廃サロンで手に取るCD

ブックオフ・図書館・TSUTAYAなど「文化の墓場としてのサロン」で入手してきたCDを紹介します。

玉石混淆な収穫まとめ その13

どうも。9月以来更新のペースがぐんぐん上がってきています。この調子で年末までにあと2回は記事上げたいものですが…如何に…。

あ、そう言えば渋谷レコファンについてのエッセイ、廃サロン史上ではそこそこお読みいただけた方なようです。ご愛顧有り難うございます。ややこしいことなく、メインストリームなものも好きなのでああいう単語たちの並びになってしまった訳ですが、読み返すとかなり恥ずかしい…。

さて、今回は図らずもタレントもの2枚をご紹介します。


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ピーコ「恋は一日のように〜ピーコ シャンソンを歌う」(2004)

武蔵中原ブックオフにて290円で購入。タレント・ファッション評論家として、その際の辛口コメントに定評?があり、一卵性双生児であるおすぎと共に活動することも多いピーコ。そんな彼の肩書きには「シャンソン歌手」があったんですね。本作を手に取るまで存じ上げませんでした…。芸能界で似たようなスタンスにある美川憲一越路吹雪淡谷のり子の影響で活動中期ごろ?から本格的にシャンソンに取り組むようになり、数枚のシャンソンアルバムをリリースしたりシャンソン縛りのコンサートを定期的に開催しています。が、それとこれとは至極別。そもそも歌手としてのイメージが一般的には皆無なピーコのシャンソン、これを無視する手はございませんよね。 

ジャケは宇野亜喜良による劇画調の作画。完全にメンチ切ってますね。ピーコに関するイメージが皆無の人がこのジャケを見たらどう思うのでしょう。そういえば美川憲一の90年代にリリースされたリミックスアルバム「Golden Paradise」もペーター佐藤による劇画タッチなジャケでした。

ブックレットを開くとライナーノーツが。そこには彼がシャンソンを歌うようになった経緯が記載されていました。要約しますと、1989年に悪性黒色腫の診断を受けたピーコは、左眼を摘出し義眼を挿入(トレードマークである黄色のサングラスをかけるようになったのもこれが切欠だそうです)。この件で落ち込んでいた彼は、たまたま遭遇した永六輔に励ましの言葉として「シャンソンでもやってみれば?」と声をかけられます。こうして永の人脈によるサポートのもとピーコはシャンソンのレッスンを開始。やがて永の地方巡業等に参加し、人前で披露するようになります。それから約14年という長すぎる時が経ち、やっとこさ本作をリリースするに至ったそうです。ちなみにシャンソン習いたての頃のピーコを永は「シャンソン歌手」ならぬ「シャンソンカス」とステージで紹介し、観衆の笑いを誘ったとのこと。それほど歌手経験のない彼にとってシャンソンは茨の道だったようですね。ただ本作リリース時にはピーコ本人も「シャンソンカス」と自嘲している様相である他、永による直筆の帯コメントには「ピーコはシャンソン歌手か、シャンソンカスか、あなたが決めるCDです。」と記されています。

内容は全曲シャンソンスタンダードのカバー。ほぼピアノメインで、他には数曲でアコーディオンが絡む程度のアンプラグドな構成。そのお陰で(ほぼ本作でしか聴けない)ピーコの歌唱を堪能できます。その腕前は…「カス」とは言わないまでも、かなり「まんまピーコの声」です。シャンソンに必要なある種の演技力を伴った歌声というようなものがどこか欠けていて、朴訥としてしまっています。ただ、それが「演じる」のではなく「語りかける」「朗読する」役割を担うシャンソンシンガーとして作用しているような気もして、地味ながらちょっと癖になります。それでも①「小さな紙片」では跳ねるような、楽しげなピーコを聴けてかなり良い…。病み上がりのリハビリ的な動機でもあったシャンソンですが「出会えて良かったね」という気持ちになります。ただ、これはあくまでタレントものCDならではの評価。私もシャンソンはなかなか聴かないので正当な評価はできないのですが、例えば件の美川のシャンソンアルバムを聴いてみると、その(曲のアレンジと歌唱の)ゴージャスさ・表現力の多彩さに驚かされます。美川とピーコがいずれもレコーディングしているシャンソンの曲に「サンジャンの私の恋人」があります。美川の方は「人生はシネマのように」というアルバムに収録されていますので、究極に物好きな方は聴き比べてみるのも面白いかもしれませんね(適当)。「銀巴里!青い部屋!」を期待するとちょっと違うのがピーコ。

