聖さの狭間を行っていて不思議。

島崎和歌子の楽曲、実は既にちょこちょこ収集し始めているので本寄せ集めコラムの恒例行事にしようと思います。第2弾をお楽しみに。


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「Sound LSD SUBLIMINAL SEX XTASY」

蒲田の500円DVD屋さん(レンタル落ちとか売ってるアレです)のワゴンで100円で入手。始めに申しておきますがいやーこれは酷かったです。完全にジャケのデジタル黎明期のヤンチャ具合に惹かれて買ってしまったのですが…。何しろコンセプトが「セックス時のエクスタシーをCDを聴くだけで感じられる」ですから。中身は女性の喘ぎ声のサンプリング音源がハウス風地味ーテクノに被さっている曲が複数のパターン収録されているだけです。それ以上でもそれ以下でもなく、聴き流そうと決め込んだら一瞬もディープリスニングする部分がないというお粗末さ。おまけにアーティスト名が「ヘンリー川原」とかいう監督ぽさ満載な駄名(幽体離脱のCDもリリースしているようです)。

皆さんは例えレコード屋の片隅で見かけても(インテリアという目的が無ければ)決して買わないでください。あっけないですが以上。

 

番外編に相当するコーナーばかりで恐縮です。懲りずに今度は私の好きなダサダサPVを紹介するコラムなんかを書こうと画策してますが誰が期待してくださるんでしょうか。では若干短いですが今回はこんなところで。

第9回 Meredith Monk「Turtle Dreams」


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Meredith Monk「Turtle Dreams」(1983)

ECM 23792-1 E

 

「廃サロン」というあまりにも包括的な概念を打ち出した中で、ジャニスのことをすっかり忘れていました。東京・お茶の水に2018年11月まで存在したレンタルCD店ジャニス(中古CD販売のジャニス2は営業中)、ロック・ワールドミュージック・テクノ・現代音楽・ノイズ等々ジャンルを問わず国内外の希少盤を数多く取り揃え、ディガーの聖地と化していた伝説(と言うにはまだ早いですが)のショップ。視聴可なのは勿論、CD一枚一枚に簡単なレビューが添えられており、まだ見ぬ地への新規開拓を手助けしてくださる姿勢が素晴らしかったです。ジャンル分けが細かいのも棚を見ていてワクワクさせられましたね…(ペンギンカフェオーケストラが「ぼの」だったことだけ無性に覚えている)。しかしながら2018年の11月、音楽業界不況の煽りやダウンロード・ストリーミングサービスの発展の影響、だけではないのでしょうが長年のご活躍に幕を降ろしました。ディガー一人一人が各々の思い出を抱くであろうジャニス。関西にはK2レコードがあるので断言できませんが、聴く側における「音楽」の歴史にあるひとつのピリオドを打つ昨年の重大事件でした。

私個人のことを話しますと、ジャニスにちょくちょく通っていたのは閉店までの2年間くらいだったように思います。元々存在は知っていたのですがその有り難みに気づかず「なんかやたら料金の高いレンタル屋だなぁ」くらいに思い素通りしていました。しかしある時なんとなく訪れてみると(当時は移転前でビルの9Fで経営していました)平沢進P-MODEL関連のCDの充実ぶりに腰を抜かしました。当時私はテクノポップバカとしての比重が高かったので兎に角その辺りをできるだけ沢山借りて帰ろうと、纏めて10枚借りたんだったと思います(KRAFTWERKのブートなんかもレンタルしてましたねぇ、ジャニス狂気すぎるな)。その後も2,3ヶ月に一度は訪れ、現代音楽やalva noto率いるレーベルMEGO界隈、そしてノイズ周辺を中心に借りては毎回ほくほくさせられておりました。で、閉店直前になって小川範子ヲノサトルとコラボしOGAWA名義で出した二枚のアルバム(デカダン倒錯エレポップ歌謡でサイコー、中古で必ず1万前後はする)を発見したり、G-SCHMITTやSodom、黒色エレジーといったポジティブパンク界隈を咽び泣きながらゲットしたり…。最後の最後は在庫販売のタイミングで訪れたんですが、佐藤奈々子率いるSPYの再発盤を900円?で買いました。件のレビュー帯も付いてたので最高の宝物です…。

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スマホに残っていた唯一の在りし日のジャニスです、お納めください。

 

今回は閉店半年の節目として、ジャニスでアーティストの存在を知り現在でも愛聴しているアルバム、Meredith Monkの「Turtle Dreams」をご紹介致します。現代音楽は大好きなものの究極的なモグリかつ割とエンターテイメント性あるものを求めてしまう、現代音楽リスナーとしてはサイテーな私ですが、それでも何か自分にしっくりくるモノはないかとジャニスに行く度現代音楽の棚に齧りついていました。Steve Reich辺りはジャニスに相当痒いところをかきむしっていただきましたね。そんな中出会ったのがMeredith Monk。1960年代よりニューヨークを拠点に音楽、演劇、舞踏等クロスオーバーな活動を続ける彼女は「結局何者?」と問われるとヴォイスパフォーマーだと思っています。唸るような低音から空間をつんざく金切り声まであらゆる声色を使い分け、シラフと欲動と狂気を行き来するパフォーマンスはエネルギッシュなのにクールで、まさしく(あくまでリスナーの観点では)現代アートの良いとこどりな気持ちよさがあります。聴いてると不安感に苛まれるひとの方が多そうですが…。代表曲である「gotham lullaby」はビョークがソロ初期にライブでカバーしていて(それが収録されたブートもジャニスで借りたんでした)有名かもです。

https://youtu.be/SSf0FmXB_6M

こちらがモンクのオリジナルで、

https://youtu.be/876FiSktq_s

こちらがビョーク版です。

 

私がこんなところで語るまでもなく界隈では大御所中の大御所なMeredith Monkですが、その中でも本作が卓越しているように感じます。彼女の作品の殆どは演劇・パフォーマンスで披露するべく制作されたものであり、アルバムもパフォーマンスのサントラと化しているものが多いです。その一方でヴォイスの実験工房に溜め込まれた小作を数多く堪能できるタイプのアルバムもあります。どちらにしても傑作ばかりですが、正直何度も繰り返し聴くにはなかなかエネルギーが要ります…。現代音楽を気軽に聴こうとしてるのがそもそもの間違いなのですが。ですが本作はサントラと小品集の間に位置する作品です。表題曲である約17分の1「Turtle Dreams」の他に収録されているのはソフトに実験的といえる4曲のみで、いずれも最長10分最短1分14秒。「Turtle Dreams」に聴き入っていたらいつの間にかアルバムをフルで聴いていた、ということもしばしばあります。

まずはその表題曲をパフォーマンスと共に視聴していただきましょう。

https://youtu.be/FBlnrRUVfo0

Meredith Monk「Turtle Dreams」

…いかがでしたでしょうか、最高ですよね。もしかして寝てませんか…?

