廃サロンで手に取るCD

ブックオフ・図書館・TSUTAYAなど「文化の墓場としてのサロン」で入手してきたCDを紹介します。

第10回 おニャン子クラブ「ショーミキゲン」+α

いつもご覧になっていただき誠に有り難うございます。途中で幾度も寄り道がありましたが、大本丸のアルバムレビューのコラムが今回で10回目を達成致します。前回の中級収穫ではアイドル歌謡中心の選盤になってしまいましたが、今回のメインコラムもその延長線上となります。

アイドルは作詞家・作曲家・プロデューサー等にとって何時の時代においても「主戦場」であり「実験工房」でもあります。かつて「テクノミュージック」の勃興の煽り(?)をモロに受けたのは当時のアイドルたちですし、ハイエナジーユーロビートは全盛期以降現代でもアイドル歌謡に何食わぬ顔して取り入れられています。ヘビメタアイドルに演歌アイドル、セクシーアイドルに宴会芸アイドル(「アレ」は果たしてアイドルだったのだろうか?)…。それらの殆どはギョーカイの策略であることに違いないですが、近年叫ばれている「ジャンル枠組みの解体(音楽のジャンル分けなんてくだらねぇ!っていうアレですね)」「多様性への肯定」等のショービジネス上での実践であるとも見てとれます。例えその末に生まれ出づるものがクズ同然でも…。多くを認めるということは非を是とする苦行でもあるのですよねぇ。

至極当然かつアナーキーな内容の前置きになってしまいましたがともかく始めていきたいと思います。


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おニャン子クラブ「ショーミキゲン」(2002)

ポニーキャニオン

渋谷TSUTAYAにてレンタル。特に希少盤でもなんでもないんですが、初めて聴いたとき色々と感慨にふけってしまったので紹介致します。

本作はハロー!プロジェクト全盛期(と言うには若干後期?)な当時において最早「伝説のアイドル」と化していたおニャン子クラブの幾度目かの再結成時に15年振りにリリースされたシングルです。1985年、フジテレビ系列「夕やけニャンニャン」から誕生したおニャン子クラブは、アイドル業界で殆ど初の「素人っぽさ」「超多人数」というコンセプトを携えて当時のオタク共の度肝を抜きました。「セーラー服を脱がさないで」や「バレンタイン・キッス」は歌詞の内容にも関わらず一般にもヒット。しかし「夕やけニャンニャン」終了と同時にあっけなくも解散。2年という短い活動に幕を降ろしました。その短命ぶりもあり、ファンにとっては「同級生と一緒に行事に参加している」という感覚であったのかもしれません。おニャン子からは国生さゆり工藤静香、(現演歌歌手の)城之内早苗など近年でも精力的に芸能界で活動している人物も誕生しましたね。まあまあ、こんな当たり前な話は正直別に要らないわけです。

本作には当時のおニャン子所属メンバーのうち15名が参加。かつてのおニャン子クラブが(今のインスタ的なものでなくあくまで当時の)パステルカラーなダサダササウンドの楽曲を多数発表していたのに対し、こちらはハードめなギターサウンドを主とした音作りになっています。特に間奏の粘りけのあるギターソロを聴いていると、中後期シャ乱Q(「NICEBOY!」や「君は魔術師?」の頃)のはたけによるジャンクな味付けのギターサウンドを思い出さざるを得ません。おニャン子つんくサウンドが垣間見れるというのは不謹慎な感じがして面白いです。うしろゆびさされ組うしろ髪ひかれ隊等で猛威を振るっていたゴツグによるものともまた違うような、ともかく変態的なアレンジの為された楽曲であることに違いありません。

歌詞に着目しますと、これほどグロテスクなアイドルソングもなかなか無いのではないでしょうか。「オバサン」に差し掛かったおニャン子のメンバーがあの頃の痴態を懐かしみ、今との価値観の変貌を告白する、というような内容なのですが、これがおニャン子のどの楽曲と比べても「セミプロの楽屋裏感」丸出し。歌詞考察のようになってしまい非常に不愉快ですが、1つづつ取り上げていきたいと思います。

「女も若けりゃそれだけでチヤホヤされてたお刺身のままで 二十歳過ぎたら魔法が解けて焼いたり似たり…」

何故「魚」なのか…?「猫」だからか…?まあ実際「ナマモノ」ということなんでしょうが、お刺身とか焼いたり似たりという表現がなんともグロくて「レプリカント」と例う以上の血の気を感じてしまいます。

「青春のショーミキゲンは想像の花びら」

演歌のような気持ち悪い婉曲表現で結構好きなんですが、意味はゴリゴリに不明ですね…。三十路独身女性になれたら分かってくるのかもしれません。この直後のサビ締め「だからもっと欲を綺麗に咲かせて…」もドロっとしてて好き。

「恋愛のショーミキゲンは思いやりのマラソン」「ロマンスが終わっても愛はそれから そしてずっとそばにいたいか聞かせて」

こちらは一番のサビに比べると安易に「深いなぁ」などと思い易いというか、面前とおニャン子とは貴方にとって何だったのかを問うていますね。すっかり熟れてしまった情熱は吐き出したくなるような苦味になるのか、或いは各々の秘めたる性癖になるのか…。