色物な割には聴いててリラックスできるつくりになっているかと思いますので、ブックオフ等で見かけた際は290円なら充分手に取ってみても良かろうかと。


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Kaho(島田歌穂)「ROBIN'99」(1998)

お茶の水ディスクユニオンにて¥350?で購入。少し前に買ったブツなので記憶があやふや。女優・歌手である島田歌穂がKaho名義でリリースした作品です。島田歌穂については正直ほとんど活動内容を存じ上げず、「ブックオフの棚を見つめてるとたまに名前を見る…気がする…」という程度の認識です。1974年にテレビ朝日系「がんばれ!!ロボコン」のヒロイン・ロビンちゃん役でデビュー(これ由来でアルバムのタイトルに「ROBIN」が付いてるみたいです。後述します)、その後舞台女優としての活動をメインに歌手活動もスタートさせ紅白歌合戦には2度出場しているんですね。ちなみに夫が島健だそうでびっくりしました。

さて、島田歌穂についての知識が皆無な私でも思わず手に取ってしまったこの禍々しいアートワーク。祭りの出店のかき氷屋の暖簾色のような、2003年ごろに小学校の男の子が着ていたTシャツのような、そんな色味。この00年代アジアのダサさを煮詰めたようなアートワークにはついつい期待してしまう訳ですが、本作のプロデューサーはなんとあのサンディー&ザ・サンセッツやアジア歌手の輸入盤の監修でおなじみ久保田麻琴。然もありなん、といった所でしょうか。さらに本作にはぼんやりストーリーもあるようで、Wikipediaによると「近未来都市を訪れた宇宙人ロビンを主人公にしたドラマCD」でもあるそう。しかし所謂ドラマCDのように、特に曲間に茶番劇が織り混ぜられている訳ではありません。普通に聴けます。

肝心の作風について。久保田のプロデュースということでコッテコテの似非アジア~な音を期待してしまいますが、アレンジは以外と現実的なところに擦り寄せられています。当時の軽いアジアンポップスに近しいアレンジ…なのかもしれません。なので濃ゆいアジア感や打ち込みバッキバキなものを期待すると少し肩透かしを喰らいます。ジャケの印象よりも遥かに地味。しかし当たり曲も幾つかありまして、表題曲の⑧「Robin'99」は歌モノではありませんがポコポコとした触感が印象的なアジアンテクノ。西田佐知子「星のナイトクラブ」のカバー…ではなく全くの新曲⑪「星空のNightClub」は60年代アーバンテイスト、というか色んな昭和歌謡にそっくり。井上陽水「UNITED COVER」に紛れてても気づかなそう。こちらは正真正銘ザ・スパイダースのカバー⑬「夕陽が泣いている」は重たいパーカッションをバックにしたインドネシアンファンク。マレーシアの国民的女性歌手シーラ・マジッドのカバーである⑭「Sinaran」なんかもあって○です。Interludeである⑦「Robin #2」も1分少々ながらアジアンテクノなインストものと言えるでしょう。

全16曲収録と盛り沢山で色とりどり、しかしながらいかんせん地味な印象なのでうかうかしていると聴き流し終えられてしまう、そんな危険な盤でした。アジアモノに目のない方はカバー曲目当てに手にとってみてはいかがでしょうか。