まず特徴的なのは単調であるが故に夢幻的なオルガンの音色。ミニマルミュージックの系譜で語られることも多いモンクですが(Studio Voice No.401「ミニマル」もご参照ください)、ピアノ伴奏の多いモンク作の中ではオルガンを用いたことでよりミニマル度が高いように感じます。「亀の夢」というタイトルやとぼけたパフォーマンスの地盤として使われることで、その音色の「玩具っぽさ」「催眠性」が引き立っているというか、赤ちゃんのガラガラのような心地よさを感じてしまいます。「ミニマル→催眠」という俗物の原体験を否定せず寧ろ温かく包んでくれるような、そんな音色でもありますね。

しかしながら我々を包み込んだ柔らかな布切れを台無しに切り裂くのがモンクを始めとする4名によるヴォイスパフォーマンスであります。そうでした、こちらが主役でした。男女2名ずつによる咆哮と安寧の応酬はそれこそレム睡眠・ノンレム睡眠の関係のよう。主に女性ボーカルが破戒を、男性ボーカルが破戒の興るベースを司っています。しかしながらそれらは何本もの糸のように絡み合い、時にパラレルな位置関係となったと思えば全てがブチブチと千切れる瞬間もしばしば。終盤、オルガンの音色がスッと止みアカペラ(という表現は正しくないに違いないのですが)となる場面は圧巻ですが「夢からの一旦の覚醒」と捉えれば世界観としては当然の流れ。なんともフックの多いヴォーカリゼーションであります。これがインプロの歌唱でないところが面白いですね。モンク達4人はこれを再現できるという…。

また、CDレビューという枠からは逸脱しますが、リンクを貼ったパフォーマンス映像も本作では当然ながら要の要素。足を前後左右に動かしながらささやかに移動し4人の位置関係が変動する。その中に日常の何気ない仕草(髪をかき揚げたり何かを振り払う動作であったり)が付与され、コンテンポラリーダンスしてるなぁとアホみたいにボーッと口が開きっぱなしになってしまいます。しかしミニマルが永続するのではなく、滅茶苦茶に身体を揺さぶる発作のような動きが挟まることで謎の緊張感が増しているようにも思います。「寝相」の示唆なのでしょうか…?あ、あと舞台?が安っぽい気功講習ビデオとか撮ってそうなスタジオなのもグーですね。淡ーいピンクがなおよし。

「睡眠導入」でなく「催眠」といった傾向の作品ですが、何度か本作を聴きながら眠ったこともあるので、そういう使い方も十分に可能な音楽でしょう。眠らずとも瞳を優しく伏せて、硬い甲羅に閉じ籠り眠るチャーミングな生物の見る夢を間借りしてみてください…。

 

本旨の紹介は以上ですが、その他の収録曲もなかなか素晴らしい出来ですので軽く触れたいと思います。

2「View 1」は時にミニマル、時に叙情的なピアノの伴奏をベースとし、そこに機械的加工?(ボコーダーとかではなく風呂場のように籠ったような)の為されたモンクのインプロにも思えるヴォイスパフォーマンスが幾度も挿入される、という形式を取っています。モンク作品としては一番オーソドックスなのですが、他の作品に比べてもかなりメランコリーで眠気を誘発する仕上がりとなっており、本アルバムの中で浮かないようなアレンジです。しかしながら突拍子のないシンセのプリセット音のようなものやハーシュノイズが極僅かに使用されているのを聴くと、単にアンビエンスの世界で終わらせない、モンクの狂気への執着を察してしまいます。特にプリセット音風のサウンドはスーパーボールがパインパインと弾んでいるような音色で間抜けですらあります。これが終盤も終盤で持ってこられるとなんとも閉口してしまいますが可愛らしいので良し。

3「Engine Steps」はその名の通りといった作品で、きっかり2分間トロッコの車輪のような軽いカタコト音を聴くのみ。Interludeの意味合いなのでしょうか、KRAFTWERK的で好きですが何しろ短いのでコメントしようがない。

4「Ester's Song」では可愛らしいプヨプヨしたシンセの音が伴奏で使われています。そこにモンクが「ナ、ナ、ナナナ~」と歌うのみ。こちらが件の1分14秒の作品です。幕間作品が連続するので、アルバムを通しで聴いているとだいたいこの辺りでハッとします。

5「View 2」はタイトルこそ「1」の続編のようですが、大まかな構成以外は全く別物といった印象を受けます。「1」に氷河の上で微かに聞こえる氷の割れる音のような静謐さを感じるのに対し「2」はやや俗っぽく「小屋」といった印象。「1」ではほぼ登場しなかったモンクの低音がベースになっており、乾いたオルガン?の伴奏が何故だか木・森っぽさを匂わせます(個人の感想でしかありません)。鋭利でなく丸みを帯びているので心地よさはありますが「1」の方が圧倒的に好きかな。

 

以上、廃サロン初の洋モノ&現代音楽コラムとなりましたが、伝わりましたでしょうか…?(それだけが不安でならない)ジャニスではもう借りることのできない作品ですが、ユニオン等で時々見かけることもあるのでアルバムとして聴いてみたい方はお探しになってみてください。

Meredith Monk、日本で何度か公演やってるっぽいんですがもう一度来てくれないかな…。テリーライリーの日本公演(フアナモリーナとのジョイントライブでした)を観た身としては可能性はゼロでないと思いたいのですが…。

中級な収穫まとめ その2

ご無沙汰しております。最近仕事の疲労にかまけて、CDをディグっても聴かずにウォークマンに取り込んでおしまいになっていることが多く、記事も書けずにおりました…。その代わりにVHSやカセットテープをサルベージしまくってます。

