廃サロンで手に取るCD

ブックオフ・図書館・TSUTAYAなど「文化の墓場としてのサロン」で入手してきたCDを紹介します。

番外編 「バブリースケバン」ジャケの世界


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先日、前に駿河屋で買った「ワッツイン!」という90年代J-POP専門誌(恐らく当時の中高生向けのつくり)をザッピング読みしてたところ、↑のような特集記事を見つけました。「ガールズロックのすすめ」。当時はプリプリだのピンクサファイアだの、ガールズロック全盛期でしたもんね。それにしても凄い挿画ですよねこれ、近年のサブカル女子を馬鹿にする数多の図に匹敵するむず痒さです。右端で「ガールズロック主流派」と表現されているスタイルは正にプリンセス・プリンセスに代表される様式です。その左2つ隣は当時のオリーブ女子との掛け合わせでしょうか。いずれもガールズロック前史、つまり「女性歌手=アイドル」という観念しか存在し得なかった頃から一歩抜け出た、当時からすれば稀有なイメージだったのでしょう。きらびやかな衣装で熱い恋模様をロックかつポップに歌い上げる彼女たちは、バンドブームでもあった当時のギョーカイにおける花形だった、とちっとも世代でない私にも容易に想像できます。

それはそれとして、↑の図でちっちゃく描かれているスタイルにご注目ください。いずれも前史における男による不良ロック様式をそのまま女性に当てはめただけの短絡的な風貌。「オンナにもロックできちゃうんだぜ!舐めんなよ!」感。明らかに一ジャンルとして自立していた「ガールズロック」とは異質の存在です。古いところでは「ボヘミアン」でお馴染み葛城ユキだったり、「ちょっとワルい娘」としての中森明菜、そしてメタルクイーンこと浜田麻里だったりがこの界隈なのかもしれません。このようなジャンル、名前がありませんので便宜上誠に勝手ながら「バブリースケバン」と呼ばせていただきます。

バブリースケバンというジャンルも廃サロン的スポットで掘ってみるとゴロゴロ見つかります。私も結構好きで集めているんですが、そのサウンドや歌詞、歌唱法は大体どれも似たり寄ったりです(久宝留理子「男」「早くしてよ」に代表される「男なんて優柔不断でじれったいわ」に尽きてしまう内容)。では何が好きなのかと言うと、ズバリジャケ写です。ジャケの様式もそんなにアーティストやアルバムによって差異のあるものでもないのですが、若さを拗らせ「キッ」とこちらを睨み付けるスケバン風の女の子がデンと写されたジャケの数々は中々見ごたえがあります(淫靡と言えば差別的ですが、まあそういうことです)。内容が似たり寄ったりなのは「退屈」なんですが、ジャケの方法論が一ジャンルでなんとなく統一されているのには「様式美」を感じてしまいます。そこで今回は番外編として(番外編ばっかりで申し訳ない)、「ガールズロック」からはみ出した「バブリースケバン」のジャケを、私のコレクションの中から幾つか観賞していきましょう。サウンドについてはあんまり触れませんがYouTubeのURLは載せていきますのでそちらをご参照くださいませ。


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須藤和美「Be Earth」(1990)

金沢旅行の際にレコ屋にて680円くらい?で入手。バブリースケバン盤を集めるようになったきっかけのアルバムでもあります。

須藤は1985年に資生堂主宰のイメージガールコンテスト参加を切欠にTBS系「モモコクラブ」のレギュラーとしてスカウト。その頃日本コロムビアにスカウトされ歌手デビューとなった経歴を持ちます。最初はアイドル路線だったようですね。本作はそんな彼女の2ndです。

それはともかく、如何でしょう。このジャケ。茶褐色のソバージュヘアを携えこちらにガンをつける姿。オレンジのニット生地かなにかに纏われ表情の全貌は写されていませんが、バブリースケバンジャケの要件は充分満たされています。そして彼女の上方に鎮座するピクセル気味の地球。「BE EARTH」の文字はヘビメタやデスノートを彷彿とさせます。一瞥したところで流してしまいがちなジャケですが、パーツ各々を検証してみるとなかなかに珍ジャケだと感じさせられます。また本作、ジャケよりもブックレットのアートワークがヤバいです。

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このように、CG勃興期というかビデオドラッグというか、エスニック色にイッちゃってるアートワークが楽しめます。「僕らの地球があぶない!」。こういう作品こそ物を所有している喜びがありますね。 

内容ですが、作詞は全作松井五郎が担当。おなじみのヒネクレ歌謡曲ぶりを披露してくれていますが、どの楽曲もタイトルほどのインパクトがなく、アルバムとしてのスタミナに欠ける印象です。ちなみに曲目↓

 

1 冬のないジャパン
2 Newsholicの悲劇
3 ジャンプ
4 ギヴ・ミー・ラヴ…ママ
5 ヒールを履いた薔薇
6 …絶句
7 だ・さ・い
8 派手にやってよ!!
9 気絶するまでパープル
10 ノー・メイク

 

でも須藤のハスキーボイス具合は中々いいですよ。本作以後、彼女は須藤あきらと改名しバブリースケバン道を邁進していくのですが、その前哨戦としての予感を感じさせるようなアルバムでございます。

https://youtu.be/USfN76Mgoes

須藤和美「あきれた夜のジッパー」

本作の音源がYouTubeになかったので、前作「Help」から一曲お聴きください。こちらも松井五郎作詞。

それにしても須藤、イラストレーターのべつやくれいにそっくりですね…。アルバム云々よりもそっちが気になって仕方ありません。


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黒沢律子「Real」(1990)

