廃サロンで手に取るCD

ブックオフ・図書館・TSUTAYAなど「文化の墓場としてのサロン」で入手してきたCDを紹介します。

第11回 安斉かれん「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」

今年なんか急に夏が爆誕しましたね、それはそうとこんにちは。

先日「シティ・ポップ 1973-2019(ミュージック・マガジン)」と「WA B・O・O・G・I・E(トゥーヴァージンズ)」の二冊のバイブルを買いました。どちらもブックオフディガー近似値地帯に生息する方々には必読な内容になっていますのでまだお持ちでない方は是非。前者はlightmellowbuの方々の尽力により、90'sシティポップの名盤が充実しており、私も早速掲載されていた何枚かを図書館で借りて参りました(買えよ、とかは禁句です)。柴崎氏のブックオフディグについての総括も爽快ですよ~。後者は眺めているだけでなんだかブギーな気分になってくるディスクガイド、というか楽曲ガイドになっておりますね。あくまでレコードがメインなのでDJ向き?読みながらYouTubeでザッピングしてみるのも良さそうですね。あと「浮遊空間(亜蘭知子)」買わなきゃ、という気持ちにさせられました。

 

本題に入ります。

これまで近年リリースされた作品をほとんど取り上げてこなかった廃サロン。そりゃそうですよね、今年出たものが廃れてるはずないもの。しかし、登場の瞬間に既に錆び付いている場合もあります。今回取り上げる作品からそれを教えていただきました。それが悪なのか、もしくはかえって善なのか…皆様の視聴覚で確かめてみてください。


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安斉かれん「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」(2019)

渋谷のタワーレコードにて0円で購入。0円で購入、ですよ。配布じゃありません。レジを通して0円のレシートを貰わないと持って帰れないんです。

令和元日である2019年5月1日にエイベックスからデビューし同時に本作をストリーミング形式で発表した安斉かれん。その後8cmシングルという「今流行り」の手法で同曲をタワーレコード限定で無料販売リリースしました。7月24日には2ndシングル「誰かの来世の夢でもいい」を同じく8cmシングルで無料販売開始しました。短冊シングルフリークの方にはお馴染みかもしれませんね。1stのリリース直後にTwitterで僅かにバズっていたのを見て「欲しいな」と思っていたのですが当初は確か新宿タワレコ限定だったので(新宿のタワレコへのアクセスが不便ということもあり)入手していませんでした。しかし前書きに登場した「WA B・O・O・G・I・E」を買うために渋谷のタワレコに行ったところ普通にレジ前に置いてありまして…。予期せぬ形でタワレコが廃サロンとして立ち上がってきました。念願叶ったという感じですね。

 

まずはPVを観ていただくのが簡潔でしょう。必ずコメント欄も含めてご覧ください…

https://youtu.be/ZnuA2EYEHSw

安斉かれん「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」

…如何だったでしょうか。どうです、酷評でしょう。「浜崎あゆみのパクリ」「あの頃のエイベックスの古臭さが出過ぎ」「たぶん20年前に登場してたとしても売れない」等々。

確かにタワレコで配布されていたインタビュー記事でも「音楽性やミュージックビデオも、何もかもがエイベックスの歌姫たちの系譜と断言できる内容」と評されています。というか火を見るより明らかではありますが。「ポストミレニアルギャル」という(なんのこっちゃ)次世代型ギャルという立ち位置(というかディレクション?)である彼女。そのパーソナリティは純真無垢で「幼少期にストーンズのライブでアルトサックスを見て吹奏楽部に入った」「音楽のレッスンを優先して友達と遊べなかったり卒業式にも出られなかった」、それでも「大好きな音楽の世界で生きていきたい」から努力してきた、そう。じゃあなんですか、この音楽性は。

本作は彼女が16歳の時に制作したものらしく、当時の鬱屈とした思い・寂しさ・悔しさを吐露した内容になっています。歌詞も純真無垢、というか愚直で中学生の日記帳をミスで開いちゃったかのような気恥ずかしさを覚えます。これ故の「ダサさ」を一聴して感じてしまうのは致し方ないかもしれませんが、安斉のインタビューを読んでからだと「愚直って素敵だ…」と擦れ枯らしなはぐれ者には染み入ってしまうのです…

