廃サロンで手に取るCD

ブックオフ・図書館・TSUTAYAなど「文化の墓場としてのサロン」で入手してきたCDを紹介します。

第15回「空のささやき SOMETHING IN THE AIR」


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「空のささやき SOMETHING IN THE AIR」(1994)

 

上野のブックオフにて290円で購入。上野のブックオフと言えば最近見辛くなってしまって…。というのもビルの2F-4Fにあるブックオフのうち、3Fがクラシック・ジャズ・ワールドミュージックetc(イージーリスニング等もこちら)、4Fが邦楽及び洋楽、という風に別れてしまったんですね。これはディグ意欲が削がれる。しかもこれまで殆ど掘り出し物を発掘できた試しのない店舗だったので、この日も「飲み会の前にちょっと寄ってくか」と諦め半分でした。しかし本作は大傑作、大名盤。久々に無理なく「当たり盤」と呼べるアルバムに出会えました。

本作はデンマーク・オーフスで開催されたとある文化フェスティバルのために実施されたプロジェクト・ライブ「Something in the Air」における約3時間半にも及ぶ録音を52分に編集した、一曲のみのアルバムです。トーレ・ワンジャー氏をリーダーとしたザ・カオス・パイロッツ(カオスの飛行士たち)による、「平和な空気をつくり、文化破壊と暴力を阻止する」というメッセージが込められたライブだったそうで、坂本龍一による「ZERO LANDMINE」や「No Nukes」のようなコンセプトを持ったフェスティバルだったのだろうかと想像していますが、イベントそのもののコンセプトに関する詳細はこれ以上出で来ず…。ただライブフェスティバルというよりはアートフェスティバルの側面が強かったようで、以下に引用したブックレット中の文章からそれが窺えます。

「期間中、街の中心部は姿を変え、一年で一番おだやかな雰囲気につつまれることになった。同系色で染められた衣服と拡声器がワイヤーで吊られ、路地に掲げられた。洗濯物に見立てられた、たくさんの服が揺れる光景は、街を行く人にアット・ホームな安らぎを与えた。夕方から夜にかけて、このエリアでは、リラックスして心を和ませる静かな音楽が流され、ほとんど魔法のような不思議な雰囲気が醸しだされた。特に、夜に行われた4人のミュージシャンによるリラクゼーション・ミュージックの生演奏は、「サムシング・イン・ジ・エアー」プロジェクトのハイライトと呼べる最高のものとなった。そのライブを収録したものが「空のささやき」である。」

つまりはデンマーク・オーフスという街ぐるみで、街を包み込むように行われたアートインスタレーションを主としたフェスティバルのようです。規模感までは察しかねますが、装置の説明からしてそこそこ大がかりであった様子。そしてこのイベントの締めとして行われたライブが本作収録の音源ということです。バンドメンバーはギターのMikkel Lentz、ボーカルとキーボードのTurid N.Christensen、同じくキーボードのPer HolmとRishi、以上の4名。リーダーのトーレ・ワンジャー氏は演奏自体にはノータッチです。どの方も名前を存じ上げませんが、本プロジェクトのために集められたニューエイジ・リラクゼーション系のミュージシャンのようです。

ここまでブックレットからの引用をメインに詳細を綴ってきましたが、はっきり言って本作はそのような余計な情報なしに十分楽しめます。浸れると言った方が正しいでしょうか。一言で「究極のニューエイジ・催眠・ミュージック」のひとつに違いありません。本ブログでは何度か申し上げていますが、私は毎朝早い時間に出勤する必要があるため、通勤電車では殆ど眠ることにしています。そこで電車や街の雑踏に気を散らせないため、アンビエントニューエイジウォークマンで(半ば耳栓代わりに)聴いてます。今年の前半は専らBrian Enoの「Reflection」と「Thursday Afternoon」を1日ごとに聴いていましたが、本作に出会ってからはほぼ毎日本作を聴くことにしております。それほどの快作。運命的出会い。一曲52分という時間が通勤時間に丁度合うのも勿論大切な点ですが、それ以上に、他のアンビエントニューエイジ系音楽に私が感じてしまっていた「擦れ」「過不足」のようなものが一切無いところ、ここが睡眠導入という用途に最適だと感じたのです。

キーボード・シンセサイザーの音色が風のように優しく頬に、身体に触れ、悠久の眠りの誘発を予感させます。その風は一瞬一瞬こそ単調なものの、グラデーションを察知させないトーンで揺らぎを変えていきます。そこに絡み付く「鼻歌と吐息の狭間」のような女性コーラスが鱗粉として、ギターがコヨーテの遠吠えとして作用し、雑音やエフェクトでない「波の表情」と静かに受け入れることができます。それらの波紋が主旋律とは正反対に確固たるかたちを持つ故に、一定のグルーヴを形成していることも事実。これらが不思議とまた全く耳障りでないんですよね…。Tangerine Dreamの初期作の前半部(超絶カッコよくなっちゃう手前まで)を微かに彩ったものを52分聴いている感じ?と言ってみたものの、この絶妙なバランスの比喩を他の音楽に委ねるのはどうしても困難。買ってください、皆さん。

 

これはもう断言してしまいますが、本作は私の今年のベスト1です。ブックオフディグにはまだ砂金が潜んでいました。普段ニューエイジ系を聴かない方も、せめてブックオフで見つけたら「買い」だと思います。以下に日本での流通網となったサイトのURLを載せますので、そこから2分だけ試聴してみてはいかがでしょうか。

http://www.takatsukasa-shinri.com/webshop/cgi/smart.cgi?mode=item&page_id=com&no=RG-88

 

皆さんは今年コロナ禍でどんなベスト1を見つけましたでしょうか。あと1ヶ月半もすればネット上でいくらでも見れますが。てかいよいよ今年も終わりです。カタストロフにまみれた1年、私は本作くらいがせめてもの諦めの「つて」でしょうか…。ではまたいつか。