こちらは目黒の図書館にて獲得。アルバム枚数は界隈の中ではそこそこ多い方な割に情報の少ない黒沢律子のアルバムです。どうですか、この王道感。黒地の上部にはルージュでの殴り書きのような「Real」の文字。下部ではライダース?をひょいと肩に掛けつつこちらにガンつける黒沢。意匠を全く感じ得ない、しかしアルバムや彼女のキャラクターを想像せよと言われれば一直線に伝わってくる「正しい」アートワークだと思います。「Be Earth」よりもこちらの方がバブリースケバン然としていて入門盤(なんのこっちゃ)としてはオススメです。

ただ、肝心の内容は特にハードロック歌謡という訳ではなく極めてディスコティックです。荻野目ちゃんとかMAXの方々とかを、フックなく聴き流させる程度に薄めたような。歌がお上手なだけに凡庸な作品となってしまっています。音色のバブリー感は抜群なので悪くないんですけどね…。

https://youtu.be/Yb9KqhYD7o0

黒沢律子「純哀」

PVありました。イントロ然り舞台しかり、完全にマイケルの「Bad」じゃん。


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斉藤さおり「Loose」(1990)

なんかここまで全部1990年の作品ですね。いや特に縛ってないんですが。バブリースケバンの中で私が一番好きなアーティストである斉藤さおりのアルバムです。こちらもまた目黒の図書館にて音源入手。

斉藤は1984年にミスセブンティーンにて準グランプリを受賞したことを期に芸能界入りし、その後は暫くソロで歌手活動。1993年には麻倉晶と改名し、1996年にはデジロックバンドのRomanticModeにボーカルとして参加。バンドのデビュー曲「DREAMS」はテレビアニメ『機動戦士ガンダムX』のOPテーマとしてオリコン初登場10位とヒットしました。バンドの解散後はライブを中心に現在まで精力的に活動しているようです。RomanticModeも世紀末におけるJ-POPバンドとして語りたいポイントの多いバンドなんですが、今回は関係ないのでパスします。

アートワーク、決してバブリースケバンとしてはベタな作りではないんですが「バブリースケバンってこういうのだよ」と説明しやすいインパクトがありますね。ケバいメイクでソバージュ気味の女が黒いドレスを纏いガニ股で佇んでいる。立ち塞がっているような、品定めをされているような…。スケバンを通り越してバブリー娼婦盤とすら言い得るものがあります。シンプルなだけに斉藤の姿が全てを物語っていて明快なジャケになっていると思います。

内容も基本的にはバブリースケバンしています。ギターの歪み具合が毎度毎度ちょうどよく商業的で、ドスの効いた(しかし何故か都会的な)斉藤の歌声に素晴らしく絡み付きます。表題曲の役割を果たす7「Loose you」はギミック無しの王道バブリースケバン楽曲となっています。

https://youtu.be/6F1TDJ7IZU8

斉藤さおり「サソリスト

シングルカットされた4「サソリスト」も、タイトルからもう良いですよね。本作のジャケの斉藤=蠍というイメージは合点が行くというか、毒だよなぁというか、やっぱり本作はバブリー娼婦盤だったかもしれません。


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木村恵子「M」(1990)

またもや1990。トレンディ歌謡界隈ではどメジャーである木村恵子のラストアルバムです。1988年のデビューに際して発表した1stアルバム「STYLE」が有名で、2017年にはレコードで再発されました。鈴木茂松本隆湯川れい子杉真理門あさ美等が参加した豪華盤であり、ボサノヴァ、ソウル、メロウ、そして歌謡曲のエッセンスが軽やかに混ぜ合わされた名盤です。そちらについては「ラグジュアリー歌謡」をはじめ様々なメディアで触れられておりますのでそちらをお読みいただくのがよろしいかと思います。

対して本作「M」は「ファンキーに倒錯」という主題が伺える、トレンディ盤とは中々言いがたいアルバムとなっております。木村の持ち味であるコケティッシュボイスが影を潜め「ややハスキー気味なお姉さん」くらいの凡庸度に留まってしまっているのは本作品ならではか。それでも2「Yな関係」(短めのイントロがドリフの早口言葉のアレにしか聴こえない)ではファンク歌謡、4「好きになってゴメンネ」ではカリビアン歌謡、といった具合に、アートワークから可能な範疇の予想を上回る多彩な楽曲で飾り立てられたアルバムとなっております。ガールズロックの「ガ」の字もありません(サウンドが想定通りと言えるのは8「ないものねだり」くらい)。フックは少ないもののまあまあ良作です、が木村の作品を聴くなら間違いなく他の三枚のいずれからかにした方がいいです。

ジャケは立派なバブリースケバンとして成立してるんですけどね。不穏なオーラを放つ空間の中少女趣味全開のオブジェクトに囲まれ挑発してくる木村。左の欧米人女性、特に誰でもないみたいです。ユニットアルバムなんかでもありません。そして中心に血痕で縁取られた「M」。ちゃちに作られたゴシックパンクモノか何かに見紛わらせる要素ばかりです。内容からいえば本稿で取り上げるべきでないアルバムですが、あくまでアートワークについての回なので触れておきました。とりあえず木村恵子を未聴の方は「STYLE」を聴きましょう。

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木村恵子「STYLE」

 

と、まぁこのようなアートワークを持つアルバムを私は「バブリースケバン」というジャンルで呼ぶことに致しました。ジャケの粗雑さ・有象無象さから割と投げ売りされていることも多いので、ご興味のある方は収集してみては如何でしょうか。

…後、斉藤さおりの部分で触れた「バブリー娼婦盤」の方が腐るほどありそうですね。そちらも機会があればコラムにしたいと思います。