VHSは元々駿河屋を利用してちょくちょく集めているんです。が、西荻窪にある「月光キネマ」というレコード屋京急蒲田駅付近の「ヒューゴ」というエロDVD屋(土地柄お爺さんが血眼になってました)に音楽系・映画系のお宝VHSがごまんと在庫してることが最近判明し、行く度に指を埃だらけにしながら大量に買いました。ウォンカーウァイの「欲望の翼」や「天使の涙」が格安で買えたり(プラケースが緑や赤でオシャレ!)、バブリー系サラリーマン・OLモノの邦画コレクションが集まってきたり。「収納場所ねぇのにな…」と号泣しながら買い漁っております。

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↑最近買ったVHSたち(一部)。江古田のココナッツディスクで「真夏の夜のジャズ」が1000円で買えて嬉しかったです。手前の左端が件のウォンカーウァイ。鎮座するC.C.ガールズ(滅茶苦茶よい)。

 

カセットテープに関しては、最近知った雑貨屋でポータブルのプレーヤーを800円で入手したことを切欠に集めはじめました。「カセットテープはVHS以上に沼だろうな…」とこれまで2年くらい躊躇していたんですが実際底なし沼でしたね。futurefunk系はあまり集まっていないものの、dangdut(ダンドゥット。インドネシアの歌謡曲)のサイケなカセットを中心に、ポンチャック(韓国のテクノ演歌。いずれ別個に記事書きたい)やその他歌謡曲を集めています。VHSよりかは圧倒的に小さいですが、それでも数が増えると地味に圧迫感ありますよねぇ。

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↑カセットテープはこんな感じです。アジア系のものはレコード屋だけじゃなくてヤバめの雑貨屋でも希に買えるので気が抜けません。

 

そんな感じで非常に収納に困っております。昔読んでた本をブックオフに引き取ってもらっても焼け石に水。スペースが増えた気がして寧ろ諸々買ってしまいます。大袈裟かもですが買い物依存症のケを不安視しつつあります。

 

それに比べると最近集めたCDの量は微々たるもの。図書館やTSUTAYAで借りたものはそれなりにありますが、購入したものはそんなに無かった…かな…?コラム執筆のリハビリ及び最近の無意識ディグのリマインドを兼ねて、ひとつの記事にする程でも無さそうなCDを数枚ご紹介致します。


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榊原郁恵「郁恵自身 -25th Anniversary Edition-」(2001)

渋谷TSUTAYAにてレンタル。「なぜ郁恵ちゃん?」という方も多いかと思いますが、↓を観ていただければ百聞は一見にしかずかと…。

https://youtu.be/ih2jsy1DJAY

榊原郁恵 夜もヒッパレ(ヒットメドレー)

…めちゃくちゃファンキーじゃありませんこと?勿論そういう曲にそういうアレンジを施してメドレー化してるはずなんでしょうが…。更にとにかく歌が上手い。テクニシャンでなく誠実さ故の崇高さというか。あっけらかんとしたパワーを持ちつつも澄んだ声。アイドル歌手がタレント化することの功罪というのは彼らの楽曲が「一般化」してしまうことだと思うんですよね。だから幾ら詞や曲、歌唱力のレベルが高くても聴いててどこか童謡のような気恥ずかしさを感じてしまう。しかしそんな事を言ってる場合ではありません。大御所アイドルたちがfuturefunkを経由するまでもなく何百回も再評価されるのであれば郁恵ちゃんも歌手として再評価されてもいいではありませんか。「夏のお嬢さん」「robot」「アル・パシーノ+アラン・ドロン<あなた」等の(ふざけ倒したタイトルの)ヒット曲達だけでなく、本作発売まで入手困難だった隠れに隠れた名曲も、本boxでは一気に楽しむことができます。郁恵ちゃんの入門編としてはそこらのベストより本気で立ち向かえるので最適だと思いますよ。これを珍盤と見過ごさず、騙されたと思って一度手にとっていただければ少なくとも後悔はしないでしょう。

…まぁ、あの、色々言いましたけど、私はなんだかんだ2000年のホリプロ夏まつり用に制作されたという「夏のお嬢さん(パラパラMIX)」だけが聴きたいがために借りただけなんですが…。でも原曲のイントロに被さるギターの唸りの素晴らしさには勝てないんですけどね。あ、あとブックレットは読みごたえありますよ。インタビューで「同期のアイドルに比べて子供っぽい曲ばっか歌わされて違和感あった」とか言ってます。知りたくなかった。


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土橋安騎夫「FOX」(1990)

ブックオフ自由が丘店で280円で入手。ロックバンド「レベッカ」でキーボードを務め2代目リーダーでもあった土橋安騎夫の2ndソロアルバムです。ポートレートの陰影が強すぎではなかろうかという点を除けば、シンプルにエキゾチックなアートワークだと思います。内容は、これはニューエイジに当たるんでしょうか。ダークなアンビエンスに包まれたインストあり、アクの強いdip in the poolみたいな歌ものあり、小学校で帰宅時間ごろにスピーカーから流れてそうなピアノ曲ありと結構色とりどりな印象です。とはいえ全体を包むのはジャケ通りのエキゾチズム。パーカッションのパコパコした感じがそうさせるのか、シンプルながらエスノなニューエイジといったオーラでアルバムを卵とじできています。睡眠導入にも最適だなぁ、というか俗流アンビエントの気概も感じられますね。正しく歌謡ロックしていたレベッカというバンドのキーボーディストの手によるものとはにわかに信じがたいです。特定のアーティストや団体への印象を唐突に変貌させてしまうのも廃サロンディグのおもしろさですよね、と珍しくまともに締めます。

https://youtu.be/TLc7AB0x2_k

土橋安騎夫「Dividing For Pearls」

 


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夏のあらし!~春夏冬中~キャラクターソングアルバム」(2009)

地元のTSUTAYAにてレンタル。TVアニメ「夏のあらし!」という作品の挿入歌集だそうです、よく知らないんですが。どうやら作品の世界観が昭和らしく、そのせいかキャラクターによる80年代歌謡曲のカバーが毎話登場したそうです。曲目は以下の通り。