その他にもかつて「男の子」「女の子」が多用されていたのに対し平然と「男」「女」となっている部分や、フニャフニャとした覇気のない感じで現代の若者に「21世紀は任せたわ」と歌う部分など気になるフレーズは幾つもありますが、ベースとなっているのは「あの頃感」溢れる、意志・主張のないアフレコ的な可愛げフレーズ。この混ざり合いがグロテスクな印象を与えるのでしょうね~などと単体で聴くと思う訳なんですが。

 

おニャン子は消費アイドルのはしりなどと言われることも多いですが、その手の評論をサラッとしてしまう方は女性が歌うムード歌謡・お座敷小唄なんかを忘れちまってるんでしょうね。ただプロ・セミプロ感を多勢によって薄めている(婉曲表現の有無という意味でも)だけで、別に彼女たちがいかがわしさの権化としてのアイドルを開拓したということもないような気がします。しかしながら本作は前述の通り「セミプロの楽屋裏」として機能するフレーズが散りばめられています。「あの頃」ぽい「おあつらえの無垢」をセルフカバーしたフレーズと混合されていることでさながら水野晴郎によるカルト映画の金字塔「シベリア超特急」における2度・3度と繰り返される大どんでん返しのような締まらなさを感じてしまいますね。されどおニャン子にはこのくらいの締まらなさがお似合いだったのではないでしょうか。2年間の淡すぎる行事は今でもファンの中で不定期に補完されていくのです。それは特番で観られるちゃちな「同窓会」企画でなのか、或いは各々のソロ活動を応援する中でなのか、そこまではリアルタイムのファンでないので汲み取りにくいですが…。

後はゆうゆこと岩井由紀子の声が目立ち過ぎて聴く度に笑っちゃうんですよね。当時34歳と結構な歳(失敬)なはずなんですが、なんですか、あの幼すぎる声色は。「諦めてしまったらそこで散るだけ」というワンフレーズのみなだけに癖になってしまいます。

 

https://youtu.be/yhXph4WElKE

おニャン子クラブ「ショーミキゲン」

↑はPVと思われる映像です。曲前にコメントを述べているのがゆうゆです。こうして見ると山瀬まみ感あるな。

それにしてもほとんどのメンバーが茶髪ですね。時代の移ろいを後追いしつつあの頃にしがみつきたい、というパブリックイメージに沿ったビジュアルの為に茶髪にさせたのではなかろうかとすら勘ぐってしまいます。

 

この楽曲を聴いて抱いたものと似た感情を呼び起こす楽曲は恐らく幾つもあるんでしょうね。筋肉少女帯の25周年記念楽曲「中2病の神ドロシー」という曲は「バンギャとして四半世紀追いかけてきたバンドがある日突然消えた。というか「そんなバンドはこの世に存在しなかった」ことになっていた。25年観ていたのは自分の影だった…」という音楽ファンには怖すぎる内容の世にも奇妙な物語ですが、こちらもあるグループによって人生を狂わされた者たちに、節目という享楽の中に潜む「時間の経過の残りカス」という命題を突きつけたという意味では似通っています。

https://youtu.be/ydX3d1YfVLc

筋肉少女帯「中2病の神ドロシー」

 

また、先日(少なくとも私の印象としては)ゲリラ的に発表されたhitomiの「LOVE2020」も、単なる銭集めのアンサーソング以上に心を蝕むものを秘めていました。彼女の代表曲「LOVE2000」と曲を全く同じとした替え歌なのですが、歌詞がかつてのものよりも老成したものになっています。「ニセモノ(の愛)なんて興味ない」から「ニセモノでも愛せたならそれでいいじゃないの」と、でもかつて「膨らんでばかり」だった夢は「見失ってばかり」に、「食べてみなくちゃ分かんない」ものを「食べてみたら不味かった、けど私の力になっていく」、そんなこんなで「20年経って色んなことが変わって私はここにいる」んですよ~って感じで内容が変遷しております。多分ファンの方以外はわざわざ曲聴き比べる必要もなくこのコラム読んでくれたらそれで終わりで結構だと思います。

曲が替え歌ならPVもちゃんとセルフパロディしろよ!って感じなんですがそんなこともなくチャチな作品になっていて詰めが甘いですね。なんでしょう、この手の感情って「オッサンが世代のアニメをパチンコ化したやつを泣きながら打ってる」感じにも思えてしまうのですが…。とにかく、この「長年追い続けてきたものってこの程度だったのかよ」という憤怒・落胆・後悔の混じりあった感情もまた、この手の楽曲に付き物なのでしょう。

https://youtu.be/V9nTwwDn2kQ

hitomi「LOVE2020」

 

という訳で今回は歴史を歩んできていない者が歴史の終止符にいちゃもんを付ける、という最悪な内容になってしまいました。しかしながら「終わり」のある優美さというものは大事にすべきだと思いますね。「死ぬまで現役!」も結構ですが、醜態を晒しながら駄作量産工場となってしまうグループなんて幾らでもいらっしゃるのですから…。アイドルには文面化されていない有効期限のようなものがあるのでこのように終止符が打たれやすいのでしょうね。

ではこの辺で失礼致します。また次回宜しくお願い致します。