廃サロンで手に取るCD

ブックオフ・図書館・TSUTAYAなど「文化の墓場としてのサロン」で入手してきたCDを紹介します。

第5回 岡部東子「STAY THE SUN」


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岡部東子「STAY THE SUN」

プラッツ P28K-11

 

アルバムの曲全てが、殆ど同じような風景・画を想起させてくることがよくあります。それには、楽曲毎のグラデーションの変化が大きくない、つまり変化・緩急に乏しいから、はたまたボーカルがあまりに特徴的だから、等どっかしらに理由があるのでしょう。それはそれとして、そこで想起される風景がそのアルバムのアートワークの風景そのものという場合も多いはずです。海が写っているジャケ写ならば海岸が、都会的なジャケであれば街の喧騒が…。楽曲だけでなくジャケも合わせた「パッケージ」を以て作品となる、ということでしょう。これは画像だけでなく、PVやカラオケビデオに関しても起こり得る現象ですよね。至極フツーのことですが、音楽は「視」「聴」覚なんですね。

 

つまり何が言いたいか、というとですね、本作「STAY THE SUN」を聴いてると、どの曲からも「夕焼けに染まるアリゾナ?の風景」しか浮かばないってことです。本作はシンガーソングライター岡部東子の2ndアルバム。1989年発表の隠れたトレンディ名盤です。神保町の某古びたレコード屋で700円くらいで入手したんだったと思います。1st「アムネジア」は目黒区の図書館で音源を入手済みだったので(そっちも最高です)、正直ずっと探してた作品でした。

この岡部東子もネットで殆ど情報が皆無でして。写真もジャケでは後ろ姿だったり横向きだったりシルエットだったり。ちょっと気持ちいいくらいの匿名感ありますね。その癖強烈なハスキーヴォイス。掠れこそないものの、墨汁をひたひたにした大筆で書く太い一本線のような(、で分かりますかね)。濃くて、それでいてアーバンなお声。同世代のガールズポップなんかとは一線を画してる、汗っぽくないハスキー。大黒摩季たちとは別物でシャーデーと親戚?なハスキー。匿名性とその内から発せられるエネルギー、そのギャップがいいのかもしれません。

 

「ジャケからアリゾナの夕暮れしか浮かばない」と申し上げましたが、詞と曲は至極トレンディ歌謡として機能してるんです。散りばめられた単語の中に「これは狙いすぎだろ」というようなものはありませんが、強いて言うなれば「ギムレット」「午後のギャラリー」「想い出のフォトグラフ」なんかが丁度良くファニチャーとして佇んでくれている。ラストを飾る9のタイトル「スノー・キャンドルの夜」なんかはちょっとこっ恥ずかしいくらいですが、それもよしです。どちらかと言うと各曲のサビ辺りでソウルフルに絶唱される英詞が素晴らしくアーバンかと。

音に関しては何よりシンセがエレクトーン・フュージョンといった趣で唸ってくれているのがいいですね。ここに夕焼け連想の秘密があるかもしれません。パーカッションは芯がありつつ爽やか。カラフルに各曲を彩ってくれています。1「VACANCY」は正に夕焼けを見つめながら聴きたくなり、4「果てしない時の砂丘で」はサビ入り前のリフレインが素晴らしい。かと思えば5「9月のハリケーン」はキューバンアレンジ(合ってるか分かりませんが)。7「SLOW DOWN」なんかは(他の曲もそうなんですが、特に)夕暮れのドライブにうってつけなやつです。日々に疲れきったサバサバ系女性の気分になれそう。

 

本作を最後に表舞台から姿を消した短命な岡部東子ですが、正直いま聴かれるべき歌手だと思うんです。シティポップの真夏の灼熱青空的軽やかさ・眩しさも最っ高ですが、たまには肌寒い中で夕暮れを黙って見つめましょうよ。という訳で、最後まで本作から夕焼けがこびりついて離れませんでした。夕暮れアーバンポップに絞って漁っていくのも良さそうですよね。

 

https://youtu.be/ZMwO8qD5l14

岡部東子「想い出の瞳

「STAY THE SUN」の楽曲がYouTubeに皆無だったので、代わりに1st「アムネジア」から一曲お送りします。本作の世界観とはちょっとズレますが、ボーカルの張りを感じていただきたいので。この曲も結構ドライブ向きな気がする。

 


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帯の詞の引用の仕方、最高すぎません…?