1. 夏休み/八坂一(はじめ)(CV:三瓶由布子)
2. ギャランドゥ/村田英雄(グラサン)(CV:安元洋貴)
3. みずいろの雨/マスター(CV:生天目仁美)
4. Romanticが止まらない/山崎加奈子(CV:堀江由衣)
5. ギザギザハートの子守唄/上賀茂潤(CV:小見川千明)
6. 天城越え/カヤ(CV:名塚佳織)
7. コンピューターおばあちゃん/伏見やよゐ(CV:野中 藍)
8. 淋しい熱帯魚/伏見やよゐ&山崎加奈子(CV:野中 藍&堀江由衣)
9. 昭和ブルース/村田英雄(グラサン)(CV:安元洋貴)
10. ハイスクールララバイ/塩谷feat.山代武士&十五流一夫(CV:杉田智和)
11. レーダーマン/穴守好実(CV:小林ゆう
12. 君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。/嵐山小夜子(あらし)&カヤ(CV:白石 涼子&名塚佳織)
13. セーラー服と機関銃/嵐山小夜子(あらし) (CV:白石涼子)

 

ベタでもありつつ時折ドヤ顔で捻ってくる感じが若干ムカつきますね…。でもこの手のアルバムらしくオーソドックスな選曲。内容も正直どうってことないです。でも10「ハイスクール・ララバイ」は結構いいですよ。この曲って打ち込みこんなに高圧的でしたっけ。杉田智和の歌唱も何故か年寄り臭く切迫した感じで、本曲のコミックっぷりを揶揄しているような印象すら受けます。イントロの乾ききったドラムスが割と最高。

こういったアニメのサントラで歌謡曲のカバーなんぞ聴いてると、BPMを高めにいじくってたり生楽器のところを悪びれずシンセで安く再現してたりするじゃないですか。こういうのって「商業futurefunk」とかなんとか呼称付けられませんかね。futurefunk系の系譜台無しになる呼称ですが。大体が期待を越えてこない、でも偶然見つけると聴いてしまう、そんな手垢の付きまくったカバー集‥。

https://youtu.be/QuVqBE_8qm0

生天目仁美「みずいろの雨」


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「With You vol.4」(1991)

ブックオフ国立店にて108円で購入。発見したときブチ上がりましたね、「え、マックのCD!?」と。マクドナルドの店内BGMかなにかが聴けると思い嬉々として即買いしました。帰宅後調べてみるとマクドナルドでやっていたスクラッチキャンペーンの賞品らしく、当時のCMも発見しました。最高…。

https://youtu.be/3MgfYxwebY8

マクドナルド マックCDチャンス」

 

しかしながら内容は大したことないです。単なる洋楽コンピでした。ハートとかMCハマーとか。川平慈英?のブリッヂMCなんかが申し訳程度に入ってるんですが、オマケにもならんですね。強いて言うなら、私は洋楽に疎いので当時のヒットチャート的なものを体感するのにはまあまあなコンピかと…。どっちかというとマクドナルドのロゴが入ったノベルティCDという自己満足の仕方をしております。108円だしね。

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裏ジャケのために買ったようなもの。会社のコピーとして「だから…」ってソレどうなのよ。

本シリーズの中には日本の歌謡曲コンピもあるそうなのでお持ちの方はぜひぜひご一報ください。


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ギリギリ・ガールズ「KISS ME」(1993)

ディスクユニオン新宿にて680円?で購入。ギリギリ・ガールズは、バブル前後に蔓延していたセクシーアイドルグループの一派ですね。C.C.ガールズ(本稿で二回も登場してしまった)とかT-BACKSとか、その辺。主にギルガメッシュないと辺りに出演してたようです。メンバーの一人である吉野美佳ミスチル桜井の元嫁(桜井の略奪婚みたいすね)。その他のメンバーも一般人と結婚したりAV出たりと万別。

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そんなゴシップは本来どうでもいいのですが、この手のアイドルグループに関しては気にしてしまうんですよね。

肝心のアルバムですが、ブックレットにピンナップが付いてたりオマケにケース大のステッカーが三枚も付属してたりと結構豪華。macとか持ってたら是非貼りたかったです。視姦かよ。

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内容は地味めなバブリー。しっかりブラコンしていて耳に幸せですが歌詞が演歌ぽいんですよね。特に1「キスミー・トーキョー」なんかは「暗闇坂」とか「青年してます」とか、マジでどういうセンス?でも人目を忍んでヘビロテしてしまう…。

https://youtu.be/4C99q1BUCI8

ギリギリ・ガールズ「キスミー・トーキョー」

 

青田典子が在籍していたC.C.ガールズはCDやVHSが比較的手に入れやすいのですが、その他のセクシーアイドルグループのグッズは結構価格が高等していて(間違いなくゲテモノ扱い)中々手が届きません。8cmシングルでも2000円はザラなのです。しかしまぁ、ミニアルバムとはいえこの手のブツを安価で獲得できて良かったです。オススメは一切いたしません。

昨今はアイドルのセルフプロデュースが当たり前になってきていると思うのですが、バブリーアイドル系は究極的にそれらの方向性とは逆・裏で、自我のないパフォーマンス集団という印象があるんですよね。それが「良い」という訳でもないんですが、ただアイドルが偶像や塀越しのレプリカントとしてアプローチしようとするのであればバブリーアイドルという方向性はある種最も簡便な手段だったんだなぁ、と当たり前なことに感慨を抱かざるを得ません。奥村チヨの頃から連綿と使われてきたこの手法が今あんまり見受けられないというのは寂しくありますが、そう思うならコンビニのエロ本もガンガン応援しなきゃいけなくなるのであくまで細々とディグっていきたく思います。

 

先日伺った、新宿du cafeにて開催された柴崎氏のイベント「出張!CDさん太郎」で「こういうの(氏がディグるCDの数々)、ハズレばっかですよ笑」と仰っていたのを直に聞き、まだまだ自分は守りに入ってるなぁと思いました。本稿で紹介したCDなんかもなんだかんだ私的には当たりですし、そもそも「これは満足いく内容だろうな」ってジャケのモノしか買わないので…。折角究極の解放区である図書館でもディグっているので、もう少し冒険していく姿勢も必要だなぁとしみじみ思いました。そもそも借りたり買ったりしたCDを積みっぱなしにするなよという自戒も別にありますが…。