 

アレンジとアートワークの話に入りましょう。本作で私が思ったのは「またオタクカルチャーがギャルカルチャーに「矯正されて」輸入されていくなぁ」ということでした。90'sとVaporwaveのことです。

古くはテクノミュージック。テクノといえば勃興当時は極めてギークなジャンル。機材にかかる資金や技術の高度さは「趣味」という思いがなければ取り組みにくい、金持ちのオタクによる音楽。それが商業化・大衆化する中でディスコ向けのテクノ、すなわち日本ではハイエナジーユーロビートの流れが、世界的にもハウスやらアシッドやらのチャラいテクノが一般的なテクノ認識となったと言っていいでしょう。他の矮小な例としても「AA(アスキーアート)」や「壁ドン」等々、枚挙に暇がありません。元来オタクカルチャーの中にあったものが「可愛い・カッコいい」から採用されたり、間違った意味で(怒りを表す壁ドンが理想のシチュエーションを表す流行語として)採用されたりと、ギャルカルチャー周辺にはそんな野蛮な面があります。恐喝か?

本作のアートワークもこの説に漏れないと思います。Vaporwave的アートワークとインスタ映えは表裏一体だと言われて久しいですし、「最近注目のVaporwaveについて調べてみた!」というようなデリカシーのない記事も最近とうとう出てきてしまいましたね。過剰なネオンカラーにランダム生成の日本語、サイバーパンクにSHIBUYAのイメージ、本作のアートワークも正に「ギャルに横取りされたVaporwave」です。別に本家Vaporwaveの肩を持っても仕方ないんですが、この流れを見ると今年でVaporwaveは正真正銘最後のピークを終えるんだろうなと真剣に思います。NightTempoもフジロック出るし。更にエイベックスの90's歌姫ばりのアレンジですが、これもオタクが(アニソンにおけるものが顕著ですが音楽に限らずの)90'sに注目するようになってきた流れから奪取したきらいが拭えません。暴力的なまでのギラギラシンセにタコ殴りなギター。全然関係ないですが工藤静香の「単・純・愛 vs 本当の嘘」を思い出すアレンジでした。歌詞の幼さとマッチしているようにも絶妙な違和であるようにも思え、車酔いとエクスタシーで揺さぶられているようです…

 

安斉は青春時代に身を削って書き上げた歌詞にこんなアレンジを施されて、しかも8cmシングルで無料販売なんかされてしまって、果たして本望だったのでしょうか?もしエイベックスによる強要のプロデュース戦略でしかないとしたら… 本作のアレンジはats-が出がけています。かつてはHΛLのキーボーディストとして活躍し、浜崎あゆみやAAAの楽曲もガッツリ手掛ける人物でもあります。「本人」の仕業だったんですね…笑 HΛLブックオフディグでよく見かけるんですが聴いたことなかったです。図書館にあるし聴いてみようかな。

 

…と、言いたいことを言い放題してしまいましたが、本作めちゃくちゃ好きです。PVはもう2度と観ない(確信)ですが、曲単体ではヘビロテしてしまっています。なんだかんだ私は品のないゴリゴリな音も好きなんだなぁと。安室やあゆのように癖のない工業ボイスなのが意図せず「エイベックス的なもの」への内からのアンチテーゼになっているのも良し。洋楽を和訳しただけのようなダンスグループ的J-POPやシティポップの幻影を追うフニャフニャなロックが溢れる現在の日本音楽業界ですが(すみません)、このようなアプローチが登場することは一種のハプニングとなる、かもしれません。今の時点では悪辣なコメントの蝿が集るに留まっていますが…。ともかくメジャーに亜流のメジャーで特攻する、そしてそれを否応なしとする安斉、その心意気に惹かれました。できれば直ぐ、もしくは後に何らか形ある評価が成されたらいいですね…。あとギャルカルチャーにおけるVaporwave風オシャレはVaporミームと同じなのでどうか一刻も早く撲滅してください。