第6回 ザ・マイクハナサーズ「ザ・マイクハナサーズBEST Ⅰ」
ザ・マイクハナサーズ「ザ・マイクハナサーズBEST Ⅰ 」
音楽に対して捻れた感情を抱いていると、どうしてもどメジャーなアーティストや楽曲から目、というか耳を背ける癖が付きがちです。職場のラジオで、はたまた自宅のテレビで嫌がらせのようにかかりまくる大ヒット曲の数々にほとんどノイローゼ状態になったり…というのも日常茶飯事でしょう(いや自分の話ですが)。しかし、そのように不本意に聴く場合ではなく、「ふと」聴くことになった時、そのような楽曲に不思議なオーラがかかることもありましょう。クラブでDJがオフザケ半分でかけたJ-POPやカラオケで友人が歌う昭和歌謡。それらが状況・テンション次第で、それまでの自分からすればウソのようにドハマりすること、ご経験ありませんか…?あれは結構気持ちよいものですよね。なんかわざと世間から外れたつもりが実は除け者にされていた自分と、明るく光る「世間様」との邂逅のような。これからは時々遊ぶ関係になろうね、という。
本作は正にそんな経験がお手軽にできてしまう素晴らしくチャチなアルバムです。まず「ザ・マイクハナサーズ」って誰だよ。未だに分かりません。恐らく無名の歌手崩れたち、もしくはボーカルレッスンスタジオの先生や生徒の集団じゃないかと予想しております。
内容を端的に言ってしまいますと「昭和歌謡のどメジャーどころを知らん誰かさんたちがメドレーで歌ってくれるアルバム」です。モノマネって感じでもないんですが「癪に触らない程度にちょっと似せて」歌ってます。
最初は、彼らのシングルCDを新宿のブックオフにある8cmシングルコーナーで見つけたのが出会いでした。↓
ザ・マイクハナサーズ「二人でカンパイ!/いとしの海岸物語」
アートワークの無駄な統一感にある種の覚悟を感じますね。ファーストインプレッションは「安っぽいな~~~」というだけでしたが、108円という最低な値段に惹かれ購入。しかし意外や意外なことに割と良い。特にB面「いとしの海岸物語」が。お察しの方もいらっしゃるかもですが、これサザンのメドレーです。(というか、マイクハナサーズの曲のタイトルってこんな感じです。ヒット曲のタイトルぶつ切り&ジョイント。)私はずっとサザンのネオ・不良オヤジ感が大の苦手で、彼らの楽曲も殆ど知りませんでした。しかしこの曲で矢継ぎ早に、かつ半ば強引に捲し立てられるサザンフレーズを受け止めていると「なんか全体的に安っぽくていいなぁ」という思いが沸き起こってきました。声も無理やり桑田に似せてるんですが、普段興味なかった身からするとそっくり。こうして本物とちゃんと目を合わせることなく、なんとなくサザンと邂逅を果たした気になれたのでした。
よく「昔のPAの売店には「流行曲をご本人でない誰かが歌うカセット」なんかが売られていた」という話を耳にしますが、感触としてはそれに近いのでしょう。ただアレのいかにも「騙して儲けてやろう」という印象がこちらからはそれほど感じられませんでした。どちらかというと「ダサい和モノ」というこざっぱりとした印象のみ。ニセはニセなんですが、可愛げがあるというか…。
で、本稿でご紹介する「~BEST Ⅰ」は世田谷区の図書館でレンタルしました。ほんと図書館って何でもあるな。とりあえず曲目を全て下に記しますね。
1.わたしたちどうするの (男女の痴話喧嘩がテーマの楽曲メドレー)
2.飾りじゃないのよ少女A (中森明菜メドレー)
3.なんてったって艶姿アイドル七変化(小泉今日子メドレー)
4.メドレーびんびん物語(田原俊彦メドレー)
5.聖子のウィンク(松田聖子メドレー)
6.ホンダラ・スーダラ行進曲(クレイジーキャッツメドレー)
7.ハートのエースをみせないで(昭和アイドルグループメドレー)
8.プレイバック・Part3(山口百恵メドレー)
9.ブルー・シャトウを君だけに(GSメドレー)
10.グラジュエーション・デイ(卒業ソングメドレー)
馬鹿ですね~。怒りとか悲しみとか爆笑とか、そういったものの残骸としての虚無がここにある。3のごった煮感とか4の迷いのない感じは堪りません。
各メドレーについての詳細は「実際聴いていただいた方が圧倒的に面白い」ので省略しますが、それだとレビューにならないので軽く。2のアキナメドレーですが、「少女A」「1/2の神話」などお馴染みの楽曲の中にしれっと「liar」が紛れ込んでて驚いた。当時の最新作だっけか…?ボーカルはなんとなく艶っぽい人を呼んできたって感じですね。6はここに「クレイジーキャッツのメドレー」が入ってるって事実に意義があるだけで、正直曲としての意義は分からないですね…。植木等リバイバルの頃にリリースされた「スーダラ伝説」があるので、どうしてもその劣化版というか。声も植木ってよりハナ肇寄りで若干スベってる。「スーダラ外伝」の再解釈版と考えればアリ。8はニセ百恵がゴンドラにキレ始めててウケます。9は繋ぎでブルーシャトウに頼りすぎなのであのフレーズ聴き放題。
個人的には3が一番好きです。入りの「なんてったってアイドル」で「おっ、めちゃめちゃ似てるのでは…?」と思わせといて急激に似てなくなる。でもアップとスローの緩急がガタガタで逆にノレます。「艶姿ナミダ娘」の「ポコポコポンッ!」ってイントロの再現が丁寧。他のメドレーは結構長く感じるんですけどこれだけはあっという間に5分が過ぎますね。
「ポコポコポンッ!」ってこれのことです。
本作、聴くというより歌う場面で重宝されてるらしく(そりゃそうなんですが)、YouTubeにもこれらを歌ってみた映像やカラオケビデオそのまま録画しただけみたいな映像しか上がってません。
冒頭で挙げたシングルのA面「二人でカンパイ!」はカラオケビデオにボーカル入りのものを重ねたものがあったので、恐縮ですがそちらをご覧下さい。
それにしても明確に「歌手」ってブランディングの成されていない人々の歌声を聴くの、なかなかよいですね。堺正章なんかが司会やってるカラオケ番組観るのはウンザリなのに…。「ドライブ用J-POPノンストップミックス!!!!」みたいなCD聴く層の気持ちもなんとなく分かるような分からんような。とにかくなんか優しい気持ちになれるアルバムとなっているのは間違いないかと思います。
後は、本作を手に入れて「メドレー」の効用についても考えてしまいました。メドレーって、複数の楽曲毎のサビや気持ちよいフレーズをザッピングしてるってことですよね。その快楽主義かつ刹那主義なところ、実は現代において逆に潔いというか美しいのではないでしょうか。「ザッピングそのもの」が作品になってるという現象、DJMIXとか「名著をマンガで読もう」とかもそうなんでありましょうが(後者は最悪ですけど)、最も昔ながらに我々に定着しているのはメドレーだったのだと。
現実、今日びカラオケでメドレーなんて歌ってる人なんて極僅かなんでしょうが、本作を聴いてみてメドレーを歌ってみたくなりました、私。皆様もカラオケにお越しの際は、ザ・マイクハナサーズのこともちょっと思い出してあげてください。私からは以上です。