後は、1つのコラムで1つのCDを紹介するメインの記事よりはこういうまとめ記事の方が書きやすいので、今後はこちらをメインにするかもしれません。あーでもひっそり予告していたビリー・バンバンの記事はきちんと仕上げたいですね。以上です。長々とすみませんでした~。


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柴崎氏がアロエを紹介してくださってて嬉しかった、の図

番外編 「バブリースケバン」ジャケの世界


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先日、前に駿河屋で買った「ワッツイン!」という90年代J-POP専門誌(恐らく当時の中高生向けのつくり)をザッピング読みしてたところ、↑のような特集記事を見つけました。「ガールズロックのすすめ」。当時はプリプリだのピンクサファイアだの、ガールズロック全盛期でしたもんね。それにしても凄い挿画ですよねこれ、近年のサブカル女子を馬鹿にする数多の図に匹敵するむず痒さです。右端で「ガールズロック主流派」と表現されているスタイルは正にプリンセス・プリンセスに代表される様式です。その左2つ隣は当時のオリーブ女子との掛け合わせでしょうか。いずれもガールズロック前史、つまり「女性歌手=アイドル」という観念しか存在し得なかった頃から一歩抜け出た、当時からすれば稀有なイメージだったのでしょう。きらびやかな衣装で熱い恋模様をロックかつポップに歌い上げる彼女たちは、バンドブームでもあった当時のギョーカイにおける花形だった、とちっとも世代でない私にも容易に想像できます。

それはそれとして、↑の図でちっちゃく描かれているスタイルにご注目ください。いずれも前史における男による不良ロック様式をそのまま女性に当てはめただけの短絡的な風貌。「オンナにもロックできちゃうんだぜ!舐めんなよ!」感。明らかに一ジャンルとして自立していた「ガールズロック」とは異質の存在です。古いところでは「ボヘミアン」でお馴染み葛城ユキだったり、「ちょっとワルい娘」としての中森明菜、そしてメタルクイーンこと浜田麻里だったりがこの界隈なのかもしれません。このようなジャンル、名前がありませんので便宜上誠に勝手ながら「バブリースケバン」と呼ばせていただきます。

バブリースケバンというジャンルも廃サロン的スポットで掘ってみるとゴロゴロ見つかります。私も結構好きで集めているんですが、そのサウンドや歌詞、歌唱法は大体どれも似たり寄ったりです(久宝留理子「男」「早くしてよ」に代表される「男なんて優柔不断でじれったいわ」に尽きてしまう内容)。では何が好きなのかと言うと、ズバリジャケ写です。ジャケの様式もそんなにアーティストやアルバムによって差異のあるものでもないのですが、若さを拗らせ「キッ」とこちらを睨み付けるスケバン風の女の子がデンと写されたジャケの数々は中々見ごたえがあります(淫靡と言えば差別的ですが、まあそういうことです)。内容が似たり寄ったりなのは「退屈」なんですが、ジャケの方法論が一ジャンルでなんとなく統一されているのには「様式美」を感じてしまいます。そこで今回は番外編として(番外編ばっかりで申し訳ない)、「ガールズロック」からはみ出した「バブリースケバン」のジャケを、私のコレクションの中から幾つか観賞していきましょう。サウンドについてはあんまり触れませんがYouTubeのURLは載せていきますのでそちらをご参照くださいませ。


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須藤和美「Be Earth」(1990)

金沢旅行の際にレコ屋にて680円くらい?で入手。バブリースケバン盤を集めるようになったきっかけのアルバムでもあります。

須藤は1985年に資生堂主宰のイメージガールコンテスト参加を切欠にTBS系「モモコクラブ」のレギュラーとしてスカウト。その頃日本コロムビアにスカウトされ歌手デビューとなった経歴を持ちます。最初はアイドル路線だったようですね。本作はそんな彼女の2ndです。

それはともかく、如何でしょう。このジャケ。茶褐色のソバージュヘアを携えこちらにガンをつける姿。オレンジのニット生地かなにかに纏われ表情の全貌は写されていませんが、バブリースケバンジャケの要件は充分満たされています。そして彼女の上方に鎮座するピクセル気味の地球。「BE EARTH」の文字はヘビメタやデスノートを彷彿とさせます。一瞥したところで流してしまいがちなジャケですが、パーツ各々を検証してみるとなかなかに珍ジャケだと感じさせられます。また本作、ジャケよりもブックレットのアートワークがヤバいです。

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このように、CG勃興期というかビデオドラッグというか、エスニック色にイッちゃってるアートワークが楽しめます。「僕らの地球があぶない!」。こういう作品こそ物を所有している喜びがありますね。 

内容ですが、作詞は全作松井五郎が担当。おなじみのヒネクレ歌謡曲ぶりを披露してくれていますが、どの楽曲もタイトルほどのインパクトがなく、アルバムとしてのスタミナに欠ける印象です。ちなみに曲目↓

 

1 冬のないジャパン
2 Newsholicの悲劇
3 ジャンプ
4 ギヴ・ミー・ラヴ…ママ
5 ヒールを履いた薔薇
6 …絶句
7 だ・さ・い
8 派手にやってよ!!
9 気絶するまでパープル
10 ノー・メイク

 

でも須藤のハスキーボイス具合は中々いいですよ。本作以後、彼女は須藤あきらと改名しバブリースケバン道を邁進していくのですが、その前哨戦としての予感を感じさせるようなアルバムでございます。

https://youtu.be/USfN76Mgoes

須藤和美「あきれた夜のジッパー」

本作の音源がYouTubeになかったので、前作「Help」から一曲お聴きください。こちらも松井五郎作詞。

それにしても須藤、イラストレーターのべつやくれいにそっくりですね…。アルバム云々よりもそっちが気になって仕方ありません。


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黒沢律子「Real」(1990)

こちらは目黒の図書館にて獲得。アルバム枚数は界隈の中ではそこそこ多い方な割に情報の少ない黒沢律子のアルバムです。どうですか、この王道感。黒地の上部にはルージュでの殴り書きのような「Real」の文字。下部ではライダース?をひょいと肩に掛けつつこちらにガンつける黒沢。意匠を全く感じ得ない、しかしアルバムや彼女のキャラクターを想像せよと言われれば一直線に伝わってくる「正しい」アートワークだと思います。「Be Earth」よりもこちらの方がバブリースケバン然としていて入門盤(なんのこっちゃ)としてはオススメです。

ただ、肝心の内容は特にハードロック歌謡という訳ではなく極めてディスコティックです。荻野目ちゃんとかMAXの方々とかを、フックなく聴き流させる程度に薄めたような。歌がお上手なだけに凡庸な作品となってしまっています。音色のバブリー感は抜群なので悪くないんですけどね…。

https://youtu.be/Yb9KqhYD7o0

黒沢律子「純哀」

PVありました。イントロ然り舞台しかり、完全にマイケルの「Bad」じゃん。


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斉藤さおり「Loose」(1990)

なんかここまで全部1990年の作品ですね。いや特に縛ってないんですが。バブリースケバンの中で私が一番好きなアーティストである斉藤さおりのアルバムです。こちらもまた目黒の図書館にて音源入手。

斉藤は1984年にミスセブンティーンにて準グランプリを受賞したことを期に芸能界入りし、その後は暫くソロで歌手活動。1993年には麻倉晶と改名し、1996年にはデジロックバンドのRomanticModeにボーカルとして参加。バンドのデビュー曲「DREAMS」はテレビアニメ『機動戦士ガンダムX』のOPテーマとしてオリコン初登場10位とヒットしました。バンドの解散後はライブを中心に現在まで精力的に活動しているようです。RomanticModeも世紀末におけるJ-POPバンドとして語りたいポイントの多いバンドなんですが、今回は関係ないのでパスします。

アートワーク、決してバブリースケバンとしてはベタな作りではないんですが「バブリースケバンってこういうのだよ」と説明しやすいインパクトがありますね。ケバいメイクでソバージュ気味の女が黒いドレスを纏いガニ股で佇んでいる。立ち塞がっているような、品定めをされているような…。スケバンを通り越してバブリー娼婦盤とすら言い得るものがあります。シンプルなだけに斉藤の姿が全てを物語っていて明快なジャケになっていると思います。

内容も基本的にはバブリースケバンしています。ギターの歪み具合が毎度毎度ちょうどよく商業的で、ドスの効いた(しかし何故か都会的な)斉藤の歌声に素晴らしく絡み付きます。表題曲の役割を果たす7「Loose you」はギミック無しの王道バブリースケバン楽曲となっています。

https://youtu.be/6F1TDJ7IZU8

斉藤さおり「サソリスト

シングルカットされた4「サソリスト」も、タイトルからもう良いですよね。本作のジャケの斉藤=蠍というイメージは合点が行くというか、毒だよなぁというか、やっぱり本作はバブリー娼婦盤だったかもしれません。


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木村恵子「M」(1990)

またもや1990。トレンディ歌謡界隈ではどメジャーである木村恵子のラストアルバムです。1988年のデビューに際して発表した1stアルバム「STYLE」が有名で、2017年にはレコードで再発されました。鈴木茂松本隆湯川れい子杉真理門あさ美等が参加した豪華盤であり、ボサノヴァ、ソウル、メロウ、そして歌謡曲のエッセンスが軽やかに混ぜ合わされた名盤です。そちらについては「ラグジュアリー歌謡」をはじめ様々なメディアで触れられておりますのでそちらをお読みいただくのがよろしいかと思います。

対して本作「M」は「ファンキーに倒錯」という主題が伺える、トレンディ盤とは中々言いがたいアルバムとなっております。木村の持ち味であるコケティッシュボイスが影を潜め「ややハスキー気味なお姉さん」くらいの凡庸度に留まってしまっているのは本作品ならではか。それでも2「Yな関係」(短めのイントロがドリフの早口言葉のアレにしか聴こえない)ではファンク歌謡、4「好きになってゴメンネ」ではカリビアン歌謡、といった具合に、アートワークから可能な範疇の予想を上回る多彩な楽曲で飾り立てられたアルバムとなっております。ガールズロックの「ガ」の字もありません(サウンドが想定通りと言えるのは8「ないものねだり」くらい)。フックは少ないもののまあまあ良作です、が木村の作品を聴くなら間違いなく他の三枚のいずれからかにした方がいいです。

ジャケは立派なバブリースケバンとして成立してるんですけどね。不穏なオーラを放つ空間の中少女趣味全開のオブジェクトに囲まれ挑発してくる木村。左の欧米人女性、特に誰でもないみたいです。ユニットアルバムなんかでもありません。そして中心に血痕で縁取られた「M」。ちゃちに作られたゴシックパンクモノか何かに見紛わらせる要素ばかりです。内容からいえば本稿で取り上げるべきでないアルバムですが、あくまでアートワークについての回なので触れておきました。とりあえず木村恵子を未聴の方は「STYLE」を聴きましょう。

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木村恵子「STYLE」

 

と、まぁこのようなアートワークを持つアルバムを私は「バブリースケバン」というジャンルで呼ぶことに致しました。ジャケの粗雑さ・有象無象さから割と投げ売りされていることも多いので、ご興味のある方は収集してみては如何でしょうか。

…後、斉藤さおりの部分で触れた「バブリー娼婦盤」の方が腐るほどありそうですね。そちらも機会があればコラムにしたいと思います。

 

第8回 彩裕季「Heartstrings」


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彩裕季「Heartstrings」

ポリドール POCH-1274

 

今回ご紹介するアルバムは、言うなれば「玉虫色、またはカメレオン柄に飾り立てられたアルバム」です。軽く流し聴くと単調な作集にも思えるのですが、聴く角度や曲ごとのアレンジによって幾つもの異なる印象が立ち表れてくる。その印象たちはいずれも「どこかで聴いたことあるな」に繋がってしまうのですが。しかし文化とは「唯一無二」であることばかりを重んじていればいいものでもありません。(それが意図的でなくても、)受け手の持つ価値観によって多様な印象を柔軟に与えてくれ、かつ様々な「既存」を想起させてくれることでそれがある種の安心感にも繋がる…。「ありきたり」がいけないのではなく、「ひとつのありきたり」しか与えてくれないものが「つまらなさ」を産み出すのです…。はて、私は何に対して憤っているのでしょう。

要するに、今回のレビューでは「…に似てる」が連発されるのでご了承を、ということを言いたかったのです。

 

彩裕季(あや ゆき)、彼女は80年代海岸系シティ歌謡界の超メジャー歌手である今井優子を姉に持つシンガーです。姉が角松敏生プロデュースの元でバリバリのシティポップ・ディーヴァとして活動したのに対し、彩は今一つ地味な印象を受けます。リリースしたアルバムはたったの二枚。しかもシティポップに傾倒していた訳でもなく、純真無垢な歌謡曲路線。フューチャーファンクのネタに使えそうな持ち曲はゼロです。ただ、その透き通るような、しかし確かな重み・温もりを感じさせる歌声は必聴モノです。彼女自体の印象は、同時期のアーティストで言うと辛島美登里なんかに近いかもしれませんね。しかしこの印象は、本作の中でもコロコロと移り変わっていくのです。

本作はだいぶ前に新宿ブックオフの280円コーナーで発掘したんだったと思います。ピンクのイメージの中で女性がアンニュイに佇んでいるジャケが気になり検索すると、(前述の通り)当時anoutaさんの「トレンディ歌謡に抱かれて」の影響でハマってきていた今井優子の妹のアルバムだと!割と運命感じましたよね。

 

さて内容ですが、まず参加陣の豪華さよ…!歌謡界の御大である来生たかお来生えつこの来生夫妻をはじめ、瀬尾一三もアレンジで一曲のみ参加、そして何よりこっちでも角松敏生が作詞・作曲で二曲参加しております(検索かけるまで気づかなかった)。しかしアルバム全体を通して、跳び跳ねるような激しいアレンジは皆無。しっとりと聴かせるThe歌謡曲に傾倒しきっています。ただそこには特定の時代感がなく、いや2000年代以前であることは分かりきって聴けるのですが、いかにも「90年代の産物だ」というような確固たる特徴がでしゃばってきません。アップビート系の曲が無いからでしょうか。ともかく良くも悪くも、単に一度聴いただけでは淡々としたアルバムに感じられます。フックに欠けるというか地味~な印象。しかし二度、三度と聴くうちに幾つかのポイントで「あれ、この感じ何かに似てる…」となってきますでしょう。

まずは声ですね。前述したような特徴を持つ彩の声は「風の谷のナウシカ」のナウシカ役やアニメ版「めぞん一刻」の音無響子役で広く知られる声優界のベテラン、島本須美にかなり近いのです。そりゃあそういうシルキー系統の声でディスコテイックな曲は難しいでしょうに、と特定の方々には想像していただけるかと思います。島本の声がなんとなく分かる方に「島本須美が90年代に出してたトレンディ・メロウのアルバムだよ」と騙し聴かせても恐らくバレないんじゃないか、という自信さえあります。80-90年代の日本アニメーション発展の一助を担ってきた彼女の声に近い、という要素は深掘りしていくと面白そうですね。そういうコラムではないのでやりませんけど。

(島本須美にもトレンディ期のアルバムがあるんですよねー、どうにもオーガニック過ぎて個人的にはそこまでなんですがどっかで触れたい)

次は「何かに似てる」の曲調編です。まず6「さよならを巻き戻して」ですが、イントロのシンセリフで何かを連想させます。さらにサビのコーラスによるダブルヴォイスの淡々と、かつ優しく切ないメロウな感じ。これ、完全にあみんの「待つわ」じゃん!女性デュオによる泣き歌として殿堂入りを果たしている感のある「待つわ」ですが、こちらはそれよりも若干大人の恋愛感情を、わりかし軽やかに詞・曲・声で描きあげています。YouTubeに上がっていないのでお聞かせできないのが無念でなりませんが、本作をゲットした暁には是非この「あみん感」を味わってみてください。

また、本作を締めくくる9「Will you wait for me」(こちらが角松敏生の作品ですね)、この導入のエレクトーン的シンセのフレーズ、そっと刻み始めるパーカッション、正にメロウと言って差し支えない完璧な美しさを携えています。ただ、この導入部がどうにも90年代のcocteau twinsに聴こえてならない…!「あれ、cocteau twinsがバックバンドやってるのか」ってなります。イギリスのインディーズレーベル、4ADの看板バンドであったcocteau twins。80年代には歪んだギターとエリザベス・フレイザーの魔女がかったボーカルが特徴であったのに対し、90年代には若干ポップでアンビエント的アプローチの楽曲が多くなり、そのような作風を詰め込んだ「Heaven or Las vegas」は彼女達の代表作となりました。そんな当時のcocteau twinsのイントロの作風に、本曲の導入部が酷似。角松やアレンジャーの小林信吾(トレンディ界隈の頻出人物)が何を思ってこのようなイントロにしたかは定かでありませんが、時代的なもんなんでしょうか。もちろん本編も最高です。メロウな味わいを最後まで保ちつつ、夢心地のままにアルバムを締めてくれる、これほどラストに相応しい楽曲というのも珍しいのではなかろうか、という作品になっております。

https://youtu.be/EJPjoFOuJmE

 

cocteau twins「Oil of angels」

cocteau twinsの方しかYouTubeに上がってませんでした…。この曲のイントロがマジで似てます。

 

いい加減YouTubeに上がってる本作の曲についても触れておきましょうかね。6「鳴らないベルに揺れる夜」が、本作で唯一YouTubeにアップされている曲です。こちらでは彩も作詞に参加し、アルバムの調和を乱さずにメロウ歌謡してくれています。しかし悪く言うとどうにも演歌っぽいような…、タイトルも国武万里の「ポケベルが鳴らなくて」に似てるし…あ、また「似てる」が登場してしまいました。当時のドラマ挿入歌のコンピに紛れ込んでても騙し通せそう。穿って聴かなきゃ結構いい曲なんですけどね。

https://youtu.be/dieKfuFb5Ok

「鳴らないベルに揺れる夜」

 

性格上、(興味のアリナシは別として)姉妹で似たような活動をしている場合、注目度の薄い方に良さを見いだそうとしてしまいます。広瀬姉妹だったらアリスに、有村姉妹なら藍里に(二つの例が酷似し過ぎててすみません)。本件についても、今井優子が近年にも新作を発表し界隈に愛されていることを考えると、私が見つめるべきは彩の方なのかなと勝手ながら思ってしまいます。今井がシティポップ縛りのクラブイベントでかかる夜に、ひとり静かに本作を聴くような人間でいたいものです。あ、今井優子も最高なんですよ一応。そちらに関してはネットのシーサイドに情報が転がりまくってるのでそちらを是非。

ともかく本盤、隠れに隠れた90年代メロウ歌謡としてお勧め致します。皆様の元に届きますように…

 


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今井優子「殺したいほどTonight」

anoutaさんが本作をレビューしてたのが全ての始まりです…!トレンディ歌謡の最高傑作なのでこちらもご贔屓に。

http://ur0.biz/Z3Hn

トレンディ歌謡に抱かれて 第5回:今井優子「殺したいほどTONIGHT」

第7回 WINK「Para Para Wink !」

ご存知の方も多いかと思いますが、WINKが今年で結成30周年だそうです。相田翔子鈴木早智子により1989年に結成されて以降、「淋しい熱帯魚」「愛が止まらない~turn it into love~」を始めとする大ヒット曲を次々連発したWINK。主にハイエナジー調にアレンジされた洋楽カバーをアイドルが歌うという、古典的なやり口ながら王道の縁石を進むようなプロジェクトでした。また、歌唱中殆ど笑顔を見せない等のコンセプチュアルなアイドル像でも注目を集めました。しかしながら1996年に活動休止、その後未だに「解散」はせず今年の30周年を迎えました。昨年は歌番組で一夜限りの再結成を果たしお茶の間を驚かせたのが記憶に新しいかと思います。

余談ですが、私のWINKとの出会いは幼少期に鈴木早智子がセクシーDVDに出演したニュースを見て、なんですよね…。その時はWINKというアイドルデュオのサイズ感を知らなかったので「ふーん」位にしか思いませんでしたが、今思うと中々のニュースでしたよね、あれ。そんなことは今回どうでもいいんですが。

ともかく、WINKは結成30周年という節目を迎え再注目を集めております。Vaporwave界隈からも重宝されており、しばしばFuturefunkトラックのサンプリングネタに使われています。つい先日には、Futurefunkトラックメイカーの大御所であるNightTempo氏がWINKの楽曲を公式にアレンジしたEP「Wink- Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ」を発表し「世界初のオフィシャル公認のFuturefunk」として話題となりました。以下のリンクから聴けますので是非。ある種「妥当」なアレンジですが良くできてるなぁと思いました。原曲の完成度の高さが浮き彫りになるリミックスになっていて素晴らしいです。

https://open.spotify.com/album/11cN7Rtq2oIVeMnfEqErur?si=t3P6z8E7Q56UBkrNLuMWDQ

 

さて、長々と導入を書いてしまいましたが本題へと参りましょう。

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WINK「Para Para Wink!」

fameba! / PSCR-5880

私が(新参な今のところ)一番好きなWINKのアルバムがこれです。2年前位に代官山の蔦屋書店のレンタルCDコーナーで発掘しました。初めて聴いたWINKのアルバムでもあります。まずすごいジャケですよね…。洋モノチックというか、こういうイラストを見ると叶姉妹が海外で発表したアニメの作画を思い出してしまいます。

ご覧になってお分かりかと思いますが、こちら、WINKの楽曲をパラパラトラックにアレンジしたアルバムでございます。↑のNightTempo氏の作品もそうでしたが、こちらも原曲のトラックを元に制作されています。元々WINK自体がハイエナジー・Jユーロなので、それを更にユーロビートアレンジするというプロジェクトには色々思うところがありますね。「マシマシ」であり「味濃いめ」であり…。「アイドルソング」を深化させたジャンルで作品を作り上げてきたWINKのリミックスとは、どこぞのアイドルのリミックスと意味合いが違ってくるのです。

ジャケ及びコンセプトからなんとも取っ付きにくそうな本作ですが、これが聴いてみると最高傑作。楽曲自体の素晴らしさは原曲を聴けば分かるので割愛しますが、パラパラアレンジによりそれらに秘められている狂暴性がドーピングの如く高められています。原曲のWINKはマネキン・ドールに例えられることがありますが、本作の二人は汗だくで絶唱してます。確実に。一度アレンジ版のトラックにのめり込んでしまうと原曲に戻ったときに若干の物足りなさを感じてしまうほどのBPMの高さ・音圧の暴力性。ユーロビートってそういうものなんですが「音楽に気持ちよい程度に殴られている」という印象すら受けます。

淋しい熱帯魚」や「愛が止まらない~turn it into love~」のアレンジも(あくまでユーロビートとして)卓越していますが、「夏のトレモロ」「sexy music」「トゥインクルトゥインクル」といったライトファン以上が有り難がる楽曲も選曲されていて、その何れもがこれまた秀逸です。「泣きメロ」なんて言葉を使うのはこっ恥ずかしいですが、そう言わざるを得ないものがあります。しかし確実に踊れそうな仕様になっているという。いや、本作でギャルが踊ってる姿はなんか見たくないですね。聴き惚れる類のトランスです。オッサン向けでなく、かといってギャルトラでもない、なんとも不安定なアルバムだと思います。リリースが2000年なので第二次パラパラブームの多少前の作品であり、ますます「何故コレが出たのか」が非常に気になるところ。

 

WINKは本作以外にもリミックス作品を幾つかリリースしていますが、大体がハウスミックスで正直つまらない出来になってしまっています。一方こちらはその狂暴性から飛び道具のように使うこともできそう(?)で、今現代に聴くにも耐えうるアルバムだと個人的には思います。やはりジャンル的に古くささは拭えませんが、WINKという世紀末アイドルの持っていたディストピア・スターとしての狂気を浮き立たせるには格好の手法でありましょう。なんかWINKって「終末」のイメージが付きまとっていて(短命だったのもあるんでしょうか)、それがなんとも似合うんですよね。だからこそ良くも悪くもアイドル感が薄いというか。

改めて本作をきちんと聴きなおして、WINKのオリジナルアルバムの方にも真面目に手を出していこうと思いました。最後にソレかよって感じですが、アレンジ盤から聴き始めるのって良くないですよね。すみませんでした。皆さんは最後にここに辿り着いてくださるとよろしいでしょう…。

 

https://youtu.be/Y652ZIZhtk4

WINK「夏のトレモロ

エスノ・サイケデリックWINKでお別れです。